02年の観劇日記別館
 
  木山事務所公演「桜の園」
 

 作者チェーホフは、「桜の園」は喜劇だという。この作品を喜劇と感じさせるには、桜の園の地主である女主人公ラネーフスカヤにすべてがかかっている、といっても過言ではないだろう。これまでにも「桜の園」は何度となく観てきた。その都度、演出家の声として、この劇が喜劇であることを強調している割には、その喜劇性が今ひとつこちら側まで伝わってこなかった。

 旺なつきが演じるラネーフスカヤには、その喜劇性があった。彼女は、財産がなくなっていくことも、桜の園が人手に渡ることも、その意味を痛みとして感じていない。痛みとして実感できるのは、パリに残してきた、自分を騙し続けてきた愛人のことだけである。

 パリから逃げるようにして故郷に戻ってきたラネーフスカヤの元に、その愛人から毎日のように、許しを請い、戻ってきてくれるよう頼む内容の電報が届く。最初は人前でそれを破いて見せるが、次第にそれを大事に胸にしまい込むようになる。自分ではほとんどお金を持っていないのに、困っている者がいれば、ついお金を与えてしまう。

 「だってしょうがないでしょう。どうしようもないんですもの。私バカなんですもの」と自らの愚かさを心おきなく、さらけ出してしまう。

 旺なつきは演技のスケールが大きく、ラネーフスカヤの愚かしさの大きさを十二分に出していているところが、喜劇性を引き出しているといえよう。

感激度採点表:★★★  感激度寸評:旺なつきに乾杯!

(作/アントン・チェーホフ、英訳/マイケル・フレイン、訳/小田島雄志、
演出/小林裕、6月10日、俳優座劇場にて)

 

 

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