シェイクスピア以外の観劇記録・劇評

 

2017年12月の観劇日記

034 3日(日)14時開演、グループえん10周年記念 朗読劇 『クリスマス・キャロル』

原作/チャールズ・ディケンズ、台本構成・演出/円道一弥
出演/円道一弥、<グループえん>9名、<ゲスト>2名
藤野倶楽部「結びの家」、チケット:2000円


【観劇メモ】
10周年を迎えて、開演に先立って初期メンバーの一人である山川のりこさんの万感こもった前口上があり、初めは一人一人が好きな作品を朗読することから始まった朗読会が、朗読劇もやってみたいというメンバーの希望から『クリスマス・キャロル』の朗読劇を上演したのが始まりで、『クリスマス・キャロル』は3度目の上演となるという。
初期メンバーとして今回も参加していたのは3名だが、別に初期メンバーの一人が今回ゲスト出演し、別途サプライズ出演者の登場もあった。
出演者の中には、小学生の時から参加していて中学3年生となった鈴ちゃんや、今回初参加の亮太郎君など、若い人の参加もあり、地域に密着した活動で、客席も60人の定員が満席という活況であった。
出演者それぞれの人柄を感じさせる朗読で、プロの朗読劇とは一味異なる、心温まるひと時を過ごすことが出来た。

 

035  8日(金)14時開演、加藤健一事務所公演 『夢一夜』

作/カトリーヌ・フィユー、訳/常田景子、演出/堤 泰之、美術/田中敏恵
出演/加藤健一、横堀悦夫、加藤忍、速水映人、吉田芽吹、新井康弘
紀伊國屋サザンシアター、チケット:5400円、座席:3列9番


【観劇メモ】
加藤健一と横堀悦夫の女装と女性言葉での台詞の面白さと、アーミッシュの親子の登場など、ストーリーそのものの面白さの両方を楽しむことが出来る。
加藤健一が女装するジャッキーはいかつい女性だが、こんな女性もいるし、横堀悦夫が演じるバービーは一般の女性より女っぽい色気があった。
新井康弘が演じるアーミッシュ、モーテルの管理人を演じる加藤忍など、それぞれの出演者の芸を十二分に楽しんだ。
上演時間は、休憩15分を挟んで、2時間20分。

 

036 15日(金)14時開演、文学座アトリエ公演 『鳩に水をやる』

作/ノゾエ征爾、演出/生田みゆき、美術/乗峯雅寛
出演/外山誠二、林田一高、上川路啓志、相川春樹、塩田朋子、増岡裕子、宝意紗友莉
信濃町・文学座アトリエ、座席:左A列16番


【観劇メモ】
老いた男、童話作家のドイアランを訪ねてきた若い女性ファンと握手した手をきつく握りしめたまま、とりとめのない長い話が続けられるところからこの舞台は始まる。
若い配達員が、いつ来ても誰も出ないという集合住宅のドアの前で呼び鈴を鳴らしていると、前の住人の若い女性がドアを必死で抑えている姿に気づく。ドアの内側には得体の知れない何かがいて、ドアを押し開けて出てこようとしているのを押さえているのだったが、その若い配達員がそれを手伝う。
そこへ出版社の編集者が来て、その配達員が書いた原稿は没だと言って投げ出す。配達員は作家志望で、配達員は仮の姿であった。
続いて登場するのは瀬戸際の女(ジャズ歌手)と瀬戸際の男(ピアニスト)で、男はビルから飛び降り自殺をして落下している最中であるが、この物語の最後まで地上に落ちることはなく、女はそれを見ていた窓際の女で、この二人の物語が別途に繰り広げられる。
この3組の登場人物の物語が錯綜して展開され、話の流れをつかむのに苦労させられるが、次第にその関係がぼんやりとではあるが明らかになっていく(気がする)。
瀬戸際の男と女は、老いた男の父と母で、若い配達員は老いた男の青年時代の姿で、彼の母と父がそうであったようにたった一度の関係で彼が生まれたようにドア前の女との一度の関係で娘が生まれた。その娘というのが、彼を訪ねてきた彼のファンの女性である―という妄想。
というのは、老いた男を訪ねてきたファンという女性は実は介護職員で、地域全体が介護施設となっていてスーパーの店員も、そのコミュニティの中の誰もが介護職員で、彼女はたまたま、老いた男のファン役をして介護しているのだった。
タイトルの「鳩に水をやる」ということとの関係が訝られたが、老いた男が傷ついた鳩を机の引き出しに入れて鍵をかけたまま餌をやるのを忘れていたという台詞だけが関係するだけで、全体の中では意味のない関係性に象徴的なものを感じさせる。
「1秒の物語もあれば、一日の物語もあれば、1年の物語もある」という言葉で、この劇を表現しているが、1秒とは男が落下して地上に落ちるまでの時間を表象し、1日は老いた男を訪問する若い女性(介護士)との時間、1年は老いた男の過去の姿や両親の話を表していると考えられる。
商業劇場ではなく、アトリエでの公演ということで可能な劇だろうと思う。
老いた男に外山誠二、瀬戸際の女と男を、塩田朋子と上川路啓志、ドア前の女を増岡裕子、作家志望の配達員を相川春樹、編集者や医者を林田一高、ドイアランのファンを宝意紗友莉。
上演時間は、休憩なく2時間10分。

