シェイクスピア以外の観劇記録・劇評

 

2014年の7月の観劇日記

013 18日(金) 14時、トゥルースシェル・プロデュース公演 『箱舟の行末』

作/真貝大樹、演出/高橋和久   
出演者/逢川大樹、北村泰助、瀬下智子、菊地真之、井上倫宏、他総勢20名

劇場 すみだパークスタジオ(錦糸町)、チケット:3800円、
座席:全席自由席で最前列中央で観劇


【観劇メモ】
4月にシアターグリーンで観た『ミライキ』は、解離性障害のある人物が主人公であったが、今回は若年性認知症者が主人公で、偶然とはいえ現代の病める個人の側面がテーマとなっているところが共通していて興味深い 『ミライキ』には日英朗読塾の久野壱弘さんが出演、今回は菊地真之さんが出演、両作品ともそれぞれのお誘いで観劇となったことだけが共通点で何の関連性もない。 しかしながら、両作品とも病の中で主人公の頭の中に過去の時代が遡及されてその中で物語が展開するということにおいても共通性があるが、『箱舟』の方は、未来の話も含まれるが結果的には過去の物語が主体となる。 この主人公は言葉をどんどん失っていく若年認知症のため物語をつづっていくのだが、この『箱舟の行末』は旧約聖書のノアの方舟ではなく、秦の始皇帝の時代の徐福を乗せる箱舟である。 徐福は、現在の中ではこの主人公の過去的な父親となり、徐福が抱く赤ん坊は主人公でもあり、主人公が盗み出した親友の生まれたばかりの赤ん坊でもあるという二重性。 主人公は当初過去と未来の両側面を物語化するつもりが、結果的には認知症で未来が削られていくという症状のために、未来の話は火星のユートピアで終わり、過去も氷河期の地球で、物語の人物は地底の中に生息する。 秦の時代の中国であり、現在の中国をも思わせる思想統一など、現代的なテーマが錯綜し、スケールを拡大している。 比較的若い出演者たちが多いながらも、台詞回しもよく、好感のもてる舞台であった。
上演時間、1時間40分

 

014 20日(土)15時30分開演、朗読劇 『銀河鉄道の夜』

脚本/古川日出男、映像/河合宏樹、森重太陽  
出演/古川日出男、管啓次郎(劇中詩)、小島ケイタニーラブ(主題歌と音楽)、柴田元幸(バイリンガル)

明治大学アカデミーホール、チケット:2000円、全席自由席(最前列中央部で観劇)

【観劇メモ】
2011年12月24日、小説家古川日出男が宮澤賢治のヴィジョンを震災後の視点から戯曲化し、詩人・管啓次郎、音楽家小島ケイタニーラブ、翻訳家・柴田元幸と共に作り上げた朗読劇とのこと。 会場が広く、録画の関係もあってかマイクを使っていたので生の声でないのが残念であった。マイクなしでも十分に通る声の力であった。 朗読劇の新しい可能性を知る貴重な体験ができた。

 

015 21日(月)15時、流山児祥事務所公演 『義賊★鼠小僧次郎吉』

原作/河竹黙阿弥、脚本/西沢栄治
演出・構成/流山児祥  
出演/五島三四郎(口上役、与之助)、上田和弘(鼠小僧次郎吉)、甲津拓平(お熊、他)、以下総勢12名

Space 早稲田、チケット:3200円


2014年8月の観劇日記

016 1日(金)13時30分開演、文学座 『終(つい)の楽園』

作/長田育恵
演出/鵜山仁  
出演/金内喜久夫、早坂直家、大場泰正、栗田桃子、上田桃子、冨沢亜古、得丸伸二、他総勢12名

信濃町・文学座アトリエ、B列16番 >

017 13日(水)13時開演、加藤健一事務所公演『If I Were You、こっちの身にもなってよ!』

原作/河竹黙阿弥、脚本/西沢栄治
演出・構成/流山児祥  
出演/五島三四郎(口上役、与之助)、上田和弘(鼠小僧次郎吉)、甲津拓平(お熊、他)、以下総勢12名

Space 早稲田、チケット:3200円

 

