高木登劇評-アーデンの森散歩道-別館-2011年1月〜

 

2011年1月の観劇記録
 
001 9日(日)昼、こまつ座公演 『化粧』

作/井上ひさし、演出 鵜山仁、美術/堀尾幸男
出演/ 平淑恵

紀伊國屋ホール

 

【観劇メモ】
昨年亡くなった井上ひさしの追悼公演。
これまで木村光一演出で、渡辺美佐子によって演じられてきた『化粧』が、今回から装いも新たに鵜山仁演出、平淑恵の演技で再出発。
渡辺美佐子の演技で過去2回見ているが、それまでこの劇を理解していたと思えない発見が今回あった。
まず美術の面で、役者名の幟がボロボロで傾いて今にも崩れそうな状態の意味を理解していなかった。
その幟が劇の途中でさらに傾き、何かが崩れる音が何度かするが、それはこの小屋を壊している為のものであるということを分かっていなかった。
平淑恵演じる五月洋子は、取り壊されつつある芝居小屋の中で、半ば狂った状態で現実と自分が演じてきた芝居の役とが混在している。
ときおり自分を取り戻し、トシ坊とういう使い走りの役者の名前を呼ぶが答えがなく、自分の周囲に誰もいないことに気づくが、すぐにまた自分の空想の世界に戻っていく。
20年前に捨てたわが子と、芝居の筋立てがまったく同じように平行して語られ、我が息子との再会の悦びも束の間、二人を結ぶ絆の守り袋の鬼子神が、入谷と雑司ヶ谷と場所違いであったという結末の悲喜劇。
今回の演出でこれまでと大きく異なっているのは、最後の場面で五月洋子が舞台の上で宙吊りになった状態で芝居を演じるところであるが、これは役者五月洋子の昇天を暗示するものとしてとらえることができる、と後になって思った。

休憩なしの1時間20分の一人芝居、大変なことだとあらためて思う。

<私の観劇評>★★★★

 

002 22日(土)昼、『わが町』

作/ソートン・ワイルダー、翻訳/水谷八也、演出/宮田慶子、音楽/稲本響、照明/沢田祐二
出演/小堺一機、相島一之、橋本淳、齊藤由貴、鷲尾真知子、佃井皆美、他


新国立劇場・中劇場

 

【観劇メモ】

この劇は三幕のために前二幕が存在する劇だと思った。
舞台監督(小堺一機)がこの劇の舞台であるグローバーズ・コーナーズの時間・空間ともに自在に操って、劇の進行を務める。
一幕目と二幕目この劇の表の主人公エミリー(佃井皆美)の高校生の時から結婚式までを描き、三幕ではエミリーが二度目のお産で亡くなり、グローバーズ・コーナーズの高台にある墓地の死者の世界が舞台となる。
グローバーズ・コーナーズに登場する人物は皆平凡な生活を送っているごく普通の人々である。
ごく普通の日常の中で、人はそれを当たり前のように感じ(否、感じることすらなくて)、空気のように過ごしている。
しかし人は亡くなってはじめてそのなんでもなかった生活が非常に貴重なものだったことに気づく。
ワイルダーはそれを死者の眼で描いたが、実は生きて残っている者が亡くなった人の過去の思い出に帰ることができたらと願うことである。
エミリーは死の世界から生きていた時の時代、自分の12歳の誕生日の日に戻してもらう。
彼女の母親も父親も当然のことながら若い。エミリーはそのことに新鮮な驚きを感じる。
だが父や母に声をかけてもその声は肉声として彼らの耳には届かない。
エミリーは耐えられなくなり、すぐに死者の世界に戻してもらう。
この劇はごく普通の人々のごく普通の出来事を描いているのに、世界中でいくたびも上演されている秘密は底にあると思う。
三幕で町の人々の死者として登場するさいたまゴールド・シアターの高齢者の演技が自然体で重厚な存在感を感じさせる。
テーブルと椅子以外には舞台道具として何もないが、照明で立体感のある室内風景や街の風景を、新国立劇場のだだっ広い空間に作り上げて、まるで舞台装置があるような錯覚を感じさせる。
この舞台の主役は、その沢田祐二の照明と、稲本響のピアノ演奏と、さいたまゴールド・シアターの老人パワーであると思った。
上演時間は、二幕後の休憩時間20分をはさんで3時間10分。

<私の観劇評>★★★★

 


2月の観劇記録
 
003 14日(月)夜、文学座公演 『美しきものの伝説』

作/宮本 研、演出/西川信廣、装置/石井強司
出演/得丸伸二、星智也、城全能成、荘田由記、松角洋平、他

紀伊国屋サザンシアター

 

