高木登劇評-アーデンの森散歩道-別館-

 

4月の観劇日記
 
013 6日(金) 俳優座プロデユース公演 No.74 『壊れた風景』

作/別役実、演出/山下悟、美術/長田佳代子
出演/山本郁子、塩屋洋子、伊東達広、佐々木睦、関貴昭、津田真澄、岸槌隆司

俳優座劇場

【観劇メモ】
最後がブラックユーモアを思わせるナンセンス不条理劇。

舞台背後に、下手からせりあがるようにして雑草の生い茂る土手。中央には、ビーチパラソルとピクニックのバスケットなどが置かれていて、古い蓄音機にレコードがかけられていて、曲が流れている。

そこへ自転車を押して娘(山本郁子)とその母親(塩屋洋子)が上手から登場し、地図で場所を確かめ始める。自分たちが今どこにいるのか親子の意見が分かれ、同じような押し問答が繰り返される。レコードの溝が飛んで同じ箇所の曲が繰り返される。そのことが気になってレコードを止めようとするが、途中でまたやめてしまう。

そこへ旅行鞄とこうもり傘をもった自称薬売りの男(伊東達広)が通りかかる。その男は駅に向かっているのだが、20年間その道を半年ごとに通ってよく知っているというので、娘は地図で自分たちのいる場所を尋ねるが、男はその地図の要領を得ない。その男もレコードのことが気になって切ろうとするが、思いとどまって親子にレコードを止めるのを押し付けようとする。そういう押し問答をしているところへ、マラソンスタイルの男(佐々木睦)がやってきて、いきなりレコードを止める。男はマラソンレースの途中で道に迷ったのだといって地図を見せてもらおうとする。

マラソン男が尿意を催し、続いて薬売りの男、娘、母親が皆トイレのために別々の方角に散らばっていく。

暗転の後、若い夫婦がピクニックのバスケットを開けてみているところへ、4人がトイレから戻ってくる。そのピクニックのバスケットがそこにいる誰のものでもないとわかって、マラソン男はピクニックの弁当の中身をあけて食べ始め、持ち主が現れたら弁償したらいいといって、結局全員で食べ始める。

そこへトーキーをもった男(岸槌隆司)がやってくる。そのピクニックの荷物が、その近くで一家心中した家族の持ち物であることを告げる。その家族は6人家族で、そこに偶然集まった者たちも6人。「あなたたちは何者なんだ」と問い詰められ、彼らはそこで硬直した姿勢となり、フェードアウト・・・・・

会話のすれ違いの面白さに途中何度も笑った。

 
014 8日(日) 劇団民藝・木下順二追悼公演 『沖縄』

作/木下順二、演出/皃玉庸策、装置/島次郎
出演/日色ともゑ、境賢一、吉岡扶敏、杉本孝次、他

紀伊国屋サザンシアター

【観劇メモ】

この劇を見ていて感じたことは、「美しい国日本」という言葉の空々しさだった。

「どうしてもとり返しのつかない」過去を、「どうしてもとり返さなければ」未来へは開けない。その象徴が「沖縄」を通して明示される。沖縄ではアメリカ軍に殺された数より日本兵に殺された数の方が圧倒的に多いという。

加藤周一の言葉を借りれば、「現代」に固有の本質的な問題を明示的に表現する劇として、今新たに蘇った。

 
015 22日(日)『CLEANSKINS/きれいな肌』

作/シャン・カーン、翻訳/小田島恒志、演出/栗山民也、美術/島次郎
美術/大田創
出演/銀粉蝶、北村有紀哉、中嶋朋子


新国立劇場・小劇場

【ストーリーと感想】

観客全員が衝撃的感動に射されたような終幕。

「ブラボー」というスタンデイングオーベイションこそなかったが、「ありがとうー!」という感激的な声援で、新国立劇場小劇場の舞台としては異例とも言える三度のカーテンコールで観客の感動に包まれていた。

「家族」と「宗教」というヘビーなテーマでありながら、情緒的には身近な問題としてシビアに感じうる内容であった。

息子サニー(北村有紀哉)と母親ドッテイ(銀粉蝶)二人暮らしの平穏な生活の中に、突然、その平和を乱すかのように、数年前に家出した娘ヘザー(中嶋朋子)が帰ってくる。しかもイスラム教徒の装束を着て。娘はかつて薬物中毒であり、家のものを盗み出してある日突然に家を飛び出したのだった。そのやっかいものが、よりによって親子が暮らすその町では偏見の的であるイスラム教徒の装束を着て帰ってきたのだった。

娘が帰ってきたことにより、その家族の過去の様子があらわになっていく。

サニーとヘザーにはなぜ父親がいないのか。ヘザーの南の大都会(ロンドン)への旅立ちは、自分のルーツを求めての旅でもあった。そこでヘザーは父親を見つけ出す。そして母親ドッテイの言い分とはまったく逆の真実を知る。

そしてその姉から真実を知らされたサニーは、自分がアイノコであることに衝撃的な驚きと、誰にも向けようのない怒りに我を忘れる。母親のドッテイから自分の父親の写真として見せられていた金髪の白人はまったくの他人であった。サニーの「この写真は誰なのだ?」という問いに、ドッテイの「私もいつもどこの誰なんだろうと思っていた。この写真はバザーで買ったものだった」という答えが、こっけいな中にも哀切さを感じざるを得なかった。