2014年9月の観劇日記

018 13日(土)13時開演、SPAC公演 『マハーバーラタ 〜ナラ王の冒険〜』

演出/宮城聰
台本/久保田梓美
音楽/棚川寛子、空間構成/木津潤平  
出演/阿部一徳(語り)、美加理(ダマヤンティ)、王高浩一(ナラ王)、他 KAAT

神奈川芸術劇場<ホール>、チケット:5000円、座席:1階10列8番

【観劇メモ】
演劇の無限ともいえる可能性について深く考えさせられた舞台であった。 『マハーバーラタ』についてはピーター・ブルックの伝説的ともいえる公演を聞き知るのみであったが、宮城聰のこの『マハーバーラタ〜ナラ王の冒険〜』も、一つの伝説を造り上げたと言っても過言ではないだろう。 フランス「アヴィニョン演劇祭」で大好評を博したというのも頷ける。 まず第一の驚きは、その演劇空間の構成。 劇場内に入ると、正面の薄暗いメイン舞台には鉦や太鼓などの楽器が所狭しと詰められていて、役者たちはどこで演技をするのであろうかと思ったが、開演して次第に分かってきたことだが、劇場内そのものが演劇空間となっていて、正面の舞台は二層構造となっていて、楽器の並べられた舞台の上の層にも舞台があり、その舞台は観客席を円周状に取り巻いていて、役者たちはそこを自在に走り回るのであった。 舞台はナラ王とダマヤンティの結婚式の場から始まり、舞台正面奥に動く人物像の影絵が大きく揺らめいて映し出される。気になって後ろ側に振り向くと、12人のコロス(声とムーバーの役割をする)たちがサークル状の舞台(正面に対して上手側)からゆっくりと進んでくる。正面の下手側には、帝釈天、火天、水天、閻魔が四天王のごとく控えている。 舞台衣裳はすべて白を基調としたもので神話的なイメージを醸し出す一方、平安時代的なものを感じさせた。 人物の所作は当初、最小限の動きで、台詞も通常はコロスや「語り」によって語られ、その限りにおいては文楽の人形の動きに等しい。 語りは、浄瑠璃的であるかと思えば、狂言的であったり、多様な語り口で、ギリシア悲劇と日本の伝統芸能のすべてをミックスしたような多様性のある演技で、幽玄、優美な世界を描き出していた。 クライマックスの場に近づいたとき、舞台奥が明るくなる―そこはなんと、観客席となっていた。 アヴィニョン公演を可能な限り再現するために、KAATの舞台上に客席を取り囲む仮設の円形舞台を造り出したのであった。 上演時間は、1時間50分。感動に満ち溢れる至福の時間を満喫した。

<観劇満足度>★★★★★

 

 

019 24日(水)18時半開演の部、こまつ座公演 『きらめく星座』

作/井上ひさし
演出/栗山民也
美術/石井強司
音楽/宇野誠一郎
出演/秋山菜津子、木場勝己、久保酎吉、山西惇、木村靖司、深谷美歩、後藤浩明、峰崎亮介、長谷川直紀、今泉薫

紀伊国屋サザンシアター、チケット:9000円、座席:3列17番

【観劇メモ】
19日(金)13時半開演の部で予約していたが、当日劇場に着くと、小笠原正一役の田代万里生が怪我のため突如休演となり、後日の連絡でこの日に切り替えた。田代の降板でキャストが入れ替わって、正一役には峰崎亮介、電報配達の役に新たに今泉薫が加わった。 余話として。(10月4日記) 「きらめく星座」は昭和15年、高峰秀子、灰田勝彦主演の映画『秀子の応援歌』の主題歌として佐伯孝夫作詩、佐々木俊一作曲で大ヒットしたということを、このところ読んでいる高峰秀子著『わたしの渡世日記』で知った。

 

020 30日(火)14時開演、トム・プロジェクト プロデュース 『淑女のロマンス』

作/水谷龍二
演出/高瀬久男  
出演/前田美波里、柴田理恵、キムラ緑子

紀伊国屋ホール、チケット:4500円(シニア)、座席:C列8番 上演時間、1時間30分(休憩なし)

【観劇メモ】
話の内容よりも、3人のまったく異なる個性的女優たちの絡みが面白く、それを楽しんだ。

 

2014年10月の観劇日記

021 19日(日)14時、二兎社公演 『鴎外怪談』

作・演出/永井愛  
出演/金田明夫、水崎綾女、内田朝陽、佐藤祐基、高柳絢子、大方斐紗子、若松武史

東京芸術劇場・シアターウェスト、チケット:5600円、座席:M列(最後列)10番

【観劇メモ】 幸徳秋水の大逆事件を扱っているが、その中に出てくる台詞は秘密保護法などの現在の政治諷刺を多分に感じさせるものであった。森林太郎の金田明夫、林太郎の母、峰の大方斐紗子が特に印象に残った。 上演時間は途中休憩10分を挟んで2時間50分。

<観劇満足度>★★★★★

 

 