004 20日(日)昼、加藤健一事務所公演 『コラボレーション』

作/ロナルド・ハーウッド、訳/小田島恒志・小田島則子、演出/鵜山仁、美術/倉本政典
出演/加藤健一、福井貴一、塩田朋子、加藤忍、加藤義宗、河内喜一郎

紀伊國屋ホール

 

【観劇メモ】

ドイツの作曲家リヒャルト・シュトラウスがオーストリアの作家でユダヤ人のシュテファン・ツヴァイクとの出会いによってオペラ『無口な女』を制作にかかる。そこへナチスのユダヤ人迫害が押し寄せてきて、ツヴァイクはブラジルまで逃避し、そこで自殺する。シュトラウスも時代に翻弄され、ベルリンオリンピックの賛歌の作曲など、ナチスの片棒を担がされる。芸術家の戦争(加担)責任は日本でも問題(話題)になったが、過ぎ去った後では誰でもそれを非難することができるが、そんな単純なものではないことを考えさえられる。家族をもつ個人として考えた時、その家族を守ることに誰がそれを非難できるのか?!

<私の観劇評>★★★★


3月の観劇記録
 
005 4日(金)夜 二兎社公演 『シングル・マザーズ

作・演出/永井愛、美術/大田創
出演/沢口靖子、根岸季衣、枝元萌、幻覚悠子、吉田栄作

東京芸術劇場・小ホール1

 

【観劇メモ】

シングルマザーを通して、児童手当の問題やDV(夫の家庭内暴力)など、社会風刺と批判を軽妙かつコミカルに、ときに胸熱くなるようなタッチで楽しませてくれる。
途中休憩10分をはさんで2時間の上演時間があっという間に過ぎ、もっと見ていたい気持。

<私の観劇評> ★★★★★

 

 

006 19日(土)昼、こまつ座公演・井上ひさし追悼ファイナル 『日本人のへそ』

作/井上ひさし、演出/栗山民也、音楽/小曾根真、美術/妹尾河童
出演/石丸幹二、笹本玲奈、辻萬長、植本潤、吉村直、久保酎吉、たかお鷹、他

渋谷Bunkamuraシアターコクーン

 

<私の観劇評>★★★★

 

4月の観劇記録
 
007 28日(木)夜、新国立劇場主催 『ゴドーを待ちながら

作/サミュエル・ベケット、翻訳/岩切正一郎、演出/森新太郎、美術/礒沼陽子
出演/橋爪功(ヴラジミール)、石倉三郎(エストラゴン)、山野史人(ポッゾ)、石井愃一(ラッキー)、柄本時生(少年)

新国立劇場・小劇場

 


008 29日(金)昼、加藤健一事務所公演 『出発(たびたち)からの詩集(アンソロジー)』

作/ウィリアム・ニコルソン、翻訳/小田雄恒志、演出/鵜山仁、美術/島次郎
出演/加藤健一、久野綾季子、山本芳樹

下北沢・本多劇場

 

<わたしの観劇評>★★★★

【観劇メモ】

2007年6月と同じ顔ぶれで再演。前回のタイトルは『モスクワからの退却』だったが、今回はサブタイトルになっていた。夫エドワードに完全な愛を求める妻アリスの破局の物語。

 
5月の観劇記録
 
009 11日(水)夜 『たいこどんどん』

作/井上ひさし、演出/蜷川幸雄、音楽/伊藤ヨタロウ、美術/中越司、衣裳/小峰リリー  
出演/中村橋之助、古田新汰、鈴木京香、宮本裕子、大石継汰、大門伍朗、瑳川哲朗、六平直政、他

BUNKAMURA・シアターコクーン  

 

<上演時間>途中休憩時間20分を挟んで3時間40分

 

010 13日(金)夜 『鳥瞰図』

作/早船聡、演出/松本祐子、美術/島次郎
出演/渡辺美佐子、八十田勇一、佐藤銀平、品川徹、他

新国立劇場・小劇場

 

<わたしの観劇評>★★★★

 
6月の観劇記録
 
012 11日(土)昼 『雨』

作/井上ひさし、演出/栗山民也、美術/松井るみ  
出演/市川亀次郎、永作博美、植本潤、たかお鷹、石田圭祐、山本龍二、花王おさむ、梅沢昌代、他多数  

新国立劇場・中劇場

 

<わたしの観劇評>★★★★★


013 15日(水)夜 燐光群公演 『推進派』

作・演出/坂手洋二  
出演者/はしぐち しん、猪熊恒和、大西孝洋、中山マリ、鴨川てんし、川中健次郎、杉山英之、松岡洋子、樋尾麻衣子、他  


下北沢、ザ・スズナリ

 

<わたしの観劇評>★★★★

 

