シェイクスピア以外の観劇記録・劇評

 

2016年6月の観劇日記

011 4日(土)14時、文学座公演
         『何かいけないことをしましたでしょうか?という私たちのハナシ』

作/中島淳彦、演出/鵜山 仁、装置/石山強司
出演/塩田朋子、金沢映子、名越志保、目黒未奈、渋谷はるか、𠮷野美紗、増岡裕子、高柳絢子、
   前東美菜子

紀伊國屋サザンシアター、座席:3列13番

【観劇メモ】
今から37年前の「イエスの方舟」という本当にあった「集団失踪事件」を素材にしたハナシ。
遠い昔の話で、そういうこともあったなというおぼろげな記憶しかないのだが、こうやって舞台化されたものを見ると、今に通じるマスコミの問題なども考えさせられた。
現在ならさしずめSNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)で炎上する事件だろう。
そういった情報の多くがいかにあてにならないか、この劇を観るまでもない。
それが、この長いタイトル「何かいけないことをしましたでしょうか?という私たち」に集約されていると思う。
騒いでいるのは世間であって、当の本人たちには困惑でしかない。
もちろんこれは創作劇であって事実を表現しているわけではないのだが。
ドラマの中では東京オリンピック開催、三波春夫の「オリンピック音頭」や坂本九の歌など、昭和の懐かしい歌を聞くことができ、その感慨にひたって楽しんだ。
劇中のテレビの中継で、東京オリンピック開催のため首都東京の景観が激変した様子などが語られるが、私たちはその中で大切なものをどんどん破壊して失っていったのではないだろうか、という疑問を感じさせられた。
今の世の中もまったく同じである。
やむことなき経済成長を求めて大切なことを忘れ、大事なものを失っていっている気がしてならない。
社会の非難中傷を避けて、かつての信者仲間の救いの手で、日向灘の離れ島に難を逃れて来た7人の信者たち、全員が女性である。
その島は架空の島で、かつての遊郭のあった島として設定され、今ではかつてその遊郭にいた老婆たちだけが住んでいる。
そこで信者たちの間で様々な葛藤が繰り広げられ、信者の過去が明らかにされていったりする。
一方、心臓発作で入院中の「イエスの方舟」の主宰者が、マスコミの追及でさらに病状が悪化し、ついに亡くなってしまうが、7人の女性たちはその島で居酒屋を始めることにする。
深刻な問題と、このあっけらかんとした対称的なコントラストが救いとなっている。
「イエスの方舟」の主宰者の妻を演じた潮田朋子の演技、たたずまいに気品を感じた。
上演時間は、休憩なしで2時間。

 

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