022 21日(火)14時、タイプス公演 『12人の怒れる男』

作/吉永仁郎
演出/西川信廣
出演/加藤武、金内喜久夫、中村彰男、大場泰正、富沢亜古、古坂るみ子

三越劇場、座席:14列17番

【観劇メモ】
毎回キャストが変わって、今回三度目の観劇であるが、陪審員第8号の役だけは毎回新本一真が演じている。 8号を自分の持ち役として続けて行くのも一つの道だが、彼と対極の立場に立つ第3号陪審員(今回は藤村忠生)を演じたらどうなるかも一度観てみたい気がする。 ストーリーの展開は分かっているが、迫真的な展開に引き込まれていった。 平日のマチネとあって、観客は10余名でみな出演者の友人・関係者のようであった。

 

023 25日(土)14時開演、文学座公演 『天鼓』

作/青木豪
演出/高橋正徳、美術/島次郎  
出演/坂口芳貞、南拓哉、寺田路恵、若松泰弘、田村勝彦、前東美菜子、他

紀伊国屋サザンシアター、座席:6列13番

【観劇メモ】
近代能楽集と銘打っているが、SF小説的で、架空の世界―水の国、砂の国―を描きながらも現在の中国と危うくなっていく日本の現状の諷刺ともとれる怖い寓意性を感じる。しかしながら、この危うくなっている現状に誰も行動を起こして異議を唱えない今の日本の現状がいっそう怖い思いがする。 上演時間は休憩なしで2時間。

 

024 31日(金)14時、日本近・現代秀作短編劇/第39回名作劇場 『母の死』、『大臣候補』

作/『母の死』能島武文、『大臣候補』長谷川如是閑  
企画・演出/川和 孝

両国・シアターX
チケット:2800円(シニア)、全席自由席で最前列中央で観劇

【観劇メモ】
秀作の短編小説を読んだ後のような感じの残る舞台であった。 『母の死』は内容的には暗く、『大臣候補』は軽妙な明るさのある作品で、2本の組み合わせもよかった。 たまにはこのような劇を観るのもいいものだと思った。 上演時間は、休憩15分を挟んで、2本で2時間。

 

2014年11月の観劇日記

025 1日(土)14時、『黄昏にロマンス―ロディオンとリダの場合―』

作/アレクセイ・アルブーゾフ、英訳/アリアドネ・ニコレフ、翻訳/常田景子
演出/西川信廣  
出演/平幹二朗、渡辺美佐子
吉祥寺シアター、チケット:4500円(友の会)、座席:C列13番

【観劇メモ】
1場を見始めてすぐに見覚えを感じた。ストーリーが展開していくほど、その気持が強くなった。 観終わってそれは確信に変わったが、いつどこで観たか、誰が演じたかはまったく思い出せず、帰ってから過去の観劇チケットのスクラップ帳で確認すると、2002年4月に、俳優座稽古場での公演で、タイトルは『八月に乾杯!』、訳・演出は袋正、出演は岩崎加根子と小笠原良和であった。 今回は新訳での上演で、平幹二朗と渡辺美佐子の絶妙な演技を堪能することができた。 上演時間、15分の休憩をはさんで2時間10分。

 

