高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   吟遊詩人・条田瑞穂の連続創作詩劇朗読 No. 85 水音のささやき   No. 2018-016
 

今日のハイライトは共演者の永田砂知子による波紋音(はもん)演奏、その名も題して「いにしえの水宮、水龍の使者…降臨」。
が、このことは後にして・・・・・
条田瑞穂の詩の朗読は、第一部が「銀の月」、「宇宙鳥」、「歌う川」、「老婆の休日」の4作、途中休憩をはさんで第二部が「母子像」と「序の段―(その1)ほういち外伝」の合わせて6作。
最初は初めて聴く波紋音の演奏に神経が向いてしまって詩の内容を掴むのがおろそかになってしまったが、第一部では「歌う川」と「老婆の休日」が特に印象が強く残った。
「歌う川」は、作者がドキュメンタリー映画を観てその感動をロビーで一気に作り上げたという詩で、アメリカ先住民ユバ族が居留地に追いやられ、そこを流れる川は彼らに何も語らないと、彼らは彼らの名前を呼んでくれる元の川が流れる地に戻る、そんな内容の映画で、彼女が受けた感動がそのまま強く伝わってくる詩の朗読であった。
条田は一作の朗読ごとにその詩を創った経緯のエピソードを語ってくれるが、この詩の朗読後には月に30本もの映画を見るという映画人間であることを語った。
第一部最後の「老婆の休日」は、今日の波紋音演奏者の母君である前回も参加された93歳のN子さんの要望で組み入れられたということであるが、そのタイトルを最初耳にした時、音からくる連想で映画「ローマの休日」がとっさに浮かんユーモラスな感じを受けた。
内容は、ある日突然、主人公が肉体も精神も「老婆」となってしまい、自分の名前も周囲の人物も見分けがつかなくなり、自分の結婚写真を見ても誰だかわからず、洗濯機にはキャベツなどの野菜が放り込まれ、冷蔵庫は満杯で腐った物がいっぱいの状態、悲しくもあればおかしくもある身をつまされる内容のリアル感にあふれる詩。
第二部では、出足が「平家物語」の語りから入る「耳なし芳一」を題材にした「ほういち外伝」が作品的にも親しみがあるだけに内容的にもすんなり分かって、波紋音の演奏と合わせて聴き入った。
さて、砂田砂知子が演奏する「波紋音」についてであるが、当日配ってもらった小さなチラシによると、彫刻家・斉藤鉄平が「水琴屈」の音に触発され、鉄で創作したオリジナルな音の出る作品で、水の波紋のようにどこまでも音が広がるようにというイメージで波紋音と名付けられたとある。鉄を鍛金という技法で叩いて丸くし、打面にスリットを入れて作られ、そのスリットが入っていることでひとつの波紋から様々な音が出る仕掛けになっており、スリット・ドラムの仲間ともいえるという。ひとつずつ手作りで創られているので、胴体のサイズ、スリットの形がそれぞれ違い、したがって音もそれぞれ違い、ひとつずつの波紋音が世界に一つしかないものとなる。
詩の朗読が終わった後、この波紋音だけによる演奏を聴かせてもらったが、詩の朗読では朗読の声を殺さないように抑えられていたものが一気に爆裂するかのようなその演奏の迫力に惹き込まれていった。
条田瑞穂の詩の朗読の魅力の一つに、彼女が選び出してくる共演者の演奏があり、そのバラエティな組み合わせがこれからもますます楽しみになってきた。
今日の参加者は、N子さんの声掛けもあって、その御友人たちで、医者のご夫妻、女流画家のK・Tさん、所用で第一部終了後に帰られた女性の方と、前回より少しだけ増えて賑やかであった。
終演後、ステージ4の癌からの生還の壮絶な詩人の半生について語られ、彼女のこれまでの活躍の一端が少しずつ分かってきただけでなく、詩と共にその生きざまにも興味がますます湧いて来た。


5月28日(月)19時より、阿佐ヶ谷・喫茶ヴィオロンにて
料金:1000円(コーヒー付き)


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