2025年髙木登観劇日記
 
   新地球座公演 荒井良雄沙翁劇場 第51回 『むだ騒ぎ』     No. 2026-003

 新地球座の沙翁朗読劇は今回で51回目を数えるが、それでもシェイクスピアの37作すべてを上演しておらず、今回はこれまでヴィオロンで上演していない作品の公演。
 『むだ騒ぎ』という題名は、『から騒ぎ』という題名を平俗で端的であるという理由から、この作品の新修にあたって坪内逍遥が改めて付けたものであるが、元の『空騒ぎ』という表題は、明治最初の沙翁集国文訳者の戸澤正保(姑射)、浅野和三郎(憑虚)によって訳されたもので、現在も一般的には『空騒ぎ』(から騒ぎ)と訳されている。
 逍遥は、原題の"Much Ado About Nothing"を、「さわがずともの事に大層な騒ぎ方」、又は「騒ぐほどの原因は何もないのに大騒ぎする事」と説明し、「何の役にも立たない騒ぎ、騒ぎはしたが、何等の成果をも生じない騒ぎ」とも訳されると記している。
 この「沙翁朗読劇場」では、台本を構成するにあたって、原則的にシェイクスピアの当該作品の全体が分かるようにするのを前提にした上で、場所と時間の制約を考慮して1時間以内で、少人数の出演者で朗読するような構成を心掛けている。
 その方法としては、一人一役の朗読形態と、一人で複数役を朗読する形式の二通りの方法をこれまで取ってきているが、今回はこの喜劇の性格上、かなりの人数の登場人物を必要としたので、一人複数役を考慮し、しかも少人数でも演じられるよう、最低三名でも演じられるように場面構成し、一人の朗読者が真逆の役を演じる登場人物となるような構成に努めた。
 キャスティングについては、これまで同様一切口出ししていないが、その意図を組んでくれたかのような出演者と登場人物役となっており、客演の女鹿伸樹がドン・ペードローとコンラッド、高橋正彦がメッシーナの知事リオナートとドン・ヂョンの家来コンラッド、ヴィオロンでは新地球座に初めて出演する蝉丸がベネディックとドン・ヂョンの家来ボラーチョーを演じ、倉橋秀美がビヤトリスとドッグベリー、西村正嗣がクローディオー、そしてヒーローにはピアノ演奏者の大河原崇子が演じた。
 狭い舞台に総勢6名の出演者に加え、通常では20名で満席のヴィオロンに、この日は超満員の27名の観客。
 出演者は、場面変じて登場人物を変って演じる時には衣装を着替えての熱演で、場面の変化に合わせてピアノ演奏を入れることで着替えの時間を取るという工夫がなされていて、その間、ピアノ演奏の余禄を楽しむことが出来る。
 登場人物の変化では、リオナートを演じる高橋正彦のコンラッド、ベネディックの蝉丸がボラーチョーを演じる時の衣装変化で黒メガネをかけての変装なども凝っており、女鹿伸樹や倉橋秀美の役柄変化での衣装・声色なども絶妙に面白く楽しませてくれただけでなく、時に、「働いて、働いて、働いて、働いて、働いて~」など数多の時事的・政治的なアドリブを入れ、大いに笑わせてくれたのも演出の妙であった。
 アンサンブルもよく、非常に楽しんで観させて(聴かせて)もらった。

 

翻訳/坪内逍遥、監修/荒井良雄、台本構成/高木 登、演出/高橋正彦
ピアノ演奏/大河原崇子
1月28日(水)18時30分開演、阿佐ヶ谷・名曲喫茶ヴィオロン


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