高木登劇評-アーデンの森散歩道-別館-

 

5月の観劇記録
 
010 9日(土)昼 こまつ座&ホリプロ公演 『きらめく星座

作/井上ひさし、演出/栗山民也、音楽/宇野誠一郎、美術/石井強司
出演/久保酎吉、愛華みれ、木場勝己、八十田勇一、前田亜季、他

天王洲銀河劇場


011 23日(土)昼 シリーズ・同時代 【海外編】 『タトウー』

作/デーア・ローアー、翻訳/三輪玲子、演出/岡田利規、美術/塩田千春
出演/広岡由里子、吹越満、柴本幸、内田値慈、鈴木浩介

新国立劇場・小劇場

 

【観劇メモ】

異物を喰らい込んだようで、見終わった後、むかつくような違和感を排斥したくなるような劇である。

吐き出したいとか排除したいという気持を超えて、排斥という表現でしか表せないような心持であった。

父親による娘への近親相姦というおぞましいテーマ自体、抑えようのないむかつきを感じた。

原作者であるローアー自身、その言いようのないことを伝えるための言葉を見つけることに苦労し、方言的な表現や実在しない造語を織り交ぜて、自由詩形式で表現した人工言語を作り出す以外に方法がなかったように述べている。(注1)

舞台での台詞表現も、その原作の言語表現を考慮してか、感情移入を全く排除した人工表現ともいうべき会話形式である。

感情移入のない表現でありながら、むしろ生々しいおぞましさが表出されてくる。

近親相姦のテーマは、はるかギリシア悲劇の時代から見られるものであるが、古代のそれは避けがたい人間の運命論、あるいは宿命論として、異教の生贄の儀式のようでもあるが、現代のそれは反社会的行為としての家庭的悲劇という卑小化されたおぞましさだけがのぞいている。

非日常的言語表現で会話されることによって、近親相姦という反社会的行為が形象化され記号化されるという効果が生まれているように感じた。

岡田利規の演出もさることながら、印象的だったのは舞台美術が初めてという美術家の塩田千春の美術。

舞台平面には何もなく、天井から無数の窓枠が吊り下げられ、そのところどころに部屋のオブジェとなる椅子やテーブル、寝台などが吊り下げられていて、それらが必要に応じて舞台平面まで下りてくる。

照明も非常にユニークであり、劇の途中、ときおり客電が灯り、観客席に照明が当てられて自分がその舞台に参加しているような気分にさせられたのは、自分の席が最前列ということも関係していたかも知れない。

劇としては見たくない部類のものであるが、演劇表現の可能性という点においては見逃せないものがある。

シリーズ同時代としてのテーマ性ということがなければ、決して自分から進んで見る劇ではないだけに、このシリーズの有難味を感じた。

上演時間、1時間30分。

(注1)プログラムへの作者の寄稿文『特別な日に寄せて』より引用。


 

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