2025年髙木登観劇日記
 
   占子の兎 第39回公演 『無限遠点~ロミオとジュリエット』     No. 2026-016

 「占子の兎」が創立20周年を迎えるという。その記念すべき年に、奥泉光作『無限遠点』を公演。
 この作品は、2012年2月に、東京シェイクスピア・カンパニー(TSC)が<鏡の向こうのシェイクスピア>シリーズの一つとして初演し、2019年2月に、タイトルを『喜劇ロミオとジュリエット』と改めて再演した作品である。
 観劇日記にその記録は残しているのだが、あえてそれを見ないで観劇したが、それが正解だった。余分な先入観なしで、白紙の状態で観ることで新たな感動を新鮮に感じることが出来た。
 一言でその感想を述べれば、「素晴らしかった!」、「面白かった!!」、そしてダンテの『神曲』と同じ意味合いで「喜劇」であると感じた。
 ストーリーについては当時の観劇日記に記しているのでここで新たに書き改める必要はないと思うが、その感動を振り返ってみるために、話の筋を振り返ってみたい。
 登場人物は、ロレンス神父と悪魔との契約によって、死ななかった年老いたロミオとジュリエット夫妻、その娘にロミオの初恋の人の名前であるロザライン、ジュリエットの乳母はいまだに健在でその名はリコリダ(『ペリクリーズ』のマリーナの乳母の名前と同じ)、ロザラインの求婚者に大公の遠縁であるマルコ。それに悪魔3がモンタギュー家の侍女としてもぐりこんでいる。一方のキャピュレット家は後継ぎが絶えて断絶となるところを遠縁にあたると称した悪魔1がキャピュレット家を継ぎ、悪魔2が彼の息子としてエドマンド(『リア王』に登場するグロスター伯爵の私生児の名前と同じ)を名乗っている。
 物語は、ジパングをはじめ東方での布教活動からヴェローナに戻って来たロレンス神父を軸にして展開していく。
 結婚後のジュリエットはロレンス神父の薬の副作用からロミオに幻滅し、出会う男性にすぐ恋をしてしまい、恋をしていないときは鬱状態にある。ロミオはそんな妻に対してなすすべもなく、一人娘のロザラインを大公の遠縁であるマルコと結婚させようとしている。
 そんなところへ、キャピュレット家を継いで当主となった悪魔1が息子のエドマンドを伴って挨拶に来る。
 ジュリエットは最初キャピュレットに恋するが、エドマンドを見てすぐにそちらに気を移す。娘のロザラインもエドマンドに一目惚れ。ここらあたりの関係は『リア王』のエドマンドをめぐってのゴネリルとリーガン姉妹を髣髴させる。
 今や、ジュリエットとロザラインは恋敵。マルコとの結婚に反対していたジュリエットはその意を翻し、ロザラインにマルコとの結婚を強いる。
 しかし、ジュリエットは夫のある身。エドマンドとの重婚は出来ない。
 ロザラインとジュリエットの二人は思い余ってロレンス神父を頼って行く。
 ロザラインはマルコとの結婚を避けるために、母親と同じ薬を求め、ジュリエットも重婚を避ける手段として一度死んだことにするために前と同じ薬を求める。
 悪魔がロレンス神父と結んだ契約は、実はこの薬の調合にあった。
 神父は、はじめ二人に恋が冷める薬を与えようとするが、悪魔からその薬は処女にだけしか効かないと聞かされ、ロザライン二だけその薬を与え、ジュリエットには悪魔との契約の指示に従って前回と同じ薬を調合する。
 ロザラインは目覚めた時、エドマンドへの恋の気持が消え失せており、ここらあたりは『夏の夜の夢』を思わせる場となっている。
 一方、ジュリエットの方は、彼女が息を吹き返すことを知っているロミオが、彼女を殺して自分も死のうとするが殺せないまま、彼女の前で寝入ってしまう。目覚めたジュリエットは、傍にいるロミオに罵りの言葉を浴びせ、ロミオが「自分を殺してくれ」という懇願を受け入れて今にも短剣をロミオの胸に突き立てようとするが、いざとなった瞬間何度も逡巡する。
 そうする間に、ジュリエットは突然長い眠りから覚醒したように、目の前にいるのが「ロミオ」だと気づく。しかし、そこにいるのは年老いたロミオで、自分の記憶にあるロミオとは大違い。ジュリエットは「老臭がする」と言って鼻をつまんで彼を遠ざけるものの、ふたりはいつしか抱き合う。
 こうしてすべてが丸く収まり、3人の悪魔たちは、悪魔の親玉メフィストフェレスの命令を果たせないまま、マクベスに対してはすでに終わっているので、次はオセローにするかと、次なる仕事に取り掛かることにするところで、オシマイ!
 奥泉光の一連の地獄シリーズは、地獄の楽園化を防ごうと悪魔が暗躍して失敗する話となっており、今や、地獄より地上の生活の方が一層の地獄であると、悪魔による「地獄化計画」が主題となっていることが伺える。
 観終わって、その喜劇性の面白さをそこはかとなく感じさせてくれるのは、それら登場人物を演じる役者たちの力量、それを存分に味合わせてくれる舞台であった。
 出演者の演技だけでなく、悪魔たちのメイク、衣装、舞台背景の美術、照明も舞台全体の雰囲気を高めていた。
 出演は、ロレンス神父に岩尾万太郎、ロミオに今井耕二、ジュリエットにしみず由紀、ロザラインに寺澤美央、乳母リコリダに藍ひとみ、マルコにアキヤマコウタロー、悪魔1(キャピュレット)に柳東士、悪魔2(エドマンド)に小池敏行、悪魔3(侍女)に中島佐知子の9名。
 上演時間は、途中10分間の休憩をはさんで、2時間20分。
 占子の兎では、2023年の第30回公演で、シェイクスピア・地獄シリーズの『リヤの三人娘』を上演しており、昨年から本公演が絶えているTSCを継承して、是非、TSCのこれまでの作品を上演してほしいと、今回の公演を観て切に願う気持ちとなった。是非、継承していってほしいものである。


作/奥泉 光、演出/今井耕二、衣装/ユキ・シメコ
5月16日(土)14時開演、阿佐ヶ谷ワークショップ、料金:4000円、全席自由


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