シェイクスピア以外の観劇記録・劇評

 

2017年5月の観劇日記

009 14日(日)14時開演、文学座アトリエ公演 『青べか物語』

原作/山本周五郎、脚色/戌井昭人、演出/所奏
出演/坂口芳貞、上川路啓志、つかもと景子、高橋のり得、押切英季、他
信濃町・文学座アトリエ、チケット:(A会員)、座席:左ブロック、C列9番
上演時間は休憩なしで1時間50分。


【観劇メモ】
山本周五郎の小説の中でも少し変わった味がして、いつか再読しようと思っていて、この劇を観るに当たってちょうどよい機会だと思ったが、結局読まずじまいであった。
しかし、読まなくてよかったかも知れない。
舞台を観ていて自分の記憶の中の世界とかなり異なって感じ、最初のうちは少しがっかりした。
しかしながら、主人公の蒸気河岸の先生を演じた上川路啓志にはそれなりの雰囲気を感じたし、芳爺と兵曹長を演じた坂口芳貞は、見ていても気持がよい巧さを堪能させてもらった。
やはり、いつか読み直してみたい作品である。

 

010 24日(水)19時開演、りりすと友の会(第3弾)

『小田急たけのこ』    高橋りりす作/語り手:戸谷友
『生きるための選択』   パク・ヨンミ作・満園真木訳/語り手:戸谷友
『砂漠で観た夢』     高橋りりす作/語り手・高橋りりす
『ネコの集会』      群ようこ作/語り手:戸谷友
『あね・いもうと』    高橋りりす作/語り手:高橋りりす・戸谷友
ステージカフェ下北沢亭、チケット:2500円(ドリンク付き)
上演時間は1時間15分。

【観劇メモ】
印象に残った語りは、この会では初めてのシリアスな作品だという2番目の、脱北者の手記のプロローグの部分『生きるための選択』であった。
最後の『あね・いもうと』は二人の掛け合い漫才のコントのようで、出演者が楽しんでやっているという感じで、その楽しんでやっている姿を見て観客が楽しんで聴くという面白さであった。

 

011 28日(日)14時開演、オフィスワンダーランド第43回公演 『からくり儀右衛門』

作・演出/竹内一郎、舞台美術/大泉七奈子・竹内一郎
出演/松村穣、岡本高英、本郷小次郎、吉田潔、桑島義明、北村りさ、鈴木めみ、他。総勢15名。
南大塚ホール、(チケット:3500円)、全席自由席
上演時間:1時間50分

【観劇メモ】
いろいろな点で感動的な舞台であった。
最初の興味と関心は、この物語の主人公が九州の久留米出身(作者で演出者である竹内一郎も久留米出身)であることと、その人物が今その存続の危機にかかっている東芝の前身を創った者であることであった。
そして、実際の舞台も同じ九州の出身である自分には懐かしい方言での会話でいっそうその親しみと親近感が増した。もっとも「にやがりもん」という久留米の方言は北九州の小倉の言葉と異なるので、「ふざけた(目立つ)」というは意味であることは知らなかったが、言葉全体としては非常に懐かしみを感じた。
感動したのは、からくり儀右衛門こと田中久重の生きざま、生涯であった。
幼少期の儀右衛門は、からくりを作り上げることで自分だけの歓びの世界であったが、13歳の時に久留米がすりの考案者井上お伝に出会ったことで、人のためになる喜び、美しいものに感動する喜びを学ぶが、人のためになるということを身をもって実践することになるのはそれから17年後の事であった。
それまでの儀右衛門は、からくり人形の一座と共に久留米を出て江戸、大阪と旅してまわっていたが、大阪で大塩平八郎と出会ったことで、人のためになることを改めて思い知る。
大阪奉行所の与力まで務めた大塩平八郎が、豪商から米を奪い取るという強盗紛いの事までしているのは、飢饉で米の相場が上がって米を買うことも出来ず、餓死者が出ていることに対して、貧しい者に分け与えているその生き方に影響されてのことだった。
徳川幕府は未だ盤石の強さで、心では反抗しても実行することは考えられもしない時であったが、きっかけがあれば後に続くものが必ず出てくるというのが平八郎の言葉であった。
そして、強く願えば夢はかなうものということも教えられる。
この時思ったのは、人間の欲望、夢が、実現不可能と思われていたことを次々と実現していったという事実であった。一番いい例が、鳥のように空が飛べたらという夢のような希望は、今は当たり前のように実現されているという事実である。
儀右衛門の発明のもとは、人間の夢は必ず実現されるというここにある。
儀右衛門は平八郎と出会って、からくり人形の見世物興行から足を洗って京都で学問を学び、そこで出会った人物を通して、佐賀の鍋島藩お抱えの技術者となって蒸気船製造に取り掛かる。
九州の一小藩である鍋島藩にとっては蒸気船を造ることは財政的に非常に厳しく、当然藩内でも反対派がいる。その反対派の急先鋒の一人が大隈重信であったが、その彼が後に儀右衛門の会社「珍器製造所」の倒産危機を自分の職を賭して救うことになる。
それはすべて儀右衛門の人を惹きつける魅力からであったが、反面、自分に厳しいことから他人にも厳しく、彼から去って行った者も多くいた。
しかし、彼の元から、後の芝浦製作所、沖電気、アンリツといった会社を興すことになる人物が育っていく。
からくり儀右衛門という人物の幼少期から晩年までの一代記の伝記物であるが、その面白さを十二分に堪能させてもらった。
主な登場人物とその配役は、田中儀右衛門の幼少期を木ノ下椿、少年期を久保田翔一、そして成人してからの儀右衛門を松村穣が演じ、語り、大塩平八郎、そして鍋島藩の蒸気船反対派の頭目である枝吉神陽を岡本高英が重厚にして軽妙洒脱に演じ、大隈重信を本郷小次郎、儀右衛門の父田中弥右衛門、鍋島閑叟ほかを吉田潔、儀右衛門を召し抱える役の鍋島藩の佐野常民ほかを桑島義明が演じ、久留米絣の考案者井上お伝と副島種臣などを北村りさが好演。それぞれが味のある人物像を造形していて、それがまたこの劇の面白さを増していた。
アンケート用紙の感想には、Very excellent!! Fantastic!! Wonderful!! 感動的、と記した。
この公演については、同じオフィスワンダーランド公演で、岡本一平の伝記物の主役を演じた岡本高英氏の案内によるが、彼との初めての出会いはタイプス公演、シェイクスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』で彼がフォード役で好演していたことから知り合って以来のことで、その後も律儀に彼の出演作に案内をくれていることに感謝している。

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