高木登劇評-アーデンの森散歩道-別館-

 

8月の観劇日記
 
028 11日(土) こまつ座&シス・カンパニー公演 『ロマンス』

作/井上ひさし、演出/栗山民也、音楽/宇野誠一郎、美術/石井強司
出演/大竹しのぶ、松たか子、段田安則、生瀬勝久、井上芳雄、木場勝己

世田谷パブリックシアター

【感想メモ】
松たか子、大竹しのぶが出演するこまつ座の公演ということで、七保も「何が何でも」と、一緒に観劇。

今回のこまつ座先行予約では、座席がC列の14、15番とラッキーな席。前列から3列目でしかも中央の席。いい席が取れてハッピー!

題名の『ロマンス』は、物語の主人公チェーホフが敬愛するチャイコフスキーの歌曲「ロマンス」からとられているようです。チェーホフは自分の戯曲を自らは喜劇としているのですが、これまで僕がみてきたチェーホフは、どれも喜劇には見えず、なにかいつも消化不良のような感じがして、退屈な思いがしていました。

井上ひさしのこの『ロマンス』でも、ロシアですらチェーホフの作品は発表当時から感傷的な悲劇として評判をとってチェーホフの意趣に反していて、不満を抱いています。

チェーホフはボードビルをこよなく愛して、自分の作品をボードビル仕立てと呼んでいるようなのですが、日本でもその上演方法は深刻な辛気臭いものが多いようです。

チェーホフをこよなく愛しているという作者は、このチェーホフの物語をチェーホフが喜びそうなボードビル仕立てにしています。ということで、この物語は歌でオープニングを迎えます。

チェーホフの妹マリア役の松たか子がオープニング曲「チェーホフの噂」を歌い始めます。

   あなたが去って

   時がたった

   けれども四つの芝居は

   いまも大流行(おおはやり)

チェーホフを四人の男優がそれぞれ、少年時代(井上芳雄)から、青年時代(生瀬勝久)、壮年時代(段田安則)、晩年時代(木場勝己)を演じ、且つそれぞれがその他複数の人物を演じます。

チェーホフの妹マリアは松たか子が演じ、妻で女優のオリガ・クニッペルを大竹しのぶが演じます。大竹しのぶがリュウマチに悩む老婆を演じて、若き医師チェーホフとマリアの求婚者からまんまとお金を騙し取る役などは大変面白く、おまけにリュウマチが治ったというチェーホフの処方箋薬を実は飲んでいなかったというオチは笑わせました。チェーホフ晩年時代に登場するトルストイを生瀬勝久が演じていて、これも笑わせてくれました。

井上ひさしは、啄木や一葉、太宰治、宮沢賢治、林ふみ子、落語家の円生と志ん生など、これまで日本の人物を扱ったドラマを多く書いてきましたが、今度はチェーホフという外国の人物まで手を広げました。井上ひさしという人の人間に対する興味と関心、そして何よりもその暖かい視線に感動させられます。それで劇を見るものをして、登場してくる人物を愛さずにはおられなくしてしまいます。人物に欠点があっても憎めないのです。

今回も娘と二人で大いに満足して劇場をあとにしました。


 
 

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