高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   吟遊詩人・条田瑞穂の連続創作詩劇朗読 No.86 『迷宮』       No. 2018-011
 

~様々な異空間、異時限の旅人~

吟遊詩人、条田瑞穂が故荒井良雄先生の夢の招きで喫茶ヴィオロンでの自作詩劇の朗読が3月から始められ、今後ヴィオロンで10年間にわたって毎月続けられるという。
4月8日のヴィオロンでの荒井先生の追悼の催しで、4月から6月までの予定のチラシでそのことを知った。
4月のタイトルは『迷宮』と題して2部構成で6篇の詩劇が朗読された。
観客は、共演者のギター奏者、吉本裕美子の友人(所用の為、一部のみで帰られた)と93歳の女性―この方は、5月の波紋音を担当する共演者の永田砂知子さんのお母さんということで、歩行に杖を用いているが、記憶力も話す内容もしっかりしているだけでなく、その博識に驚かされた―と自分のわずか3人であった(後半は二人だけ)。
第一部は、「古代鳥の夢」、「パンドラの筐」、「カサンドラの予言」の3篇、10分間の休憩の後、第二部では、「光る骨」、「五月、百年詩」、「白い道化師、フル、フル」の3篇。
全体を通して感じたのは、一篇一篇はそれぞれ独立した内容の詩であるが、通して聞くと一つの壮大な叙事詩として感じられた。
その印象は、多分、読まれた個々の詩劇の内容に一貫して流れていた「戦争」という言葉からくるものであろう。
最初に朗読された「古代鳥の夢」では、少年が拾った骨が古代の鳥の骨で、少年の祖父がその骨で笛を作ってやる。少年は成長して戦場に行き、そこの土として眠るが、その少年の骨がいつかまた古代鳥のように拾われて、笛に造られるだろうか、という問いで終わる。その話は、近い過去の用でもあり、はるか遠い昔の、どこの国でもないどこかで、ファンタジーを感じさせるものであった。
最後の「白い道化師、フル、フル」は、サーカスの人気者の道化師フル、フルがある日消えてしまって、仲間の道化師が探し求めるが、やがて戦争が始まって彼は傭兵として戦場へと送られていくことになる。彼は、そのことをフル、フルが知らないままでいることをせめてもの慰めに思って戦地へと赴く。
「カサンドラの夢」はトロイ戦争にまつわる話で、神話的には彼女は予言の力を与えられるが、その予言は正しいにもかかわらず誰も信じない。この詩で語られる彼女の予言は、原子炉の爆発でかつて宇宙の中でも最も美しかった地球が死の灰で汚染されるという極めて現代的、近未来的なもので、福島を表象するかのような詩であった。
詩の朗読の合間に、条田は彼女の祖父母に育てられた幼児体験や夢の話など交えるが、その事自体が彼女の内面的な叙事詩を語っているようであった。
詩の朗読に加えて凄いと思ったのは、吉本裕美子が弦を使って奏でるギターの演奏であった。
ギターであのような音が出るなどとは想像もつかなかったが、93歳になる女性は、その弾き方が"バッセ"(?)というものであることを確認していたが、話をしているうちに、吉本がその老婦人の娘さんである永田砂知子と十年来の交友があるということまで分かってきた。
この老婦人は芸能界に詳しいだけでなく交流もあり、ご本人もピアノで多くの弟子を育て、お子さん方も国立の音大を出て音楽を生業としていることなど、凄い話ばかりを聞かされ、世の中には自分の知らない所で凄い人が沢山いることを改めて思い知らされた。
自分は、この老婦人と差し向いで、朗読者の真ん前の席で朗読を聴いていたが、まさに濃密としか言いようのない時を過ごすことが出来た。


4月16日(月)19時より、阿佐ヶ谷・喫茶ヴィオロンにて
料金:(コーヒー付き)1000円


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