高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   十文字セツ子オンステージ with DAIMA
         『桜の森の満開の下 おひとり様ツアー
』         No. 2018-010
 

シュールで、滑稽で、奥行きの深い面白さで楽しませてくれた。
観劇後の印象からすれば、これはもう「詩劇」と言ってもいい。
坂口安吾の『桜の森の満開の下』を骨格にして、北村青子がかつて所属した転形劇場の太田省吾の『太田省吾戯曲集』の抜粋、それに太宰治の『燈籠』、萩原朔太郎の『猫町』、そして竹内紀子の『春の小川』『狩り』『河川敷』を織り込んでオムニバス形式にした劇。
還暦を迎えた十文字セツ子(北村青子)が自分へのご褒美にハイヤー日帰りツアーを申し込む。やって来たのは運転手の大間。大間はセツ子にツアーのコースをいろいろ紹介するが、どのツアーにも関心を示さず、そのうちに鈴鹿の桜が見たいと言い出す。大間は日帰りツアーでは無理だと答えると、セツ子は坂口安吾の『桜の森の満開の下』の朗読を始め出し、大間をそれに引き込んでいく。
副筋に先にあげた作品が織り込まれていくのだが、北村青子と大間剛志による絶妙な二人芝居の面白おかしさと、最後の場面が衝撃的に面白い。
山賊にさらわれその女房になった女を背負って満開の桜の森の下に来るとその女が鬼と変化し、男は鬼となった女の首を絞めて殺すと、鬼は女に戻っていたという話のところで、セツ子は大間に同じように首を絞めさせ、もっと力をと迫り、本気で絞めた大間はセツ子が死んでしまったことに呆然となってセツ子の部屋から逃亡する。
セツ子の死体は亡くなった大家の息子が河川敷に運び、死体が発見され、運転手の大間が容疑者となり、大家の息子が死体遺棄をしたという臨時ニュースとして流される。
そこで一旦暗転し、芝居も終わったかのように見え観客から拍手が送られるのだが、舞台は再び明るくなって、被害者の大文字セツ子が息を吹き返したという臨時ニュースが流される。
大文字セツ子が大間から首を絞められて死ぬ場面では、ホリゾントの壁面に満開の桜の木が映し出され、最後の場面ではこの満開の桜が全部散ってしまったところが映し出される。
セツ子が目覚めたところで運転手の大間が1日ツアーの迎えに来てセツ子に声をかけるところで終わる。
つまり、これまでの話はすべてセツ子の夢の話であったという最後にオチがある。
観客を楽しませ、驚かせるという見事な構成であった。
ストーリーを抜き出してこのように書き抜いてもこの芝居の面白さの本質を伝えることはできない。
北村青子のおどろおどろしいまでの台詞力と所作、そしてそれをしっかりとほんわか受ける大間剛志の絶妙な組み合わせは、ただ観て楽しむ以外にはない。
日帰りツアーに乗らないまま、1時間30分があっという間に過ぎた。

企画・製作/工房ダブルラック、アートディレクター/東洲斎重吉、協力/白神直子
3月31日(土)13時開演、南青山・live space ZIMAGINE、料金:2800円


>>別館トップページへ