016 27日(金) クラカウラ・プロデユース 『恥ずかしながらグッドバイ』

作・演出/中島淳彦、美術/石井強司
出演/角野卓造、佐藤B作、すまけい、大西多摩江、阿知波悟美、川田希、江原里実、まいど豊

新宿・紀伊国屋サザンシアター


【観劇メモ】
チラシですまけいと角野卓造、大西多摩江の出演組み合わせを見て中身も考えずにチケットを買った。あとで気づいたら作者は『エキスポ』の中島淳彦だった。笑いの中にシリアスな内容。角野卓造と佐藤B作の軽やかな笑いと、すまけいの存在感は文句なし。すまけいが、敬礼の姿で最後の台詞としていう「恥ずかしながらグッドバイ」は、二度この台詞が発するが、その二度目のひときわ大きな声がしみじみと感動的に胸に迫ってくる。

物語は、昭和50年、フイリピンのバラワン諸島の小さな島のオープン前のリゾートホテルに、外交官の課長補佐鳥塚偉夫(角野卓造)と現地採用で元青年海外協力隊員の職員吉野(まいど豊)がやってくる。そのホテルには鳥塚の元部下で恋人でもあった江藤弓子(川田希)がマネージャーとして勤務している。鳥塚は彼女を追ってやってきたのだった。役所の出張ということで来ているので、その名目として元日本兵がいるという情報確認のためという口実を急ごしらえにしている。昭和46年にはグアム島で横井庄一さん、47年にはフイリピンのルパング島で小野田寛郎さんが発見されている。

その鳥塚を追って彼の学生時代からのライバルである厚生省の役人、石原(佐藤B作)がやってくる。彼と鳥塚とは江藤をめぐってのライバル関係にあった。江藤が外務省を退職した理由は鳥塚との関係が元で、鳥塚はそのスキャンダルのために降格され出世の道も閉ざされたのだった。鳥塚と石原は江藤に未練があるのだが江藤の気持は冷め切っている。江東は鳥塚の出張目的を逆手にとって、日本兵を見かけたというフイリピン人で日本語を話せるせるガイドのアキータ・テラデーイア(阿波知悟美)を紹介するが、アキータは日本人の父とフイリピン人の母親から生まれたアイノコであった。父親が現地の迫害を逃れるために日本人を証明するすべての書類を処分したために、アキータは日本人であることが認められないでいるのだった。

そして本当に元日本兵がいたのだった。元日本兵の猪原義孝(すまけい)は鳥塚たちの前に自ら現れて、陛下からお預かりした軍服と銃を返す。石原は猪原を日本につれて帰れば千載一遇のチャンスとなると俄然色めきたつ。猪原は「日本にはけらない」と、もう一つの頼みごとがあるという言葉を残したまま立ち去ってしまう。彼のあとをつけていったアキータは猪原がフイリピン人と結婚していて、妻の両親以外に子供が6人もいるのを知る。

一方、猪原のことを調査して判明したのは、彼が脱走兵だったということである。

そんな騒ぎの中で、鳥塚の妻文江(大西多摩江)がその島にやってくる。鳥塚と文江の関係は冷え切っており、彼女は一大決心してやってきた。鳥塚がこの島にくることを彼女に知らせたのは江藤だった。文江の自殺騒動でひと波乱。酔っ払った文江に迫られて石原、あわやベッドイン。文江の顔の皺に、鳥塚に対して「お前は人生の彫刻家だな」と投げかけ、「見ろ、この涙の通路となった運河を」と語りかける。

元日本兵猪原のもう一つの願いは、芋泥棒を働いて撃ち殺された少年兵の遺骨を日本に持ち帰ってほしいということであった。そして妻のことを悲しませてはいけないと言われた鳥塚は、妻から渡された離婚届を海に流す。

そうして去っていく彼らに向かって、敬礼の姿勢で猪原は「恥ずかしながらグドオバイ」と二度叫ぶ。


017 30(月) こまつ座・第82回公演 『紙屋町さくらホテル』

作/井上ひさし、演出/鵜山仁、美術/石井強司
出演/辻萬長、中川安奈、木場勝己、森奈みはる、久保酎吉、栗田桃子、河野洋一郎、前田涼子、大原康裕

俳優座劇場

【感想】
1997年10-11にかけての新国立劇場の杮落としの初演を除き、2回目からの再演を全部見てきた。
覚書としてキャストの変遷をメモっておく。

登場人物 2001年4月
新国立劇場

2003年9月
紀伊国屋ホール

2006年8月
紀伊国屋ホール
2007年4月
俳優座劇場
神宮淳子 宮本信子 土居裕子 土居裕子 中川安奈
熊田正子 梅沢昌代 栗田桃子 栗田桃子 栗田桃子
浦沢玲子 深沢舞 深沢舞 前田涼子 前田涼子
大島輝彦 井川比佐志 久保酎吉 久保酎吉 久保酎吉
丸山定夫 辻萬長 木場勝己 木場勝己 木場勝己
園井恵子 三田和代 森奈みはる 森奈みはる 森奈みはる
戸倉八郎 松本きょうじ 大原康裕 大原康裕 大原康裕
針生武夫 小野武彦 河野洋一郎 河野洋一郎 河野洋一郎
長谷川清 大滝秀治 辻萬長 辻萬長 辻萬長

*初演のキャストは、神宮淳子の森光子以外は、新国立劇場での再演のキャストと同じであった。


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