 

037 16日(土)18時半開演、グローブ文芸シアター公演 『クリスマス・キャロル』

構成・朗読台本・演出/蔀 英治、音楽/大政直人
出演/女鹿伸樹、菊地真之、倉橋秀美、白神直子、松川真澄、蔀 英治
ヴァイオリン演奏/上野萌華
武蔵野公会堂、チケット:3000円、全席自由席:(最前列中央の席にて観劇)


【観劇メモ】
いまさら改めて書くことはないが、1年の締めくくりにこの心温まる朗読劇をなじみのメンバーで(今回は、北村青子から松川真澄に一人メンバーが入れ替わってはいたが)聴かせてもらうのが楽しみの一つになっている。
しかしながら、実のところは観劇の間、半分以上は眠りこけてしまっていた。
というのは、昼間、阿佐ヶ谷ワークショップで今回で最後となる山茶花クラブの日英語朗読会に参加して、終演後の懇親会でお酒を飲み過ぎて、この観劇に駆けつけて最前列の中央に席を陣取ったものの、途中から知らない間に何度も眠りこけてしまったのだった。
しかも最前列は自分一人しか座っていなかったので、出演者にとっては随分と失礼してしまった。
終演後、出演者と関係者との打ち上げで、また飲み会となり、帰宅は午前3時…。


038 24日(日)15時開演、SCOT公演 『北国の春』、『サド侯爵夫人』

『北国の春』 15時~16時
原作/鹿沢信夫、構成・演出/鈴木忠志
『サド侯爵夫人』 (第二幕) 17:30~18:45
作/三島由紀夫、演出/鈴木忠志
吉祥寺シアター、チケット:(通し券)6000円、座席:G列8番


【観劇メモ】
『北国の春』は2014年に観た『からたち日記由来』と同じ系列の作品で、チンドン屋が登場。
舞台奥にはチンドン屋の夫婦が相対して座っており、上手寄りの舞台前面には片膝ついて一人の男が、開場から開演前までの10分間以上座ったまま、板付きで身動き一つしないでいる。
開幕は、チンドン屋の女が歌う「北国の春」から始まる。
男は、このチンドン屋夫婦の息子で、引きこもり症候らしく、3人の男と一人の女が彼の心の中にとりつき、彼らが彼と内的会話を交わす形で進行するが、暗い舞台の中で重苦しい台詞で、途中何度も睡魔に襲われた。
しかしながら、演劇の可能性ということで、深く感じさせるものがそこにはあり、考えさせられるものがある。

一方の『サド侯爵夫人』については、観劇後、たまたま耳にした若者の感想で「やばい!」という言葉に凝縮されたものを感じさせられた。
今どきは、なんでもかんでも「やばい」の一語ですべてをすませてしまう傾向があるが、観劇直後にはその感想の言葉がなく、この「やばい」という言葉は便利ではあると思うが、言葉の貧困さを感ぜずにはいられない。
この劇に登場するのは、サド侯爵夫人ルネ、その妹アンヌ、二人の母親モントルイユ夫人、彼女の友人サン・フォン伯爵夫人、そして男一人である。
濃縮された台詞のやりとりに息詰まるような緊張感みなぎる舞台で、『北国の春』とはまた異なった演劇の一つの極限的なものを感じさせる舞台で、それが「やばい」につながっていたと思う。
感想を書こうと思えば、一つの演劇論を書くようなものとなるだろうが、今、それを書くには自分には荷が重すぎる。


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