026 3日(月)13時、タイプスプロデュース公演 『地方協力本部おせわさん』

作・演出/仁瀬由深  
出演/新本一真、杉山正弘、鈴木澄子、森下友香、隈元ますみ、他 両国

スタジオ・アプローズ

【観劇メモ】
自衛隊の広報部門(自衛隊員の募集活動や退職隊員の職業斡旋活動などを担当)、地方協力本部を描いた作品。自衛隊員受験候補生の実態についてはそのものずばりという感じであったが、案内係(募集営業担当)は、自分が聞き知っている範囲では、少し美化され過ぎた面もないではないという感じであった。 が、まず冒頭から面白かった。 お婆さんが二人、孫娘あずさの自衛隊員受験について相談にやってきており、それを協力本部の副所長(杉山正弘)が応対して一生懸命説明しているところから始まる。 話の具合からこの二人はこれまでにも何回かやって来ているが、肝心の受験生の孫娘は一度も来ていないことが分かる。 あずさの祖母を演じるのは20歳の森下奈瑠美で、今回が初舞台というのにいきなりの老け役はちょっと厳しかったようであるが、その妹役を演じる鈴木澄子は35歳ながらも老け役が板についていて好演技であった。 話はこの地方協力本部にやってくる自衛隊員受験希望者の来訪を中心に展開していくが、一人としてまともな希望者がいないのは自分が聞き知っている通りである。 受験生の一人、就活中の大学生前田(東新優太)はいつも母親(隈元ますみ)同伴で、母親の意志に動かされていて自分の意志や意見を持たない(というより表現できない)。 自衛隊の隊員募集など広い範囲にわたって協力を得ているのは自衛隊講演会の存在であり、その後援会会長役を森下友香が演じ、劇の進展を盛り上げてくれる。 集団自衛権についての戦争の心配なども話題に出てくるのは時節柄当を得ていて、この劇のふくらみをなしている一方、ドラマの伏線に3・11の東日本大震災が組み込まれていて、協力本部所長の施和(新本一真)が実はその後遺症を抱えていることが、劇の後半部で分かってくる。 前半部と後半部ではテーマの二重性となるが、劇の作者、仁瀬由深(ひとせ・ゆみ)はいつかこの3・11を描く機会を待っていたようである。 3・11を内包させるために、所長を変わりものに仕立て、所長に付きまとう暴漢多々野(みつる)を登場させる。 多々野は6歳の娘を震災で失い、彼女は瓦礫の下で生きていて助かっていたかもしれないと、その時の救助の責任者である施和に逆恨みしているのであった。 しかし、当の本人施和も家族を津波で失っていてそのトラウマに苦しんでいることが分かってくる。 家族を失った悲しみに当事者たちは沈黙するほかはなく、施和はいつになったら大声でさけぶことができるのだろうと多々野に語りかけ、多々野は二度と施和の前に現れないと言って去っていく。  自衛隊員の救助活動や、海辺で波が打ち寄せる映像が映し出される場面がしばらく続くが、最近の舞台では映像の活用は特に珍しいものでもないが、今回の映像の挿入は効果の面でもよかったのではないかと思う。 全体的に楽しんで観ることができた。

 

027 11日(火)14時、加藤健一事務所公演 『ブロードウェイから45秒』

作/二―ル・サイモン 訳/小田島恒志、小田島則子
演出/堤泰之  
出演/加藤健一、石田圭祐、新井康弘、加藤義宗、滝田裕介、加藤忍、佐古真弓、中村たつ、天宮良、占部房子、田中利花、山下裕子

紀伊国屋サザンシアター、チケット:5400円、座席:2列13番

<観劇満足度> ★★★★★

 

028 16日(日)13時、文学座附属演劇研究所・本科54期生発表会 『女の一生』

作/森本 薫
演出/小林勝也、中村彰男

信濃町・文学座アトリエ

【観劇メモ】
プロローグ、エピローグ含めて全部で7場面、登場人物のキャストがすべて別で、はじめは人物を見分けるのに苦労したが、反面、明治38年から昭和20年までの歳月の物語で、そのときどきでキャストが異なるのを楽しむことができるともいえる。ただし役者は研修生なのでみな一様に若く、歳を取った役になっても特に老けたメークをするでもなく、ほぼ自然体であった。 上演時間は途中10分間の休憩をはさんで2時間35分。

 

029 29日(土)14時、燐光群公演 『8分間』

作・演出/坂手洋二  
出演/円城寺あや、川中健次郎、猪熊恒和、大西孝洋、さとうこうじ、岡本舞、中山マリ、鴨川てんし、他

座・高円寺1 チケット:3600円
座席:D列(前列から2列目)11番 上演時間:休憩なしで2時間

 

030 29日(土)18時、グローブ文芸朗読会

『伯爵と結婚式の客』 
作/緒―/ヘンリー、訳/大津栄一郎、朗読/白井真木
『ドクター・マリゴールド』  
作/チャールズ・ディッケンズ、訳/梅宮創造、朗読/佐藤 昇

荻窪かんげいかん、会費:2000円

 

2014年12月の観劇日記

031 18日(木)14時、グローブ文芸朗読会 『クリスマス・キャロル』

朗読台本・演出/蔀 英治  
出演/蔀 英治、女鹿伸樹、菊地真之、北村青子、高木直子、倉橋秀美
ヴァイオリン演奏/武田桃子

武蔵野スイングホール、チケット:3000円

 

032 20日(土)15時 SCOT公演

『トロイアの女』 (15:00−16:00)  
構成・演出/鈴木忠志、原作/エウリピデス、翻訳/松平千秋  
出演/藤本康宏(神像)、齊藤真紀(老婆、ヘカベ、カサンドラ)、佐藤ジョンソンあき(花売りの少女、アンドロマケ)、竹森陽一、植田大介、石川治雄(3人の侍、ギリシア兵)、加藤雅治(廃車の男)、他5名(老人・老婆、トロイ)30分の休憩時間、鈴木忠志のトーク。
『からたち日記由来』(16:30−17:30)  
演出/鈴木忠志、作/唐沢信夫  
出演/内藤千恵子、平垣温人、塩原充知

吉祥寺シアター、チケット:(2演目セット価格)5400円、座席:D列9番

 

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