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出航地(Destination)風姿花伝、目的地(Destination)『101分のペリクリーズ』
シェイクスピアを退屈にさせず、面白いものにしたいという発想から、はじめに上演時間制限ありきで始まった、このタイトル。
シェイクスピアは面白いけれど、長い!ということから、どのくらいの時間だったらいいか、という皆の意見から、中休みでだれない時間として1時間30分では少し短い、2時間だと少し長い。ということでその中間の100分にし、それだとあまりにきっちりした数字というので、ファージーに101分ということにしたという。映画の『101匹ワンちゃん』もなぜか100ではなく101であった、と公演後のアフタートークで、ゲストの瀬沼達也氏の質問に、演出者沢海陽子の答えの中にあった。
本の栞に使用できるようにと作成されたチケットには、「Departure風姿花伝、Destination101分のペリクリーズ」と印刷されており、そのチケットともに手渡されたピンク色の小さなカードには、ヘリケーナスを演じる谷畑聡のメッセージとして、"Ah, this world is like a never – ending Storm"(この世は、終わることのない嵐)が添えられていた。
本日満席の観客を乗せて、出航地、風姿花伝より、目的地『101分のペリクリーズ』に向けて、いよいよ出航!
舞台奥の中央に、『ペリクリーズ』の舞台の海を表象するかのように、金魚の泳ぐ小型の水槽が据えられている。
101分という就航時間で、舞台の途中、登場人物をして何度も「展開が早すぎる」と言わしめるほど、劇中の幾度かの嵐の場を乗り越えて、テンポよくポンポンと進んでいく。
この演出での主要人物として、タイトルロールのペリクリーズのほか、もう一人の中心人物に、「灰の中から起き出してきた、いにしえの詩人」ガワーが登場し、舞台の幕開きはこのガワーの前口上から始まる。
そのガワーを演じるのは、顔面白塗りで、着物姿の金子久美子。
この劇には、14人の出演者が登場するが、全員が複数の役を演じ、タイトルロールのペリクリーズを演じる松尾竜兵すらも途中「不良」役を演じ、ガワーも劇中途切れることなく舞台上にいて、そのままの姿で、名前のない貴族などの役も演じる。
そのガワーが、舞台の進展の途中、水槽の中から何か取り出すが、眼の悪い自分にはそれが何かよく見えなかったものの、この劇がすべて終わった後、ガワーがその何かを再びそっと水槽に戻して舞台が暗転することで、それがこの劇のすべてを表象するかのように感じられ、深く印象を与えるものがあった。
シェイクスピアの時代の舞台装置も何もない空間での劇なので、シェイクスピア自身がたびたび登場人物をして観客に対して想像力を要求するが、金子久美子のガワーも、時に懇願するようにして、「みなさまの想像力を働かせてください」と、しつこいくらい幾度も言う場があったのも、この舞台の特徴の一つとなっていた。
101分と時間的には原作の半分近く凝縮されているものの、劇の内容そのものはほとんど網羅されていたが、一つだけ大きく欠けている場面があった。
それは嵐の中で出産して死んだと思われて海に流されたセーザが、エペソスのセリモンによって蘇生される場の全面カットで、これは演出者の意図的なカットによるもので、最終場面となるエペソスのダイアナの神殿の場で、医師セリモンによってそのいきさつが語られることで、サプライズの場として大きな効果を高めていた。
この少し前の場面におけるもう一つの工夫として、眠りの中でペリクリーズに語りかけるのをダイアナではなく、亡くなったマリーナの乳母リコリダに語らせていいたが、これは、日本人は概して無宗教であるという想定のもとから演出者の沢海が考え出した工夫で、その効果として神の宣託でなく、ペリクリーズの身近な人物による言葉であるため、その声が生身の人間の、身近で親近感の湧くものとなっていた。
これらの構成・演出の妙に加えて、キャスティングの面白さもこの舞台の特徴の一つであった。
ペリクリーズがアンタイオカスから逃れて最初に訪れる国、タルソの場面で、太守のクリーオン(伊藤大貴)とその妻ダイオナイザ(悠木つかさ)が、ビール瓶をマイク代わりにして、二人して「昭和枯れすすき」の歌を絶唱し、じっくりと最後まで聴かせてくれ、昭和のレトロな感じが懐かしく、胸をくすぐる。その歌の後、うち続く飢饉で飢餓のためやせ細ってしまったというクリーオンを、がっしりと堅肥えした体格の伊藤大貴が演じているので、その真逆の姿に観客席から、思わず笑いの声が漏れ聞こえることになる。
ペリクリーズが嵐の後打ち上げられたペンタポリスの漁師は、漁師の母と娘に替えられ、長尾歩と竹内瞳がそれぞれ演じた。その娘役を演じる竹内はペリクリーズの娘マリーナも演じる。
ミティリーニの女郎屋の女将を演じるのは、マリーナを演じる方がふさわしいような華奢な感じのする佐々木絵里奈で、その真逆のキャスティングの面白さと、彼女のパンチを聴かせた台詞回しが、真逆なだけにかえって強烈なイメージを搔き立てる効果となっていた。
その女郎屋の女郎の一人を、サイモニディーズを演じる橋倉靖彦が、顔面髭面のまま女郎の衣装と化粧で登場していたのも一興であった。橋倉靖彦は20年ほど前にシェイクスピア・シアターでよくその舞台を観ていた記憶があり、彼の出演を見るのはそれ以来となるので個人的な懐かしさを感じた。
演出の工夫を感じたのは、ペンタポリスでの槍試合の場面で騎士たちの登場や槍試合を見せるのではなく、民衆がその試合を観ているという設定で、観客席に向って試合の成り行きに大きな声援を送って、興奮の渦巻く場としていることで、観客席のわれわれもその興奮の渦の中に巻き込まれているような感じの効果があった。
その他の出演者としては、ヘリケーナスほかを谷畑聡、アンタイオカスやセリモンなどに飛田修司、セーザに近藤陽子、リコリダに坂田周子、サリアードやライシマカスなどに河村岳司など。
終演後、演出の沢海陽子と「シェイクスピアを愛する愉快な仲間たち」(SAYNK)代表の瀬沼達也氏をゲストに迎えて、15分間のアフタートークが催された。瀬沼氏のお得意のダジャレ・ギャグにたじたじとなる沢海陽子を見るのもトークとともに楽しんだ。
翻訳/小田島雄志、構成・演出/沢海陽子
3月7日(土)17時開演、下落合・風姿花伝、チケット:5000円、全席自由
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