014 22日(水)夜 劇団民藝公演 『帰還』

作/坂手洋二、演出/山下悟、装置/島次郎  
出演/大滝秀治、杉本孝次、中地美佐子、藤田麻衣子、西川明、稲垣隆史、他
紀伊国屋サザンシアター

下北沢・本多劇場

 

<わたしの観劇評>★★★☆(3.5)

【観劇メモ】
現実と幻想的なものが混成した作品。 主人公は元高校の美術教師で、その絵は何度も賞を取るほどのプロ並みだが、絵を大事にするためにプロにならなかった。しかしその彼は表向きの顔であって、実は左翼の活動家で、ゆえあって九州のある集落に身をひそめることになったという過去を抱えている。非合法の活動をしている為か、彼は自分の家にはほとんどよりつかなかっただけでなく、妻が亡くなった時にも帰って来なかった。そんな彼に彼が身を寄せている施設に息子が訪ねてくる。 息子は父親とほとんど共に過ごし時がないせいか、父親に対する言葉は肉親としては距離のある言葉遣いである。息子と話している時、テレビでダム建設反対でひとり反対してその地を離れようとしない女性がなぜか、自分の顔をアップで無言に写し出させる行動をとる。それを見ていた彼は、何かを電撃的に感じる。
彼はその集落に二年ほど潜伏していたことがあり、また戻ってくると言う無言の約束を交わしていたことを思い出し、その約束を果たすべくその村に「帰還」する。 
そこには50年という歳月が流れ去っていたが、彼が住まっていたところには、彼の身の廻りを世話した女性(はその娘で、彼の娘でもある)が一人住んでいる。彼女がそのテレビに映し出された女性であるが、彼女は彼を呼び戻すために故意にテレビに映し出されたのであった。
ダム建設のために村が離散した状態と、ダムによる弊害がどれだけ大きなものであったかを、このドラマを通して考えさせられる。だが、50年前に亡くなったはずの人間が洞窟の中で生きていたり、少し現実離れしたシュールなところもあるなかに、2年前の政権交代からダム建設の見直しなど、現実的な問題に立ち返ったりして、エンディングも少し落ち着きの悪いところがあったりしたが、坂手洋二の作品は多重的な広がりを見せて面白い。

 

 
7月の観劇記録
 
015 1日(金)夜 『おどくみ』

作/青木豪、演出/宮田慶子、美術/伊藤雅子  
出演/高橋恵子、小野武彦、樋田慶子、谷川昭一朗、根岸季衣、浅利陽介、黒川芽以、東迎昂史郎、他 
新国立劇場・小劇場


016 22日(金)昼、加藤健一事務所公演 『滝沢家の内乱』

作/吉永仁郎、演出/高瀬久男  
出演/加藤健一、加藤忍 (声の出演)風間杜夫、高畑淳子

下北沢・本多劇場

 

8月の観劇記録
 
017 13日(土)昼 トム・プロジェクト プロデュース 
       『エル・スール〜わが心の博多、そして西鉄ライオンズ〜』

作・演出/東憲司、美術/ヨネクラカオリ  
出演/たかお鷹、松金よね子、冨樫真、岸田茜、清水伸

笹塚ファクトリー

 

<わたしの観劇評>★★★★


018 14日(日)昼 Project Nyx 第7回公演 『伯爵令嬢小鷹狩掬子の七つの大罪』

作/寺山修二、演出/金守珍、構成・美術/宇野亜喜良  
出演/寺島しのぶ、水嶋カンナ、松熊つる松、野口和美、村田弘美、他

下北沢/ザ・スズナリ

 

9月の観劇記録
 
019 9日(金)夜、こまつ座公演 『キネマの天地』

作/井上ひさし、演出/栗山民也、美術/石井強司  
出演/麻美れい、三田和代、秋山菜津子、大和田美帆、木場勝己、古河耕史、浅野和之

紀伊國屋サザンシアター

 

<わたしの観劇評>★★★★★


020 17日(土)昼、青年劇場公演 『普天間』

作/坂手洋二、演出/藤井ごう  
出演/高安美子、矢野貴大、吉村直、上甲まち子、清原達之、佐藤尚子、他

紀伊國屋ホール

 

<わたしの観劇評>★★★★



021 24日(土) 『朱雀家の滅亡』

作/三島由紀夫、演出/宮田慶子、美術/池田ともゆき  
出演/國村隼、木村了、香寿たつき、柴本幸、近藤芳正

新国立劇場・小劇場

 

<わたしの観劇評>★★★★



10月の観劇記録
 
022 29日(土)昼 『イロアセル』

作/倉持裕、演出/鵜山仁、美術/乗峯雅寛、照明/服部基、映像/鈴木大介  
出演/藤井隆、小嶋尚樹、島田歌穂、剣幸、ベンガル、花王おさむ、木下浩之、他

新国立劇場・小劇場

 

<わたしの観劇評>★★★★


 

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