高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   Live Up Capsules公演 『彼の男十字路に身を置かんとす』    No. 2018-021
 

一世一代を駆け抜けた男を象徴するにふさわしい、スピード感あふれる、ダイナミックで見ごたえのある舞台であった。
今年3月に上演された渋沢栄一の物語『見晴らす丘の紳士』の続編ともいうべき作品で、前回、鈴木商店の番頭金子直吉を演じた劇団AUNの山田隼平がそのまま今回の主人公金子直吉を熱演し、前回主役の渋沢栄一役の宮原将伍は後藤新平をクールに演じた。
貧困の為学校にも行けず10歳から丁稚奉公した金子直吉が、20歳で神戸の砂糖問屋・鈴木商店に入って、主人亡き後実質的経営者としてその直観力から次々に事業を拡大していく物語で、舞台の始まりは、第一次世界大戦を好機にして事業を拡大し、一時は売り上げを日本一の商社にした鈴木商店の金子直吉が、後藤新平とのつながりから米の買い上げで世論の反感を買い、米騒動のあおりで鈴木商店の建物を全焼させられるが、この世論の反感を招いた発端は大阪朝日新聞の記事からであった。
この記事は、今盛んにアメリカ大統領のトランプが非難しているジャーナリズムのいわゆるフェイクニュースで、この事件の冤罪を暴いたのが城山三郎の『鼠―鈴木商店焼き打ち事件』のノンフィクション小説となっているが、その朝日新聞の記者役には菊地真之が憎まれ役として演じた。
舞台の始まりは、桂弘が演じるロンドン支店の高畑から神戸の本店に大戦の状況が時々刻々と知らせが入り、その情報を基に金子は矢継ぎ早に指示を出し物資の買い上げに奔り、売り上げが三井、三菱の財閥を追い抜くまでになる。
舞台上では、ロンドン支店と神戸の本店が同時的に会話を交わしているかのようにしてリアルタイムに進展し、舞台の動きが早く、ダイナミックとなっている。
何よりの魅力が、鈴木商店の社員たちが金子直吉のもとで、自分たちが日本を動かしている、世界を動かしているという意気込みで仕事にのめり込んでいる社員たちの輝く姿である。
金子直吉も型破りなら社員も型破りが多く、その分問題児も多いが、金子は10の短所よりも一つの長所を評価し、そのまま使い続ける。
ソニーの井深大に盛田昭夫、ホンダの本田宗一郎に藤沢武夫がいたように、金子直吉にも女房役として総支配人の西川文蔵がいて彼を支える。その西川文蔵役を今村裕次郎が好演し、金子直吉の山田隼平を盛り上げた。
出演者は男優ばかりの13名で、先にあげた登場人物以外に、台湾銀行社員下坂に弓削郎、鈴木商店の社員と関連会社の社員に、高山和之、木村圭吾、遠藤綱幸、根津茂尚、山形敏之、新里哲太郎、虎玉大介。
上演時間は休憩なしで100分。

 

作・演出/村田裕子
7月10日(火)14時30分開演、下北沢・小劇場楽園、チケット:3800円


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