高木登劇評-アーデンの森散歩道-別館-

 

2月の観劇記録
 
005 6日(金)昼 『ムサシ』

作/井上ひさし、演出/蜷川幸雄、音楽/宮川彬良、美術/中越司、衣裳/小峰リリー
出演/藤原竜也(宮本武蔵)、小栗旬(佐々木小次郎)、吉田鋼太郎(柳生宗矩)、辻萬長(沢庵宗彭)、鈴木杏、白石加代子、大石継太、他

彩の国さいたま芸術劇場・大ホール

 

【観劇メモ】

絵を見るような場面から始まった。

宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島の決闘のシーンから始まる。

ホリゾントに大きく浮かぶ日輪が時に大きく膨張するように見えたのは目の錯覚か?

小次郎を倒した武蔵は彼がまだ息をしていることを確かめ、細川家の家臣に彼の手当をするように告げて足早に去る。

舞台は鎌倉へと移り、小さな禅寺源氏山宝蓮寺の寺開きの参籠禅が始まろうとしているところ。

寺には大徳寺の長老沢庵宗彭、柳生宗矩、大旦那の木屋まいと筆屋乙女、それに寺の作事を務めた武蔵が参加している。

そこへ、再度決闘するために諸国を捜し歩いた小次郎がやってくる。

物語はこの武蔵と小次郎の決闘をやめさせるために、この寺の参籠者たちがひと芝居を打つことで新たな展開を迎える。

小次郎は、実はもと猿楽の舞妓であった木屋まいの子で名前を蝉丸といい、天皇のご落胤で皇位継承権が18番目という奇想天外な話で、武蔵との決闘を止めようとする。

木屋まいの作り話が武蔵に見破られたため、一同は亡霊の姿になって現れる。

亡霊の一人一人が、生きているときは辛く苦しいだけで死にたいと思っていたが、死んで初めて生きていたことの愛おしさが分かって生きることの大切さが分かったと語るのが、今の世を象徴しているようで切なさを感じた。

能狂いの柳生宗矩を演じる吉田鋼太郎もノリノリなところが愉快であった。

井上ひさしのあて書きは、見る者にとっても俳優再発見の場でもあった。

井上ひさしという作家がいかに鋭くその人の本質を見抜いているかも改めて感心した。

座席はO列15番と位置的には舞台から少し遠いが、全体がよく見通せた。


006 20日(金)昼 シリーズ・同時代 【海外編】 『昔の女』

作/ローラント・シンメルプフェニヒ、翻訳/大塚直、演出/倉持裕、美術/中根聡子
出演/松重豊、七瀬なつみ、西田尚美、日下部そう、ちすん

新国立劇場・小劇場

 

【観劇メモ】

引越しの前日。

主人公のフランク(松重豊)を訪ねて24年前の恋人ロミー・フォークトレンダー(西田尚美)が突然にやってくる。

それからドラマは、時間がときどき現在と少し前の過去を前後させながら錯綜して進展する。

女は、男がずっと愛し続けると約束したと主張し、その契約を果たすことを求める。

男には息子が一人いる。名前はアンディ(日下部そう)。

アンディには恋人がいて、彼は彼女を愛し続けると言ってはいるが、もう絶対に会うことはないと思っている。

それは、24年前の父親の再現であることが後から読み取れる。

フランクの妻クラウディア(七瀬なつみ)は、ロミーを選ぶか、自分を選ぶか夫に迫る。

クラウディアは夫に20分間の時間を与えて、夫と女を残して自分は部屋を出ていく。

………………

最後は衝撃的で、心臓がつぶれそうな驚きが走る。

女が置いていったプレゼントの包みを、息子の恋人が彼のために置いていったのだと勘違いして、勝手にその包みを開けてしまう。

包みの袋に手を入れたとたん、クラウディアは炎に包まれて焼死する。

その前夜は帰ってこなかったと思っていた息子のアンディは、引っ越し荷物の段ボールの中で死んでいた。

フランクはそれらを目の当たりにして恐怖に駆られ、部屋から逃れようとするが、扉があかない。

その扉は昔の恋人が来てからというもの、壊れて閉まらなくなっていたのだが、今度は開かなくなった。

そして、家が崩壊していく。

扉に張り付けられたようにして動けなくなったフランクとともに、部屋が音を立てて、舞台の底へと沈んでいく。

その崩壊のすべてをずっと見つめ続けるアンディの恋人ティーナ(ちすん)の目が怖い。

終わりもショッキングであったが、ちすん演じるティーナの眼はもっと不気味であった。

ティーナはロミーが転生したものであるかのようで、輪廻を感じさせるものがある。

上演時間 1時間30分

 
007 21日(土)昼 劇団民藝+無名塾 『ドライビング ミス ディジー』

作/アルフレッド・ウーリー、訳・演出/丹野郁弓、装置/松井るみ
出演/奈良岡朋子、仲代達矢、千葉茂則

東京芸術劇場・中ホール

 

【観劇メモ】

仲代達矢と奈良岡朋子の演技を見るだけで十分だった。


 
008 28日(土)昼 加藤健一事務所公演 『川を越えて、森を抜けて』

作/ジョウ・ディピエトロ、訳/小田島恒志、平川大作、演出/高瀬久男、美術/倉本政典
出演/加藤健一、竹下景子、一柳みる、有福正志、山本芳樹、小山萌子

下北沢・本多劇場

 

【観劇メモ】

演劇を見ることで見ることで元気をもらえる。

小山萌子の役にも、心が救われる気がした。

心が弾んだことで、余分な感想はもうやめた。


 

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