シェイクスピア以外の観劇記録・劇評

 

2017年11月の観劇日記

030 4日(土)14時開演、熊楠生誕150周年記念・ワンダーランド第44回公演

『デモクラティアの種』―熊楠が孫文に伝えた世界―

作・演出/竹内一郎、脚本協力/中島直俊、
舞台美術/松野 潤、作曲/西村勝行
出演/岡本高英、本郷小次郎、川口啓史、松岡由眞、大内慶子、下京慶子、石井仁美、他、総勢20名 紀伊國屋ホール、(チケット:4000円)、座席:C列7番


【観劇メモ】
故井上ひさしは、人物評伝記を劇化するにあたって克明な年表を作り、資料のない隙間に想像力を働かせて物語を膨らませていたが、竹内一郎が描く南方熊楠の評伝は、孫文が1901年(明治34年)、和歌山に熊楠を訪問したわずか2日間の史実からフィクションを作りあげた。
南方熊楠については、2001年に俳優座で、杉本苑子の原作を八木柊一郎脚本、安井武演出による『阿修羅の妻』で、松野健一が演じた熊楠を観て以来ずっと関心があって、今回、この劇を観るに当たって、当時買ったままで積読になっていた神坂次郎著『縛られた巨人』(新潮社刊)を読み、一層熊楠に対する関心が募った。
折しも、熊楠生誕150周年ということで、朝日新聞の文芸欄「文化の扉」で、「熊楠 知るほどすごい」という記事が掲載された(2017年10月1日、朝刊)。
熊楠の生涯はそれだけでもドラマチックだが、その業績については今後100年経っても解明尽くせないものがあるが、ロンドンの大英博物館で知り合った孫文と熊楠、この二人の友情を、孫文の和歌山訪問の場面を熊野の山中にして、わずか1日に凝縮して熊楠という人物を見事に描き出した。
100年も先んじた熊楠のエコロギー(エコロジー)への関心を森の精霊たちを登場させることで描く一方で、身の危険を顧みず東京からわざわざ訪ねて来た孫文と熊楠の深い友情、そこで孫文は彼を追って来た暗殺者に命を狙われるが森の精霊たちによって救われ、暗殺者も中国を一つにしようという孫文の強い意志に惹かれ考えを改める一方、孫文自身がその主義主張を改め、後の三民主義に至るきっかけとなる。
当時の中国を取り巻く世界情勢や、熊楠の粘菌に関する執着、自然への関心、十二支に関する伝説など、森の精霊がスライドを用いて劇中で解説を加えるという演出の工夫によって、世界的には名前を知られていても日本ではほとんど知られていない南方熊楠について理解が出来るように配慮されていた。
この公演は、今年(2017年)2月5日に和歌山市で公演された『熊楠と孫文―熊楠が孫文に伝えた世界―』を、「平成29年度文化庁芸術祭参加公演」として再演するために装いを新たにしたものであるという。
主役の熊楠には、和歌山出身の岡本高英が熊楠の大らかさ、包容力を感じさせ、とくに孫文を見送る場面では、船が出て姿が見えなくなるまでは孫文の方を見ようともしないが、船が去ってしまった後、感情むき出しで涙ながらに叫ぶ姿は感動的で、胸を打つ好演であった。
出演は、孫文に俳優座の川口啓史、孫文を資金面で援助した中国人温炳臣を本郷小次郎、孫文を兄の敵として命を狙う劉小鈴に下京慶子、空間の精霊に松岡由眞、時の精霊に石井仁美、他。
熊楠と孫文の友情、精霊たちとの交流に心温まるものを感じた一方で、孫文の理想は今の中国を見ていると、ますます遠のいているようにも感じた。
上演時間は、1時間40分。

 

031 6日(月)13時開演、こまつ座・第120回公演 『きらめく星座』

作/井上ひさし、演出/栗山民也、音楽/宇野誠一郎、美術/石井強司
出演/秋山菜津子、木場克己、山西 惇、久保酎吉、木村 靖、深谷美歩、田代万里生、後藤浩明、
阿岐之将一、岩男海史
紀伊國屋サザンシアター、チケット:8000円、座席:4列14番


【観劇メモ】
1988年の初演以来、提こまつ座の代表作の一つとして、携公演を含めて再演を繰り返してきて、今回が8回目という。自分としては今回で3回目になると思う。
この劇の最後の方でオデオン座の居候の一人、木場克己扮するコピーライターの竹田が語る「人間とは」というキャッチコピーは何度聞いても感動を受けるが、それとは別に今回これまでに気付かなかったことに気づかされた。
オデオン座が廃業に追い込まれただけでなく、家屋まで接収となって、家族、居候ともども散り散りに別れていくことになるが、オデオン座の主人であった信吉(久保酎吉)と妻のふじ(秋山菜津子)は、ふじの故郷の長崎に一緒に戻ることになる。
この舞台の時代背景は昭和15年に設定されているが、二人が長崎に戻ってそのまま暮らしていたとしたら、彼らは昭和20年8月9日の長崎原爆投下で命を失う運命となる。
それを思ったのは、開幕の時に聴かされる空襲警報解除の鉦の音が、終幕の時には空襲警報として鳴らされる、その音を聞いた時だった。
そう思ってこの劇を振り返ると、終幕の演出が、開幕と同様に全員が防毒マスクをかぶって、ひとところに身を寄せ合って、その場所だけが薄明るくスポットライトが当てられ、すぐに全景が暗闇となって終幕となる。
何とも象徴的な場面で、心にスポットライトを当てられたような、印象に残る場面である。
何度見ても、何か新しい発見がある。

 

032 18日(土)14時30分開始、阿佐ヶ谷ワークショップ 「オスカー・ワイルドと朗読の世界」

講師・構成と朗読/磯田恵子
阿佐ヶ谷ワークショップ、参加費:1000円(懇親会費含む)


【観劇メモ】
ワイルドの詩、'Requiescat'(「逝きし者に冥福あれ」)の英語と日本語の朗読から始まって、ワイルドの生涯と作品の朗読、そして日本ワイルド協会の会員としてのワイルド研究者の研究や評価など、総合的、多岐にわたって2時間半の講演は充実した内容であった。
参加者は10名に満たなかったが、人数の多寡より、聴衆者の熱心な反応がよく伝わってくる講演と朗読であった。それが講演後の懇親会の参加者の談話によく現れており、お互いの会話で二重三重に楽しむことが出来た。

 

033 6日(月)14時開演、川和孝企画公演+シアターX提携公演 第45回 名作劇場

No. 91 『ことづけ』
作/秋元松代、企画・演出/川和 孝
出演/森 喜行、菊口富雄、藤井九華、吉田幸矢、高橋岳則
No. 92 『喜寿万歳』
作/山本雪夫、企画・演出/川和 孝
出演/根岸光太郎、平山真理子、鷹嘴喜洋子、女鹿伸樹、他、総勢12名
両国・シアターX、チケット:2500円(シニア+出演者割引)、全席自由席(整理番号23番で最前列中央部の席)


【観劇メモ】
2作とも喜劇であったが、笑いの中に人生の悲哀、哀愁を感じさせる佳作で、2作とも、芝居の面白さ、醍醐味をしみじみ、じっくり味あわせてもらった。次回公演が待ち遠しい。

 

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