シェイクスピア以外の観劇記録・劇評

 

2016年1月の観劇日記

001 31日(日)14時、ライブアップカプセルズ公演 『線と油絵具』

作・演出/村田裕子  
出演/宮原将護、杉山雅紀、虎玉大介、桂弘、ナギケイスケ、岡本高英、剣崎亮、菊地真之、
   牧野ななわり、鷹野梨恵子、市原茉莉、森谷あずさ

王子小劇場、チケット:3000円、全席自由席

【観劇メモ】
実在した画家松本竣介(1912−48年)をモデルにした創作劇で、主人公松本竣介を宮原将護が演じる。
池袋の貧乏画家の集まるアトリエ長屋を中心にしてドラマは展開され、ほとんどが創作であるが、内容的には随所に実際にあった話が織り込まれている。
西洋の新しい潮流を求めて、マルクス主義的芸術論、シュールレアリズムなどが語られる一方、時代は戦局に左右されていき、画家もその影響、束縛から逃れることができず、戦争絵画を描くことを強いられ、藤田嗣治や横山大観などの戦争協力絵画にアトリエ長屋の画家たちは否定的、軽蔑的な言葉を吐いていたが、結局は自分たちもその中に呑み込まれていく。
竣介は耳が聞こえないため、かえって周囲の状況に惑わされず自分の世界を貫き通すことができるが、絵を描くことでは自分の思いが追い付かず文章でそれを表現し、雑誌を自ら編集して発行するが、資金的に躓き廃刊を余儀なくされる。(史実としては、この雑誌は松本竣介が1936年に創刊した「雑記帳」)
画壇における軍部の影響としては、菊地真之演じる軍人が「国防国家と武術―画家は何をなすべきか」という座談会を演説的口調語っていたのもリアリティがあった。
この劇を観た時には松本竣介なる画家など知らず全く予備知識もなく、あえてそれを持たずに観たが、劇を観た後でこの松本竣介について調べてみると、この劇の内容が雰囲気的には実際にあった話と非常に似通っていたのに興味深く感じた。
実際にあった話との違いの一例として、無名塾の鷹野梨恵子が演じるモデルの夏樹さんは、劇中ではアトリエ長屋の他の画家と一緒になるが、実際には池袋のアトリエ長屋では竣介がモデルと恋愛関係になったため、わずか5か月でアトリエ長屋は解散されているが、劇中ではそのままアトリエ長屋の共同生活が続いている。
なお、題名の『線と油絵具』の「線」は、松本竣介たちが作った「太平洋近代芸術研究会」が発行した雑誌「線」を表したものと思われる(この雑誌は昭和6年に創刊されたが、竣介はマルクス主義の階級的芸術論に共感できず、わずか2号で廃刊となっている)。
実在した人物であるということで調べてみただけであるが、何も知らずに観ても十分に面白く、楽しんで観ることができた。
小劇場で、作者も演出者も出演者も知らないで観る機会を得られるのは、出演者の案内がなければまずないことであるが、自分もその一人で、出演者の紹介で観劇の機会を得ることが出来た。
出演者の名前と顔が一致しないので、竣介を取り巻く画家たちの俳優の名前は分からないが、警察官に牧野ななわり、アトリエ長屋の画家の指導者の福田一郎を岡本高英、女優陣は全部で3人なのでこれは分かる。モデルの夏樹さんを演じる鷹野梨恵子のほか、大家の奈良さんを森谷あずさ、女流画家のキエさんを市原茉莉が演じた。
上演時間:休憩なしで1時間45分 

 

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