シェイクスピア以外の観劇記録・劇評

 

2016年4月の観劇日記

005 3日(日)14時、
      “トップガールズと仲間たち”による『ラ・ファクチュール〜人生の請求書(ツケ)』

作/フランソワーズ・ドラン、翻訳/梅田晴夫、潤色/白樹 栞、上演台本・演出/山上 優
出演/山崎美貴(文学座)、杉村理加(テアトル・エコー)、白樹 栞、井上 薫(俳優座)、
   貴山侑哉、川口真五、中山夢歩、菊地真之

赤坂RED/THEATERにて。チケット:5000円、座席:C列10番(最前列

【観劇メモ】
人生あまりに運がつき過ぎると、いつかそのしっぺ返しが来るのではないかとその不安にさいなまれる。
その幸運も実は物質的な面でしかないが、最後の最後までこの幸運はついて回る。
しかし、そのツケの支払いは物質的なものではなく、心の問題であったところがこの劇のオチとなっている。
主人公の女性実業家ノエルは美容師として成功をおさめる一方、恋人にもこと欠かない。
別れたいと思った時にはタイミングよく分かれることが出来ただけでなく、すぐに次の恋人が現れる。
そしてまた、5年間付き合ってきた毛皮商品の店主と別れた直後に、彼女の弟への請求書を持った男が彼女の前に現れる。彼は彼女と同じくこれまでに多くの女性遍歴があるが、彼女はそんなことは気にしない。
ところが、男の方がこれまでと違い、ノエルにかかってくる男性からの電話を気にする。
ノエルの方でも彼とはこれまでの男性と異なる気持があって、一旦別れるものの彼はすぐに戻ってくる。
そして二人は、これまでまったくその気になれなかった結婚をすることになる。
幸運のツキを清算するツケは、実はこの結婚であったというのがこのドラマのオチでもある。
その伏線に、舞台の冒頭から登場してくる使用人がいる。彼は実は彼女の財産を狙った泥棒だが、偽の紹介状を持って来て、ノエルの女性支配人には怪しまれるものの、ノエル本人からは信頼されて雇われることになる。
その彼が、ノエルの結婚相手となる最後の恋人と賭けをして、彼が勝てばノエルの宝石をもらえることになっていたが、賭けに勝ったものの彼は直前に逮捕されてしまって宝石は無事に残る。
ノエルにとって、最後の最後まで物質的な幸運はついている。
出演者の演技は楽しんだものの、フランス喜劇としてはちょっぴりシニカルなエスプリが欠けているような気がして物足りなさが残った。
主人公ノエルは多分、白樹栞が演じているのであろうが、チラシの顔写真では女性出演者4人の顔と劇中の役柄がどうしても一致せず見分けられない。役柄も合わせて記載してくれていればと思った。
上演時間は、休憩10分を入れて約2時間。

 

006 9日(土)14時、グループ虎企画・製作 『レ・ミゼラブル』

構成・演出/高橋征男、脚本/冬城久次  
出演/渡邉 翔(ジャンバル・ジャン)、庄田侑右(ジャベール)、林真之介(テナルディエ)、
   白井真木(テナルディエ夫人)、神 太郎(ミリエル神父)、他多数

両国・シアターXにて。チケット:4500円(出演者割引)、全席自由席

【観劇メモ】
主役は勿論ジャンバル・ジャンだが、最初から最後までジプシーのダンスで表象される庄田侑佑が演じるジャベール警部が際立っていたのと、脇を固めるテナルディエとその夫人役の林真之介、白井真木、ミリエル神父の神太 郎の演技が舞台を引き締めていた。
ジャベール警部が「憎んでいないのか?」という問いに対してジャンバル・ジャンは「恐れてはいても憎んではいない」という言葉に、ジャベールは自分のこれまでの生き方を全否定された形で、そのために自ら命を絶つところが、このドラマのすべてを表象していて印象的な場面であった。
上演時間、2時間15分。  

 

007 10日(日)13時開演、『たとえば野に咲く花のように』

作/鄭 義信、演出/鈴木裕美、美術/二村周作  
出演/ともさかりえ、山口馬木也、村川絵梨、石田卓也、大石継太、池谷のぶえ、小飯塚貴世江、他

新国立劇場・小劇場、チケット:3078円(シニア)、座席:バルコニー RB列32番

【観劇メモ】
朝鮮戦争を背景にした北九州の在日を扱った舞台であるが、この劇を通して知った意外な事実は、この朝鮮戦争に、日本海にばらまかれていた機雷の除去活動に海上保安庁が参加させられ、実質的に日本も参戦していたことである。この事は劇としてのフィクションであるとは考えられないので、重い事実としてのしかかってきた。「チョウセン」という差別と朝鮮戦争が自分の幼いころの思い出と重なった。
朝鮮戦争で日本は潤ったとはいえまだ国として貧しかった当時、北朝鮮はユートピアのような国だと信じられてい たように思う。
重い内容ではありながら、3人の在日の女性たちが最後は女性としての幸せ、妊娠と結婚という結末で終わるの で、「野に咲く花」を見るような素朴な喜びを感じることが出来た。
ただ、この劇では在日の問題が希薄に感じられたのは意外でもあった。
ダンスホールの支配人役の大石継太の演技が、テーマとしては重いこの劇を和らげてくれ、よかったと思う。
上演時間、2時間10分。

 

008 17日(日)14時、文学座アトリエ公演 『野鴨』

作/ヘンリック・イプセン、翻訳/原千代海、演出/稲葉賀恵  
出演/坂口芳貞、小林勝也、高瀬哲朗、中村彰男、清水朋彦、奥山美代子、名越志保、他

信濃町・文学座アトリエ、座席:B列5番

【観劇メモ】
イプセンの劇は常に悲劇的破局をはらんでいて、物語の展開としては暗くてやりきれないものがある。
しかしながら、中村彰男が演じるグレーゲルス・ヴェルレの表情が、彼が信じる理想的真実を語るとき何とも形容し 難い、痴呆的な緩んだ狂気を感じさせ、グレーゲルスから真実を知らされて苦しむ清水朋彦が演じるヤルマール・ エクダルもその感情的表情の激高の演技力に引き込まれた。
グレーゲルスの父ヴァレルの坂口芳貞、ヤルマールの父親エクダル老人の両ベテランの演技、そしてレリング医師を演じる大原康裕などの演技を見るのを楽しんだ。
女優陣では、奥山美代子がセルビー夫人、名越志保がギーナ、ヤルマールの娘ヘドヴィクは内堀律子が演じた。
上演時間、途中15分間の休憩を挟んで3時間5分。

 

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