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シェイクスピアが社会主義者になった!!
反体制の劇団がシェイクスピアを社会主義者だとして彼の『十二夜』を上演する、そのエキストラにスパイとして現職の警察官が船乗りと僭称してもぐりこみ、エキストラからアントーニオ役に抜擢され、オリヴィア役の主演女優オディール・ヨーラと恋するようになるロマンティックコメディ。
時は、1989年の冷戦下でソ連の共産主義を警戒するスイスの警察が、市民をひそかに監視し、反体制的な活動を探っていて、なかでも劇団の活動に注目し、平凡な警察官のヴィクトールがエキストラとして採用される。
劇の中でセバスチャンを助けるアントーニオがスパイとして設定され、ヴィクトールは最初アントーニオを逮捕する警察官の役を割り当てられるが、その時の演技が迫真に迫っていたことからアントーニオ役に抜擢される。
その当時、スイスでは軍隊を廃止するかどうか、国民投票が行われるようになっていた。
芝居の稽古を続けていくうちにヴィクトールは、劇団が反体制的活動をしているという考えに疑問を抱くようになる。少なくとも役者たちにはそんな様子がまったく感じられずにいたところ、上司から突然スパイ活動中止の命令が下り、ヴィクトールは公演初日の日に署内に監禁されるが、なんとか脱出に成功し、劇場へと駆けつける。
ところが遅れたヴィクトールの代わりにもう一人のエキストラがアントーニオ役を得たチャンスを逃すまいと、その衣装をヴィクトールに渡さない。ヴィクトールはやむなく、下着姿のまま舞台に立つ破目になり、台詞がしゃべれず舞台上で戸惑っているとプロンプターが助け船を出す。
しかし、ヴィクトールはその台詞の代わりに、自分の本音を語り始める。一瞬、舞台と観客席が凍りつくが、ヴィクトールのとつとつとした正直な思いが伝わって行き、万雷の拍手が沸き起こる。
ヴィクトールの上司への報告書の写しを見たオディールは、彼が警察のスパイだと知ってヴィクトールに背を向けていたが、その舞台で彼の本音の言葉を聞いて元通りの仲になるところでこの映画は終わる。
映画の中では、『十二夜』の場面はほんの少ししか出てこないが、興味深かったのは、その稽古風景と劇場の楽屋裏の情景であった。映画の中でスタニスラフスキーの本が出てきたりしており、その稽古のあり方はスタニスラフスキー・システムによるものだと思われるものだった。
この映画に関心を持ったのは、シェイクスピアを借りたロマンティックコメディとしての一面と、当時のスイスという国の政治的なありようであった。
スイスといえば永世中立国で平和国家と思っていたのが、冷戦下の時代には共産主義に対する警戒から市民を監視し、個人情報を秘匿し、リストにあげられた人物は就職も出来ない状態であったという、事実、史実への驚きであった。
軍隊の存否を問う問題について考えさせられたのは、「軍隊がなければ敵が攻めてきたとき、誰が国を守るの」、という軍隊擁護派の言葉であった。
監督のレビンスキーの、「演劇人は革命家のように演劇で世界を変えられる」、「潜入のために外見を変えた主人公が役の扮装で"元の自分"そっくりに戻るのがおかしい、そして"本当の自分"を発見する。シェイクスピア喜劇の特徴は、成りすまし、取り違え、そしてウソ、一番大きなウソが実は真実に近い。この映画にもそれが当てはまる」(1月23日付朝日新聞の記事から)という言葉が印象的であった。
上演時間は、102分。
スイス映画、監督/ミヒャ・レビンスキー
1月25日(日)、新宿武蔵野館、料金:(シニア)1300円
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