高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   劇団熱血天使・第14回公演 『ヒミコ~知られざる旅』      No. 2018-001
 

昨年末K君の仲間の一人として紹介された今回の出演者T君の案内で見る機会を得たのだが、テーマのユニークさとサスペンス的な展開の内容の面白さを楽しんで観劇することができた。
この劇団については今回の公演で初めて知ったのだが、チラシにある活動記録を見ると『東の龍と西の太陽~古事記はじまりの唄~』(2014)、『空-KUU-まほろばの先へ』(2015)、『戦国北条記~虹は東に~』(2016)など、日本の古代や中世などをテーマにした作品を上演してきている非常にユニークな劇団のようである。
邪馬台国論争では松本清張の小説にもあって日本の古代史には興味があるが、勉強不足でほとんど知らないに等しく、今回の内容について史実とフィクションの境の見分けができないが、劇として十二分に楽しめる内容の構成で、エンターテインメントとしても申し分ないものであった。
開演前から、コロス役としてのダンサーが一人ずつ地から湧き出るような雰囲気で舞踊を静かに演じながら、次のダンサーが出てくるころには所定の位置踊っていたそのままの姿勢で静止するが、時が経つと少しだけ手足の位置を変えたり、姿勢を変化させたりする。
コロスの踊り手だけで14名という豪華なキャスティングである。
物語は、旧世代における対立から新世代に移行する旧世代と新世代との対立と権力争いに図式化される。
今は老いた邪馬台国のヒミコは、自らの老体を曝すことを避けて彼女に仕える鬼道派の4人の女性が影武者として占卜の解釈を告げる役をしている。
邪馬台国は阿蘇の噴火の脅威に恐れおののく一方、老いたヒミコの後継ぎ問題を抱え、その状況に乗じて那の国からの攻撃の危機にもさらされているが、内部では世代交代に当たっての内紛が生じている。
邪馬台国の戦人アヅミは旧世代をヒミコと鬼道派を支持し、彼の長男のイルカは、ヒミコと争って負けたトヨ(今では黄泉の国のムハラジョとして登場する)の子供の双子の姉妹、ミヨとイヨのうち恋仲にある姉のミヨを新たな支配者として支持し、イルカの妹ヤヤクは妹のイヨを支持し、イルカの弟ナシメは自らが王者となる野望を抱いており、親子姉妹の対立関係となっている。
聖地壱岐島は那国の攻撃で危機に陥っており、ミヨはイルカに総攻撃の指令を。出し、壱岐島は壊滅し、島の守護人オシヒコも亡くなるが、彼女の妹トナミは奇跡的に助かり神獣鏡を守り抜く。
一旦はミヨが支配権を取るが、トナミにもたらされた神獣鏡を手にすることが出来ず、彼女を支持するイルカもイヨを支持する彼の妹ヤヤクの為に殺され、そのヤヤクもイヨを殺そうとして彼女の父親に刺し違えて死に果て、ミヨは自ら阿蘇の火口に身を投じる。
ムハラジョも神獣鏡を手に入れようとするが、ヒミコの前に生前と同様その願いは虚しく終わり、神獣鏡はイヨの手になる
阿蘇の噴火の脅威で難を民とイヨは難を逃れてそれまでの地を離れ、落ち着いた場所でイヨは民衆を前にして無事を確認し、イヨがそこで口にするのは、「民」、「国」、「家」であり、家がって、国がある、イエ、クニという言葉の繰り返しの中でその二つが必然のように結び合って「国家」という言葉になって発せられ、ここに国としての意識の芽生えが生じる。
彼女らの名前を通して、イヨの国、トヨの国を思い出し、もう一度学習したい気持ちを起こさせた。
闇と光が交差し、阿蘇の地鳴りを思わせる低重音が腹に沁み込む一方、コロスの踊り、そして唄とエンタメ満載のスペクタクル劇であった。
上演時間は休憩なしで2時間5分。

 

1月12日(金)14時開演(キャスト:天の部)、川崎氏アートセンター・アルテリオ小劇場
構成・演出/𠮷野 翼、脚本/シブサワホタル、原案・ステージクリエイター/菅沼萌恵
出演/藤森裕美(ヒミコ)、山崎愛実(ミヨ)、竹内純(イヨ)、柊木軸(オシヒコ)、
渡辺香織(砺波)、靏本(ツルモト)晋規(イルカ)、金澤洋之(ナシメ)、
伊喜真理(ヤヤク)、岡田基哉(アヅミ)、他
チケット:(B席・自由席)3500円


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