高木登劇評-アーデンの森散歩道-別館-

 

2008年3月の観劇日記
 
003  7日(土)  『屋上庭園』、『動員挿話』

作/岸田國士、演出/宮田慶子(『屋上庭園』)、深津篤史(『動員挿話』)、美術/池田ともゆき
出演/山路和弘、神野三鈴、小林隆、七瀬なつみ:(『屋上庭園』『動員挿話』)//遠藤好、
太田宏:(『動員挿話』のみ

新国立劇場・小劇場

【観劇メモ】
再演。
出演者はもちろん、スタッフもまったく同じメンバーのカンパニーでの再会。
初演は2005年10月31日―11月16日。
2年前の初演のイメージがまだ残っていて、程よいタイミング。
その印象をじっくりとなぞるようにして見たが、感動はいっそう深まって舞台に吸い付けられた。

<間>が息詰まるような・・・せりふが重く待たれる。
特に、『屋上庭園』は<間>のスゴミがある舞台である。
今回、運よくシアタートークのある日に観劇。
(シアタートークがあることは当日その時になるまでまったく知らなかった)
司会はNHKのアナウンサーで、自己紹介では元文学座の研究生であったということ。
『動員挿話』の演出者である深津篤史への質問や、出演者(全員がトークに参加)への質問も要領よく質問して、聞きだしてほしいことをうまく引き出してくれた。
質問者の中で、初演を含めて複数回この劇を観ている女性が2名もいて、一人は今回の舞台を全ステージ見ているだけでなく、この先もまだ見る予定だと言う(なんともスゴイ!!)。
さ すがに、質問も細かいところまで気がついていて、非常に参考になった。
質問の中で面白かったというか、参考になったのは舞台美術に関して。
まず、舞台がいわゆる逆開帳場となっている。
相当な傾斜になっているとのことで、出演者によるととても落ち着きが悪いそうである。
なぜそうなのかは演出者の深津氏にも分からない。
この舞台装置は演出者のアイデアではなく、美術担当の池田ともゆきから出された3つのアイデアの内の一つでそのうちの一つを選択したということ。
その提供された舞台美術から演出のアイデアを考案していく、そのプロセスを聞くのが面白い。
傾斜は舞台だけでなく、舞台背景の道具である黒板も鋭角に傾斜している。
中央にはドアの形の切りかきがあり、背後がブラックホールのような漆黒。
深津氏によれば、この切りかきのドアは、「意味あり」の入退場に使用しているということが明かされ、自分の想像に意味づけされてよく理解できた。
最前列からでは舞台が逆開帳場ということもあって分からないが、舞台には昔の新聞(この戯曲の上演当時のもの)のコピーが貼り付けられていて、その中に『屋上庭園』の中に出てくるデパートの屋上からの飛び降り自殺の記事の新聞も貼られているということである。
その新聞の貼り付けた舞台は照明の具合で巨大な円形(日の丸)が浮上して見えるようになっているという。
(自分の座席は最前列であったので舞台が新聞を貼りつめたものであるだろうというのには気がついていたが、さすがにそこまでは見えないのでこのトークを通して知ることができた)
『屋上庭園』で、並木(山路和弘)の妻(神野三鈴)が、キャラメルを取り出して口に含む場面がある。
口に含んだ後、キャラメルの箱を振ってもう残っていないのが分かると、口から半分取り出して夫の口に含ませる。この場面は、まったく台本にもないらしいのだが、並木の妻は妊娠しているので常にお腹が空いた状態にあるのだと考えて、神野三鈴が稽古中にキャラメルを食べるのを入れてみたら、相手役の山路和弘がもの欲しそうにしているので、自分が口にしたのを半分彼の口に入れたら彼の反応が面白かったので、そのまま本番にも取り入れたということである。(アフタートークならではの情報)
この場面は、夫婦の日常の何気ない所作の効果とあわせて、この深刻な舞台にふっと温かみを感じさせる効果があって、とてもいい。
『動員挿話』では、馬丁友吉(小林隆)の妻数代(七瀬なつみ)が夫の戦地に行くのを引き止めるせりふは、この戯曲が発表されて上演された時期からすると、時局に触れかねない際どさがある。
数代は実に思い切った発言を主人である少佐(山路和弘)に直言するが、彼女がアブノーマルという設定がそのせりふを可能にしているともいう。

出演者の山路和弘が、この舞台にはいつまでたっても正解に行き当たらないという。
この戯曲には笑いはない、と思っていたのに、観客の笑いがあるのにも驚いたという。
毎日が違った演技になるとも。
観客の反応でも、その日の演技が変わってくるともいう。
それを突き止めるまでいつまでも続けるぞ、という気にもなるという。
毎日見ている質問者の女性の話では、今日の舞台はとてもソフトな印象だと言う。

2本上演しても2時間もかからない短いものであるが、密度の高い作品だと思う。
こういう芝居に遭遇できる幸運!・・・・

 

 

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