高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   劇団モンスーン公演 『CRIME』            No. 2018-013
 

およそあり得ない話と展開で、軽やかな面白みとおかしみのあるさわやかな舞台。
全体の枠組みはテレビドラマか映画のようで、劇が始まる前に出演者がそろってこの劇のテーマソングの軽やかな曲に合わせて歌って踊り、めいめい出演者が名前と役柄を書いた折り畳み用紙を開いて自己紹介していく。
舞台は、昼前の銀行。営業担当も出かけ、支店長も席を外し、行内にいるのは受付担当の女子行員のみ、そこへその女子行員に恋している出前が登場し、彼女から裏口から入ってくるように注意を受ける。
そんなのんびりした行内に融資を受ける客とATMの前に少し不審な様子の客。
融資を受ける客と面会の約束をしていた課長や支店長が登場したところにピストルを持った若い3人組の銀行強盗が現われる。女子行員が銀行に備え付けられたカメラですぐに警察がやって来るというが早いか、警部と婦警が現場にやって来て、その警部は、わずか二人しかいないのに警官が包囲しているとメガホンを使って叫ぶ。
あわてた主犯格らしき男が支店長を残して他の全員を人質として金庫に入るよう命令するが、あやまって銀行強盗の一人、主犯格の妹も金庫に入ってしまって一緒に閉じ込められてしまう。
この場面で主犯格が支店長を名前で呼び、支店長もなぜ自分の名前を知っているのか危ぶむが、そこがこのドラマの伏線としての仕掛けになっている。
その金庫は、核シェルターとしても使える頑丈な金庫という設定であるが、そのような金庫であれば閉じてしまえば外部との声は遮断されると思うのだが、内と外で自由に会話しているが、そこは面倒なリアリティを追及すまい。
金庫の鍵と暗証番号を知っている唯一の人物である課長も閉じ込められたため、その金庫は誰も開けることが出来ない。
金庫の中では、不審な客が持っていたケースが実は時限爆弾装置で、中身を確かめようとした銀行強盗犯の女ともみあっているうちにそれが転げ落ちて時限装置が作動し始め、1時間で爆発するという。
爆弾犯はネットでアラビア語のサイトで調べた爆弾の作り方だけしか知らず、解除の仕方は知らないと言う。
手の打ちようもなくなった銀行強盗犯は、あろうことか外の二人の警察官に協力を求め、鍵屋が呼ばれる。
その鍵屋は金庫を造った者の娘であったが、ここから銀行強盗犯の真の目的が明らかにされていく。
主犯格の男がなぜ支店長の名前を知っていたかもその目的から明らかになる。
3人の銀行強盗犯は、この支店長からの過剰融資と本業外の仕事に手を付けさせられて会社を潰し一家心中した社長と専務の子供たちで、支店長への復讐が目的であった。
鍵は爆発数分前に開けられ全員無事金庫から出ることができたが、今度は主犯格が誤って一人閉じ込められてしまう。しかし、鍵を開ける時間の猶予もなく、主犯格の男は、自分が最初から一人で罪をかぶるつもりでいたからと格好よく自分の運命を受け入れる。
と、突然、空中からシャボン玉がいっぱい舞い落ちて来る。
時限爆弾は、実は祝砲の爆弾であった。
主犯格も無事金庫室から解放され、一方、婦警は銀行のパソコンで爆弾解除の方法をネットで調べるのを利用した際、銀行の内務の情報データを抜き取り、支店長の罪状の証拠を得る。
警部はこの銀行の内部の秘密を追っていた刑事で、この事件をきっかけにその証拠を得ることが出来、銀行強盗犯は玩具のピストルを持って銀行強盗など出来る筈が無い(実は本物であるが)ということにされ、支店長だけが業務上の犯罪容疑で逮捕され、一件落着となる。
最後は、ドラマのエンディングとしてそれぞれの人物のその後が寸劇的に紹介され、課長は妻と別れて不倫相手の女子行員と一緒になれると告白する間もなく彼女から出前と結婚することになったと告げられる。
銀行の不正融資については、つい先ごろもS銀行のシェアハウス・オーナーに対する(不正)過剰融資などが問題となっており、背景は異なるものの時事的な面白さが加わっており、支店長を演じた岡本高英と銀行強盗主犯格の終盤の迫真に迫った演技なども見どころであった。
ついでに加えれば融資を受けに来た客は、この銀行強盗犯の父親が経営していた会社の元社員という役で、彼も不正融資の証拠をつかむために融資を受けに来ており、強盗犯らの幼い時分に遊び相手をしていたという入り組んだ背景の構成となっていて、ストーリーに膨らみを持たせている。
出演は、銀行強盗の主犯格に菊地真之、その妹に渡邉千奈津、同じく銀行強盗犯で主犯の妹の婚約者をささの翔太、銀行の支店長を岡本高英、課長に山下健太、受付の女子行員に山咲なつみ、警部に調布大、婦警に金子ゆり、融資を受けに来た客に横澤栄一、出前に稲村恵太郎、鍵屋の娘に小島亜梨沙、不審な男に栗原智紀。
ちょっぴり苦みを含んだ良質なコメディを、出演者のそれぞれのキャラで楽しませてもらった。
上演時間は90分。


作・演出/栗原智紀
4月27日(金)15時開演、下北沢・Geki地下Liberty
チケット:2800円、全席自由席


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