高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   ユージン・オニールの『霧』朗読劇
   -『喪服の似合うエレクトラ』公演プレ・イヴェント連続講座(3)-      
 No. 2018-025
 

3年がかりの企画で上演時間が6時間に及ぶというオニールの『喪服の似合うエレクトラ』本公演に向けて、プレ講座として講座が開かれてきて、今回がその最終回の3回目という。
講座は3部構成で、第1部は髙山吉張甲南女子大学名誉教授による「オニールと背後の力」というテーマでのレクチャー(30分)。
第2部、オニールの1幕劇『霧』の朗読劇(約40分)。
出演は、篠本賢一(汽船の三等航海士)、鈴木寿和(詩人)、岡本高英(実業家)、立花芽衣(ポーランドからの移民の女)、青木恵(汽船の乗組員、他)。
第3部は、『喪服の似合うエレクトラ』(菅泰男訳)を演出する篠本賢一の司会によるラウンドテーブル(座談)で、髙山吉張、須賀照代、『喪服の似合うエレクトラ』公演のドラマトゥルクとして参加する平辰彦、そしてヒロインのラヴィニアを演じることになっている松川真澄が参加。
今回のプレ・イヴェントの会場はシアターXのロビーで、客席は出演者を三方から囲むコの字型になっており、朗読劇『霧』の場面が漂流するボートの中での出来事ということで、出演者は客席に囲まれてあたかもボートの中にいるかのようになっている。
登場人物たちが乗っていた船が漂流船と衝突して、詩人と実業家とポーランドからの移民の母と赤ん坊が、櫂のない救助ボートで漆黒の霧の中を漂っている。
霧の漆黒の場面を描き出すために会場全体の照明が落とされ、真っ暗中で演じられ、冒頭、いきなり赤ん坊を抱いた母親の天地を引き裂くような叫び声。赤ん坊が死んだのだった。詩人は、赤ん坊が死んでむしろ良かったというが、実業家はそれに反論し、そこから二人の会話が続いて行く。
詩人のペシミスティックな生き方と実業家のオプティミスティックな生き方の人生観の違いが浮き彫りにされてくる。
ボートは流氷と接触寸前のところで、救助船が現われて詩人と実業家は無事救助されるが、赤ん坊の母親は赤ん坊を抱いたまますでに死んでいた。
救助船の乗組員の話では、ずっと赤ん坊の泣き声が聞こえてその鳴き声を頼りにボートを見つけ出したのだという。詩人と実業家は、赤ん坊はとっくの前に死んでいたと言うが、救助船の乗組員はそれを信じない。
この幻の赤ん坊の泣き声は、第1部のレクチャーで語られた「背後の力」そのものを感じさせるものであった。
詩人と実業家の会話の中でそれとすぐわかる『ハムレット』の旅役者による台詞の「ヘキュバ」のくだりがあった。
第3部のラウンドテーブルで、須賀照代の説明でオニールはシェイクスピアをよく読みこんでいるだけでなく、この劇における共通項としの「霧」については、シェイクスピアの霧はシェイクスピアの生地ストラットフォード・アポン・エイヴォンの霧や『マクベス』の荒野の霧に見られるように「陸の霧」であるが、オニールの霧は彼自身が船乗りであったことからも「海の霧」であるという説明が加えられ、非常に参考となった。
朗読劇ではあるが、台本を持っていることを別にすれば、通常の舞台を観ている臨場感のあるリーディングで、その台詞と演技は迫力あるものであった。また、最初に叫び声を発した母親を演じた立花芽衣は、赤ん坊を抱いてうつむいたままの姿勢でリーディングの最後まで同じ姿勢を保っていたのにも感銘深いものがあった。
プレ・イヴェント終了後、今年10月27日(土)、28日(日)公演の『喪服の似合うエレクトラ』は、諸般の事情により6時間の舞台を4時間に圧縮して上演されることが告げられた。


作/ユージン・オニール、翻訳/須賀照代・小俣典子・志水麻衣子、演出/篠本賢一
8月9日(木)19時開演、両国・シアターX・ロビーにて、料金:1500円


>>別館トップページへ