高木登2001年の観劇日記別館
 
  俳優座劇場プロデユース公演 「こわれがめ」 2001.7.15
 

 骨太い作品である。

 原作自体の骨格が太く、ユーモアの滋味にあふれる作品である。

 しかしながら、この作品は主人公である役者を撰ぶ。誰でもがやれるというものではない、というのが見終えた後の実直な感想である。

 舞台は、オランダの小さなホイサ村。村長と裁判官を兼ねるアーダム(鈴木瑞穂)は、ある早朝、頭には大きな痛々しい傷、脛にも傷を負ってびっこを引き引き屋敷に戻ってくる。傷の手当てをしているところに、書記のリヒト(高橋広司)がやってきて、その傷はどうしたのかと尋ねると、アーダムはベッドから転がり落ちたのだと言い訳する。リヒトは、新任の司法顧問官ワルター(今井朋彦)が村の裁判の査察にやってくると報告する。隣村では、裁判官と書記の不正が明るみに出てワルターに追放されたという。今度の顧問官はどうやらこれまでの顧問官とは違うようだと、リヒトは心配してアーダムに忠告する。折しもこの日は裁判の開廷の日。

 村の女マルテ(立石凉子)が、娘エーフエ(郡山冬果)の許婚ループレヒト(田中茂弘)にかめを壊されたと凄い剣幕で乗り込んでくる。この壊れたかめの犯人の追及を巡って、顧問官立ち会いのもとに裁判が始まる。

 娘はかめを壊した犯人はループレヒトだと主張するが、ループレヒトは否定する。エーフエに逢いに出かけた前夜、エーフエが誰かほかの男と話し込んでいるのを見てかっとなり、真っ暗闇の中でその男の頭をドアの取っ手で二度ほど殴りつけると、その男は茨の垣根を転がり落ちてそのまま逃げていってしまい、かめはその時その男が落として壊れたのだと主張する。ループレヒトにとっては壊れたかめより婚約者エーフエの貞節が問題である。

 その逃げていった男とは、ほかならぬアーダムであり、アーダムは自分のことがばれそうになると巧みに話を逸らそうと努める。

 唯一犯人を知っているエーフエは、アーダムのことを話せば許婚のループレヒトが徴兵で東インドまでやらされてしまうということで、あくまでループレヒトを犯人だと主張し続ける。

 ループレヒトの東インドへの徴兵の件は、無知なエーフエを自分の所へ引きつけようとするアーダムの作り話であったことが分かり、エーフエはすべてのことを正直に話す。

 アーダムは形勢不利を悟ると裁判官の席からスタコラ逃げていく。

 観客は、冒頭のアーダムの怪我で、この壊れたかめの真犯人の予測は明瞭であるが、裁判の進行中の危うい場面を巧みにそらすアーダムと、それをクールに追求するワルターとのやりとりがみものである。

感激度:★★★  <感激度寸評>鈴木瑞穂のアーダムに出会えて最高。

(作/H.V.クライスト、訳/山下純照、演出/鵜山仁、7月9日俳優座劇場にて観劇)

 

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