高木登劇評-アーデンの森散歩道-別館-

 

1月の観劇記録
 
001 9日(土)昼 加藤健一事務所公演 『シャドーランズ』

作/ウィリアム・ニコルソン、訳/小田島雄志、小田島恒志
演出/鵜山仁、美術/倉本政典
出演/加藤健一、春風ひとみ、斎藤晴彦、新井康弘、佐藤誓、他

下北沢・本多劇場

 

2月の観劇記録
 
002 7日(日)昼 燐光群公演 『アイ・アム・マイ・オウン・ワイフ』

作/ダグ・ライト、訳/常田景子、演出/坂手洋二
出演/川中健次郎、猪熊恒和、杉山英之、中山マリ、鴨川てんし、樋尾麻衣子、他

吉祥寺シアター

 

003 23日(火)昼 こまつ座公演 『シャンハイムーン』

作・井上ひさし、演出/丹野郁弓、音楽/宇野誠一郎、美術/島次郎
出演/村井国夫、有森也実、小嶋尚樹、増子倭文江、梨本謙次郎、土屋良太

紀伊國屋サザンシアター

 

3月の観劇記録
 
004 6日(土)昼 『象』

作/別役実、演出/深津篤史、美術/池田ともゆき
出演/大杉漣、稲垣吾郎、神野三鈴、奥菜惠、羽場裕一、山西惇、他

新国立劇場・小劇場

 

●アフタートーク: 鵜山仁、大笹吉雄、別役実、深津篤史

【観劇メモ】

アフタートークが参考になった。

作品が書かれてからほぼ半世紀たつ。

世間的には別役実の代表作のひとつとみなされているが、作者によれば当初は自分ながらその情緒的なべたべたしたところに耐えられなかったという。

ところが深津篤史の演出は、からっと乾燥していてこれまでの中でも最高だという。

大杉漣の演じる病人が、喜劇的に描かれているところに、その特徴があるという。

病人が悲劇的に描かれる時代と、喜劇的に描かれる時代があり、喜劇的に描かれる方が開放感があるともいう。

深刻であって深刻にならないところ、どこかじわーっとしたおかしみのあるところがいい。

神野三鈴が演じる病人の妻がお結びを食べているところ、そしてそのお結びの食べ方が悪いと言って病人の男がお結びの食べ方のうんちくを語るところなど、そのよい例だろう。

 

005 15日(月) 俳優座プロデュース公演 『兵器のある風景』

作/ジョー・ベンホール、訳/常田景子、演出/坂手洋二、美術/島次郎
出演/大西孝洋、中嶋しゅう、荻野目慶子、浅野雅博

俳優座劇場

 
4月の観劇記録
 
006 9日(金)夜、二兎社公演 『かたりの椅子』

作・演出/永井愛、美術/大田創
出演/竹下景子、山口馬木也、銀粉蝶、大沢健、でんでん、花王おさむ、他

世田谷パブリックシアター

 

【観劇メモ】

タイトルだけを見ると何のことか分からなかったが、永井愛の作品というだけで面白いだろうと思っていたが、期待に違わず面白かった。

永井愛の戯曲は、他の作品の本歌取りにした意外性の発展や、パロディの面白みを骨頂とするように思う。

『かたりの椅子』は新国立劇場の鵜山仁解任事件(?)のパロディを感じさせるものであり、痛烈な風刺に溜飲の下がる思いがした。

銀粉蝶演じる文部科学省からの天下りの文化振興財団理事長は、新国立劇場の理事長とぴったり重なる役柄であり、この劇の舞台である可多里(かたり)市で開催されるアート・フェスティバルの実行委員長が鵜山仁に当たる。

フェスティバルのプランを作った理事長の案をことごとくひっくり返した案を作った実行委員長を解任させるときの台詞がまったく新国立劇場の茶番劇と一緒である。

解任の理由に、実行委員長との「コミュニケーションがとりにくい」という財団理事長の台詞は、新国立劇場の理事長の弁そのものである。

それよりももっと怖いのは、当事者がいかに体制に懐柔され、それに流されていくかということである。

 
007 12日(月)昼、東京裁判三部作第一部 『夢の裂け目』

作/井上ひさし、演出/栗山民也、美術/石井強司
出演/角野卓造、藤谷美紀、熊谷真美、木場克己、キムラ緑子、大鷹明良、高橋克美、石井一孝、土居裕子

新国立劇場・小劇場

 

●アフタートーク: 鵜山仁、藤谷美紀、熊谷真美、キムラ緑子

鵜山仁の話が面白かった。この三部作の演出家栗山民也と彼は同い年で、演出の仕方がまったく対照的というか、対極にあるらしい。栗山民也は最初から俳優に一つ一つ事細かに演技の注文をつけるが、鵜山仁は、最初は俳優に好きなようにやらせていてそこからチョイスしてしどうしていくタイプだという。トークに出席していたキムラ緑子の場合は、鵜山仁のタイプの方がやりやすいような発言であった。

鵜山仁自身がこの三部作を自分でも演出してみたいという強い意欲を示していたが、是非実現してほしいものだ。そこには栗山民也の演出に対する対抗意識がありありとのぞいて見えた。

作者井上ひさしの訃報の後だけに、この劇を見ている途中に、劇の内容とは関係ないところで、眼頭が熱くなってきた。

 

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