シェイクスピア以外の観劇記録・劇評

 

2015年4月の観劇日記

006 3日(金) 14時開演、ENGEKI GENE旗揚げ公演 『龍馬奇譚』

脚本・演出/北村泰助
出演/高橋和久、逢川大樹、菊地真之、北村泰助、由利尚子、難波愛、ほか(総勢15名)

大塚・萬劇場、チケット:3800円、全席自由席


【観劇メモ】
ストリー展開も面白く、パワーのあるエンターテインメントとして楽しんで観ることができた。
あわやという場面はあっても死者が一人も出ないことや、本質的なところでの悪人がいないということも後味の悪さが残らず、さわやかな気持で見終えることができる原因となっている。
村の郷士片岡清蔵(有木敬介)も妹を遊郭に売って金を得て白札郷士になろうとするが、それを隣村の白札郷士池辺源十郎(菊地真之)が奸計をもって阻止しようとするのが事件の発端である。
源十郎には村と村の対立を無くしていくという自分の描く理想の世界があり、そのためには上士と同じ身分となる白札郷士が二人になっては都合が悪く、何としてもそれは止めねばならない。
その手段において源十郎は悪人であるが、目指すところにおいては善である。
源十郎が清蔵を憎む原因の一つが、白札を買うため妹を犠牲にするという点において、自分と同じことをしているという鏡合わせの自己嫌悪も手伝っている。
この村と村の対立に元吉原遊郭の用心棒与吉(逢川大樹)の格好いい役割、村にひょんなことから滞在することになった龍馬(高橋和久)が最後の危ない場面に入って殺人を止め、結局誰一人として犠牲が出ない。
与吉の一人娘蓮(由利尚子)が龍馬に一目惚れするが、龍馬は自分の大望のため、結局は実らぬ恋に終わるが、それもからっとした感じでの別れで適度のカタルシスを感じさせてくれる。
恋あり、アクションありと、100分の時間があっという間に過ぎた。
源十郎演じる菊地真之と龍馬の相棒役愛之助演じる北村泰助の演技、それと逢川大樹の気風の良い演技がなかなか見応えのあるものでよかった。

 

007 15日(水) 18時30分開演、こまつ座公演 『小林一茶』

作/井上ひさし、演出/鵜山仁、美術/堀尾幸男、音楽/宇野誠一郎
出演/和田正人(一茶)、石井一孝(飯泥棒・竹里)、久保酎吉(自身番家主金兵衛・大川流砂)、荘田由紀(水茶屋梅園のお園・他)、石田圭祐(夏目成美)、他総勢12名

紀伊國屋ホール、チケット:7000円、座席:H列13番、プログラム(the 座):1000円

【観劇メモ】
2005年9月に一度観ている。その時のキャストは北村有起哉(一茶)、高橋長英(飯泥棒・竹里)、松野健一(自身番家主金兵衛・大川流砂)、キムラ緑子(水茶屋梅園のお園・他)、小林勝也(夏目成美)、他であった。
今回は久しぶりだったので、井上ひさしの『小林一茶』と藤沢周平の『小林一茶』の両方を再読したうえで観た。

 

008 17日(金) 14時、文学座アトリエの会公演 『20000ページ』

作/ルーカス・ベアフース、翻訳/松鵜功記、演出/中野志朗
出演/采澤靖起、前東美菜子、目黒未奈、高瀬哲朗、外山誠二、他 (総勢8名)

信濃町・文学座アトリエ、座席:B列15番

【観劇メモ】
アトリエ公演ならではの重厚な舞台であった。
テーマ的には大きく分けて二つのことが提示されているように思った。
その契機となるのは、トニーというニートな青年(采澤靖起)の頭の上に、20000ページにおよぶ本が詰まった段ボール箱が落ちてきたことに始まる。
その本の内容は、元歴史学者のブロネイが書いた「スイスの第二次世界大戦中の行為についての公式報告書」であった。その本の内容が、トニーの頭の中にすべて記憶されてしまって、彼の頭の中から離れなくなってしまい、そのため彼は精神病院に入院させられることになる。
しかし、芸能マネージャーのジョン(高瀬哲朗)がその記憶力をショービジネスに利用しようと、100万ドルの懸賞コンテストに参加させる。しかし、トニーは、その本の中身をただ暗記して述べるだけでなく、アウシュビッツ強制収容所の生還者オスカー(外山誠二)の口を通してスイス国民の戦争責任に対する無関心を告発し始め、懸賞金をふいにしてしまう。
一方で、精神科医師のゴズボア(目黒未奈)はトニーの偶然の事故を再現して、もっと有益なことを記憶させる実験を行おうとする。
記憶力の点においてはその実験は成功するが、トニーはその代償に感情表現を失い、ロボトミー化してしまう。
戦争責任と科学万能主義の欺瞞という二つの側面を描く、重い作品であった。
上演時間は、休憩なしで2時間10分。

 

009 19日(日) 13時、タイプスプロデュース公演 『シャンブル・マンダリン』

企画/倉石功、作/ロベール・トマ、演出/パク・バンイル
出演/旺なつき、桐生園加、倉石功、岡本高英、水島文夫、加藤雅也、武田光太郎、森下友香、他 (総勢15名)、ギター演奏/井上達也

座・高円寺2、全席自由席

【観劇メモ】
パリ場末のホテルの一室、マンダリン・オレンジの部屋を舞台にしての7つの挿話からなる軽妙洒脱な喜劇。
その部屋がマンダリン・オレンジの部屋と言われるのは、20年前、このホテルに泊まった一人の中国人の画家がホテル代を払えず、宿泊代の代わりにホテルの部屋全部に絵を描き、なかでもこのマンダリン・オレンジの部屋が一番の人気となっている。
一つ一つの挿話はそれぞれ独立した話で、ホテル利用客のそれぞれの人物造形が面白く、最後にどんでん返しのオチがつく喜劇で、最後の第七話ではその画家が成功して青春の思い出の場所として20年ぶりに訪れる話で締めくくられるという趣向になっている。
それぞれの話がみな面白いが、第二話の「英国の変てこな鳥」で、英国の女スパイを演じる森下友香の超変装ぶりは見ものの一つであった。
四、五、七話に登場する旺なつきの変身ぶりの演技はその中でも一番の見ものであった。
男性陣では、倉石功の第一話の同性愛者の役や、第四話の変身ごっこで神父に変装する岡本高英、第五話でこのホテルの通称鉄仮面と呼ばれている支配人を演じる水島文夫、第六話で銀行強盗役を演じる加藤雅也など、それぞれ演技力の確かな演技を楽しむことができた。
上演時間は、途中10分間の休憩を挟んで2時間40分。

 

 

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