高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   文学座アトリエの会公演 『最後の炎』       No. 2018-012
 

内容的には分かる、といえば驕慢と取られるかもしれないが、感想としては息苦しくて好みではない。
文学座アトリエの会で取り上げられる作品は、これまで観てきた経験からすると、印象として暗いものが多く、この作品も明るいものではない。そういう意味でも息苦しさを感じた。
舞台装置は、別役実の世界、あるいはベケットの『ゴドーを待ちながら』を思わせるもので、円形の舞台の端の方に枯れた木が1本あるだけで、それがこの舞台の心象風景を表象しているかのようであった。
タイトルになっている『最後の炎』は、この劇に登場する元美術の教師の女性が描いた絵のタイトルでその言葉が初めて口に出され、この劇の終わりの方で事故の目撃者で戦場の帰還兵が焼身自殺をする時にもそれを表象して「最後の炎」、「最初の炎」として表現される。
物語は、この帰還兵が元音楽教師の息子の自動車事故を目撃したことが発端となって、個々にはつながりがないがそれぞれにつながっている登場人物が自己の心中や登場人物の心中を代わって語り、進展していく。
帰還兵はこの町のものではなく闖入者であり疎外者であるが、彼が自動車事故を目撃したことで、はからずもこの町の関係者となる。しかしかれは結局疎外者としての存在でしかなかったことが彼の焼身自殺へとつながる。
元音楽教師は認知症の夫の母の介護の為に学校をやめ、夫は不動産会社に勤務している。
元音楽教師と元美術の教師は勤める小学校で同僚であったが、その美術の教師に一時思いを寄せた夫、自動車事故を起こしたのは、猛スピードで逃げる男を追っている爆発犯と思った婦人警官で、その婦人警官と美術の教師はレスビアンの関係、逃げていたのは爆弾犯ではなく元美術教師の知り合いで彼女の車を勝手に乗り回していた元フリークライマー、その友人であるパートナーは、元不動産会社の守衛で今は解雇されてパートナーの犬の世話をしている、といったように連鎖状に人間関係がつながっているが、全体では無関係の関係。
登場人物は当然名前で呼ばれるのだが、別役実の登場人物の「男A」とか「女A」のように無記名的な方がふさわしいような不条理性の強いストーリーである。
婦人警官は爆破犯を追跡する脅迫的観念の妄想から自らを爆破犯のように思って行動し、認知症の母の介護に疲れた息子は浴槽で母を水死させた後失踪し、妻は事故の目撃者である負傷者の帰還兵の基に奔り、その帰還兵は焼身自殺をし、元不動産会社の守衛は新しい就職先が見つかったとパートナーに報告するが、職を得たのは彼が世話をしている犬の方であった。
出演は、認知症の母親役を倉野章子、その息子不動産会社勤務の男を松井工、その妻元音楽教師を鬼頭典子、帰還兵を大場泰正、婦人警官を高橋紀恵、小学校の元美術教師を上田桃子、元フリークライマーを奥田一平、そのパートナーを西岡野人の8人。
上演時間は、休憩なしで2時間5分。


作/デーア・ローアー、訳/新野守広、演出/生田みゆき
4月15日(火)14時開演、信濃町・文学座アトリエ
料金:(A会員)、座席:A列18番


>>別館トップページへ