高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   C. a. T第2回プロデュース公演 『煙が目にしみる』      No. 2018-023
 

『煙が目にしみる』は、これまで加藤健一事務所公演で初演、再演と観てきて、今年も再々演を観ることができ、加藤健一のお婆ちゃん役を堪能していたので、異なる劇団で、異なる演出だとどうなるのか楽しみであった。
最初は、どうしても加藤健一事務所との比較になってしまい、舞台が開けた二人の死者の登場場面の空気が小さな空間の舞台であるにもかかわらず何となく冷ややかに感じ、よそよそしい気がして先行きが少し心配になった。
ただ、このことは今思えば、舞台装置の違いからくる印象が大きいと思われる。
というのは、加藤健一事務所の舞台では背景に一面の桜が明るく照り映えていて、それだけでも華やかさの気分が異なっていた。
だが、終わってみれば感動をたくさんもらった素晴らしい舞台であったと惜しみなく拍手をおくることが出来た。
比較という意味では、加藤健一が演じる野々村家のお婆ちゃん役が一番先に来る。
C.a.T公演ではお婆ちゃん役は女優の長島悠子が演じ、笑わせる加藤健一のお婆ちゃんとは対照的でクールであったのが大きく異なっていたが、どちらが良いという良し悪しの問題ではなく、長島悠子のお婆ちゃんも十分に印象に残る演技であった。
喪主の野々村礼子を演じる山本陽子が、イタコになったお婆ちゃんが呼び寄せた夫の野々村浩介に呼びかける涙の絶叫の言葉には、狭い会場から多くのすすり泣きの声が聞こえ、自分の眼がしらも熱くなるほどの熱演、好演で、演技を超えた感動がそこにはあった。
最初は冷ややかに感じた二人の死者、山下健太が演じる野々村浩介と北見栄治を演じた浜崎琢磨の演技も、会場の空気と同じように徐々に暖まって熱くなっていき、その好演を楽しむことが出来た。
お婆ちゃんの野々村桂がイタコになって野々村浩介の言葉を伝える時、浩介は生前の律儀で実直、一直線の性格そのままで、妻に伝える言葉も堅苦しい表現であったが、最後に「礼子、愛している」という言葉は、さすがのお婆ちゃんもその言葉を伝えるのに気恥ずかしさを覚えるほどのものであったが、そのときの山下健太の演技がいっそう涙を誘うものとなった。
もし(ということは絶対にありえないことだが)、このように死者の言葉を聴くことが出来、自分たちの思いも伝えることが出来たら、というのは多くの人が共有する思いであるだけに、自分たちの思いとして共感して泣くことが出来るのだと思う。
上演時間は休憩なく80分であったが、密度の濃い舞台であった。


作/堤泰之、原案/鈴木洋孝、演出/調布大、プロデューサー/パク・バンイル
7月27日(金)14時開演、両国・スタジオアプローズ


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