2025年髙木登観劇日記
 
   東京シェイクスピア・カンパニー朗読劇  『マクベス』
      ~ 明治大学主催 シェイクスピアの現代的魅力 ~     
No. 2026-015

 井上教授の授業の一コマで、毎年明治大学シェイクスピアプロジェクトで本年上演するシェイクスピア劇の演目を授業の課題として取り組んできており、原作を読んでのテストの翌週に実際にプロの上演(朗読)を聴くことで作品の理解をより深めるため、シェイクスピア劇を専門とする江戸馨主宰東京シェイクスピア・カンパニー(TSC)を2011年から毎年招いてきて今年で15年となることを、開始に当たって井上教授から挨拶の言葉と共に紹介があった。
 授業の一環としての上演であるが、TSCの江戸馨さんの御案内で、井上教授の御好意によって聴講生の一人として参加させていただくことが出来たことを、貴重な体験として感謝申し上げたい。
 井上教授の挨拶と解説の後、TSCの江戸馨さんの挨拶と、作品についての解説がなされた。
 江戸さんは、自身の翻訳により30年間シェイクスピア劇を上演されてきて、今回の『マクベス』の地理的背景であるスコットランドについて、1995年のエディンバラ演劇祭に参加された話から、スコットランドの冬場は何もなくただひたすら荒野であることなど自身の体験から語られ、今回の作品の背景の臨場感を多分に喚起させた。
 『マクベス』には魔女が登場するが、魔女には男も女もいるという話に始まり、次に登場する人物の3人、主人公のマクベス、反逆者のマクドンウォルド、マクダフに、それぞれ「マク」がついており、その3人はいずれも反逆と関連していることを説明する。
 マクダフは最後にマクベスを倒す「正義」の者として扱われる人物であるが、この劇の最後に、次の王位を狙う者としてその姿を魔女が見つめているという演出がなされることがあるという。
余談であるが、「マク(Mac)」というのは、スコットランドやアイルランド系の姓につけられ、その意味は「~の息子」を表す。たとえば、マッカーサー(MacArthur=アーサーの息子)、マクドナルド(=ドナルドの息子。ドナルドは「世界」と「支配者」を意味するケルト語に由来する)など(注1)。ということで、まさにスコットランドにふさわしい登場人物名である。
 反逆者を予兆させるマクダフだけでなく、国王ダンカンも、シェイクスピアが種本にしているホリンシェッドの『年代記』によれば、実はいい王様ではなかったことなどの逸話に続いて、魔女に関連しては、ジェイムズ一世が「悪魔学」に凝っていた話からこの劇のテーマに関連して、魔女の作り方、反自然、着る物に例えること、幼子の話などを取り上げられ、結びとして、『マクベス』の上演には不吉を伴うことが起こるということで、「鎮めのお祓い」を英語でスピーチし、参加者に「アーメン」の唱和を求められた。
 どっぷりと『マクベス』の雰囲気に浸ったところで、いよいよ朗読劇の始まり。
各場の始まりに当たって場面と登場人物の紹介があり、まずは1幕1場の3人の魔女の登場の場から。それぞれの場の始まりに当たっては、この日の楽師奥泉光が、笛、太鼓の演奏でその場の雰囲気を醸し出す。
 登場人物については、マクベスの紺野相龍、ダンカンの丹下一、マクベス夫人のつかさまりは全場を通じて一貫して演じるほか、その他の登場人物をも場面に応じてそれぞれの役を演じ、江戸馨はダンカンその他を演じた。
 ダンカン王殺しの場の後、次のマクダフの屋敷(4幕2場)の場に入る前に江戸馨の途中解説が入り、マクダフは謎の人物で、なぜ家族を置いてイングランドに行ってしまうのか、なぜ一人で行ったのかという疑問を提示し、マクベスとマクベス夫人の位置関係が逆転していくことを語る。
 マエセツとして語られた中で「反自然」という説明があったが、その具体的な例として、「バーナムの森が動く」ということや、夢遊病者マクベス夫人の独言を聴いた医師が吐く台詞、「自然に反する行為」として表出される。
 5幕に登場するマクベスの家臣シートン(Seyton)は「セイトン」と呼ばれ、悪魔のサタンの名を呼んでいるように聞こえると解説があったが、マクベスを演じる紺野相龍の朗読を聴いていて、「サタン」とダブって聞こえた。
 余った時間を利用して、1996年に初演した奥泉光作の『マクベス裁判』の中から、「地獄に堕ちたマクベス」を丹下一が朗読した。
 『マクベス裁判』のマクベスには子供がいたが、その子供を誰が殺したのか、という謎。地獄に堕ちたマクベスはその地獄を楽しんでいる。マクベスとは誰か?マクベスの自分探し。マクベスは1日に666回、自分で自分を傷つけるという地獄が与えた罰に耐えている。その一方で、かかってくる携帯の会話を楽しんでおり、一見喜劇風である。この劇の初演では、マクベスを吉田鋼太郎が演じたという。
 立体感と臨場感あふれる朗読劇を満喫させてもらった。
 次週はシェイクスピア劇翻訳家の松岡和子さんを招いての授業だという。なんともうらやましい、ぜいたくな(?)授業である。

(注1) 名前の由来については、21世紀研究会編による『人名の世界地図』(文永春秋、平成13年刊)による。


主催/井上優教授、訳・構成・演出/江戸馨、挿入曲作曲・演奏/奥泉光
5月15日(金)17時10分開始、明治大学和泉キャンパス第一校舎・403教室


>> 目次へ