高木登劇評-アーデンの森散歩道-別館-

 

2009年1月の観劇記録
 
001 23日(金)夜 ラッパ屋第34回公演 『ブラジル』

脚本・演出/鈴木 聡、舞台美術/秋山光洋
出演/福本伸一、おかやまはじめ、木村靖司、弘中麻紀、三鴨絵里子、他

新宿・紀伊国屋ホールにて(P列12番)

 

【観劇メモ】

大いに楽しんだ。

お茶の水大学のサークル(ボサノバ愛好会)OBたちが、そのサークルの創設者、祥文さん(木村靖司)の還暦を祝って12年ぶりに、千葉県のとある海岸の民宿―サークルのメンバーが夫婦で経営している―イパネマに集まる。年齢も30代後半から60歳まで、今では仕事も境遇もみんなそれぞれに違っている。

そうしてみんなわけありの問題をかかえているが、それぞれにこの日の同窓会に期待を寄せている。

ドラマはこのわけありの内容がどんどんと糸がほぐれるように、というか糸がもつれるように展開、進展していく。

幹事役の馬場さん(おかやまはじめ)はガス給湯器のメーカーに勤めていて、50歳。今はこの給湯器の不具合で全顧客にお詫びで1軒1軒家庭訪問するのが彼の仕事(時事的で、現実的で、リアルな問題)。その顧客の数は2万軒もあり、1日10軒回っても10年はかかって、定年までそれを続けることになるという憂鬱な話。そんな彼にとって今回の幹事役は願ってもない楽しみな仕事である。

もう一人の幹事役久世さん(武藤直樹)も、寝たきりの母親の看病に明け暮れる同じようにさえない状況にあるので馬場さん同様、今日のこの日の幹事役を喜んで引き受 、けている。

集まった仲間のひとり葬儀屋の善幸さん(俵木藤汰)は、親友同士であったかつての文学青年行雄さん(熊川隆一)から妻の美幸さん(大草理乙子)を奪われるという複雑な関係になっている。

これなどはありそうでなさそうな話だが、小林秀雄と中原中也、谷崎潤一郎と佐藤春夫の例を出すまでもなく、実際にいくらも例がある話で、リアルなおかしみがある。

ガン検査でひっかかって再検査を受け、余命半年とひとり悩んでいる佑介くん(福本伸一)。

今日の日の主役―主賓―である祥文さんが一番冷めた人物になっている。

独立音楽プロをたたんで元勤めていた会社に重役として戻ることになるが、サークルの後輩でもあり自分が引き立てた社員の矢島くん(土屋裕一)を無情にも切り捨てていく。

その祥文さんを演じる木村靖司、少し肥えたというか、えらく貫禄が付いてきたという感じ。今回の役柄のためというわけでもないだろうが...

ラッパ屋の中でも特にユニークで、いつも楽しみな女優さん、三鴨絵里子が今回も最後にあっと驚くような衣装で思わず笑ってしまった。この人を見ていると楽しくっていいなと思う。声も、猫のようなねっとりした、甘ったるいような独特なものがあって、つい乗ってしまうという感じがする。

物語の展開を書き出せばキリがないが、いつもながら鈴木聡の話は面白い。

年初め、シェイクスピア以外で今年初めての観劇ということで、

僕の個人評価!☆☆☆☆☆(鈴木聡のサービス満点にこちらもサービスして満点評価)


 

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