高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
  新国立劇場開場20周年記念公演 『夢の裂け目』           No. 2018-019
 

新国立劇場開場20周年記念として、井上ひさしの東京裁判三部作の『夢の裂け目』が再々演されたが、プログラムにある大笹吉雄によると新国立劇場で3度上演されるのはこの作品と鄭義信の『焼肉ドラゴン』のみだという。
今回は、初演、再演とはすべて出演者が入れ替わっての上演だったが、主演の角野卓三や三田和代、キムラ緑子のイメージが強く残っていて、それで過去の出演者と東京裁判三部作の出演者を調べてみると、その出演者は一人を除いて全員が同じ俳優であった。
そのためか、紙芝居屋の天声こと田中留吉と東京裁判の検事の秘書役の川口ミドリを演じた角野卓三と三田和代のイメージが強く残っていたこともあって、今回の出演者には全体的に物足りなさを感じた。
しかしながら、再演、再々演と観ていると、その都度違った箇所で感銘を受ける。
今回は、この劇の最後の場面で、天声がメソジスト派の伝道師となって『マタイ伝』のイエスがたとえ話を使う理由を説明する部分を語るところでこの劇の構造すべてが集約されて感じられた。
この「構造」という言葉については、劇中、天声の娘道子と謎の闇師、成田耕吉とで交わされる会話の中で幾度も出てくるのだが、これがこの劇のキーワードとなっている。
イエスの言うたとえ話は、この劇では紙芝居劇の『満月狸ばやし』であることは言うまでもない。
井上ひさしの作劇の構造に改めて感じさせられ、つい先日観た『父と暮らせば』でもそうであったが、再演、再々演を観ることで新たな発見をさせられること多々である。
今回の出演者は、主演の天声には段田安則、川口ミドリ役に保坂知寿で、他、唯月ふうか、吉沢梨絵、木場勝己、高田聖子、佐藤誓、玉置玲央、上山竜治となっており、木場勝己だけが再演に続いて今回も清風先生役で出演、今回、特に近しく感じたのはこの木場勝己と佐藤誓の二人であった。

 

● 新国立劇場・小劇場での「東京裁判三部作」公演と出演者一覧表

演目と公演年月
出  演  者
 2001年5月
 『夢の裂け目』
 角野卓三、藤谷美紀、熊谷真美、犬塚弘、キムラ緑子、石田圭祐、高橋克美、三田和代
 大高洋夫
 2003年10月
 『夢の泪』
 角野卓三、藤谷美紀、熊谷真美、犬塚弘、キムラ緑子、石田圭祐、高橋克美、三田和代
 福本伸一
 2006年7月
 『夢の痂』
 角野卓三、藤谷美紀、熊谷真美、犬塚弘、キムラ緑子、石田圭祐、高橋克美、三田和代
 福本伸一
 2010年4月
 『夢の裂け目』
 角野卓三、藤谷美紀、熊谷真美、キムラ緑子、高橋克美土居裕子、木場勝己、大鷹明良
 石井一孝

*2010年の三部作一挙上演では『夢の裂け目』以外でも「一部キャステイングに入れ替わりがあった。

 

作/井上ひさし、演出/栗山民也、音楽/クルト・ヴァイル・宇野誠一郎、美術/石井強司
6月12日(火)13時開演、新国立劇場・小劇場
チケット:(B席)3078円、座席:RB列36番、プログラム:800円


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