2025年髙木登観劇日記
 
   流山児★事務所新人公演 『ハムレット・ザ・コラージュ』      No. 2026-001

 ハムレットという人物の解体ではなく、『ハムレット』という物語の、台詞の解体による台詞のコラージュ、台詞のパッチワークの『ハムレット』劇といえる。
 舞台奥の背景の布には爆撃で、壊れたビル、廃墟と化した瓦礫の映像が映し出され、舞台上には赤子を抱いた若い女性と若い男(女優が演じる)がお互いの無事を確認し合い、女が、「今日は、ミサイルもドローンも飛んでこなかった」と語り、女は今日、母の実家の処へ行くと言っている。
 場面は一転して、白のシャツと黒色のズボンをはいた男女の群れが乱舞し、爆撃にあったようにして全員が倒れ伏す。そして、そこから『ハムレット』の4幕4場である、フォーティンブラスがポーランド侵攻の為にデンマークを通過する場面から始まる。前の映像から、それはロシアがウクライナに侵攻する場を想像させる。
 「では隊長、デンマーク王のもとに、おれの代理としてあいさつに行ってくれ。かねてご承認いただいたとおり、フォーティンブラス、兵を率いてご領地を通過したい、と申しあげよ。落ち合う場所はわかっておるな」、「食って寝るだけに生涯のほとんどをついやすとしたら、人間とはなんだ?」という、フォーティンブラスとハムレットの台詞が交互に、幾度も幾度も繰り返して演じられる。
 1幕1場冒頭のエルシノア城壁の誰何の場面では、「だれだ?」「おまえこそだれだ?」の台詞も繰り返され、その「だれだ?」は、「自分はだれだ?」へと、自己アイデンティティの問題へと転化される。
 『ハムレット』の劇は解体されながらも、主要な場面はすべて網羅され、行きつ戻りつしながら展開していく。
 オフィーリア狂乱の場で歌われる歌、「抱いてあれほど夫婦になると誓ったことばはどうしたの?」というオフィーリアの台詞は、ハムレットその人に向って歌われる。そのことでハムレットとオフィーリアの関係が赤裸々になる。
 登場人物の中で特異な働きをするのは、ローゼンクランツとギルデンスターンの二人。お互いに片方ずつしか靴を履いておらず、その靴も足のサイズよりはるかに大きい。ふたりはハムレットを探しているようであり、そうでもないようでもある。二人の動きは、からくり人形のようにぎこちない。ギル(?)が靴を履いた足でロゼ(?)の靴を履いた足を踏む。(?)は、どちらがどちらか分からないため。足を踏まれたロゼは、「いた」(痛)という。ギルは(ハムレットが)「いた」と応じる。二人の会話は緩慢でゆっくりとしている。二人の所作と会話は、まるでベケットの不条理劇を見ているようで、ばかげたもので、それまでの劇の進行とは異質の空気を醸し出す。このふたりは、『ハムレット』劇で言えば墓堀人の場の役割ともいえるが、この劇でも墓堀人登場の場はもちろん入っている。
 王と王妃の劇中劇も演じられる。
 主要な人物でただ一人現れないのは、「語り部」としてのホレイショーである。彼だけは一切登場しない。そこに何か意味を感じるものがあった。それはいろいろ考えられるのだが、今ここでは問題に取り上げない。
 シェイクスピアの『ハムレット』を知っていれば、この劇にはそのすべてが盛り込まれていると思えるほど、そのすべてが盛り込まれている、という印象が大であった。
 行きつ戻りつの中で繰り返しも多く、時に冗漫に思えて劇が長く感じられることもあるが、その荒削りなところに、若さと斬新さを感じた。
 流山児祥の「ごあいさつ」文の中に、<1967年に青山学院大学2年20歳の時、「演劇集団ヘテロ(異端)」アングラ劇団を旗揚げし、C.マロウィッツ作、宮本研翻訳『HAMLET』をメンバーと読んで、一度上演しようと思ったことがあり、新人たちと「2026年のHAMLET」を上演しようと思いたち、日本大学芸術学部2年20歳で劇団「親知らず」の演出家である高信すみれに上演台本を依頼した・・・1か月の集中稽古で日々、割っては壊し、壊しては創る稽古を重ね、「世界の何処にもない」瓦礫の戦場(ガザ)を舞台にした死者たちのHAMLET狂騒劇を創り上げた>とあり、このあいさつ文で、この劇のエッセンスのすべてが語られていると思うが、そのとき20歳であった流山児祥が、いま20歳である高信すみれに自分の思いを託したところに興味がわくと同時に、時代性を感じた。
 この劇の最後でオフィーリアがハムレットに語る、二人は、今は死んでいるという言葉に、流山児祥がいう<死者たちのハムレット>が表象されている。
レアティーズとハムレットとの剣の試合で登場人物の全員が死んで舞台上に伏してしまうのは、開幕時の空爆で全員が舞台上に倒れ伏している姿を回帰させる。
 そして、溺れて死んでいたオフィーリアがその場からやおら起きだし、ハムレットに声をかける。ハムレットは自分が死んでいるのに気づいていないのだが、オフィーリアからふたりとも死んでいるのだと教えられる。しかし、お腹にいた子は助かっていると告げる。その台詞は、この劇の最初の場面、赤子を抱いた若い母親と、それを見守る若い男の場面とダブってくる。
 終幕近くで背景の布が落とされ、一面すべてが鏡となっていて、観客に背を向けたハムレットと、観客であるわれわれの姿が映し出されたのに、ちょっとした驚きが走った。その鏡は再び元のように布で覆われる。
 この劇は、新人6人と、流山児★事務所のシニア劇団「RAKU(楽)」から、王(クローディアス)の釘宮由稀と、王妃(ガートルード)役の真木瑠璃子のふたりが客演し、8人で演じられた。
 この客演のふたりと、主演のハムレットを演じた高信すみれとオフィーリアを演じた岡本瑠奈(桜美林大学4年22歳で、振付も担当)などが一人一役で、その他の出演者は複数の役を演じた。フォーティンブラスとレアティーズを演じた達は、声をつぶしての奮闘、亡霊とポローニアスを演じたのは、新人として5年間演じてきたという本間隆斗、そしてローゼンクランツに真田雪、ギルデンスターンと隊長に向後絵梨香が演じた。
 最前列の左端に座っていた流山児が劇の途中で舞台に割って入り、演じている役者に向って「大根役者!」と言って演技に注文を付けたりする場が二三度あって、怒鳴りつけている流山児がこの劇を自ら楽しんでいるだけでなく、演じている彼らを愛おしく思っているのが感じられるものであった。
 それは、カーテンコールで、流山児が出演者の紹介をした後、「この歳になったので、楽しんでやりたいことをやる」と言っていたことによく表れていた。
 客席は満席で、老若男女、バラエティに富んでいた。
 上演時間は、休憩なしで1時間15分。

(注)劇中の『ハムレット』の台詞は、正確を期すために小田島雄志訳を用いた。

 

構成・演出/流山児祥、構成・演出助手/高信すみれ
1月24日(土)14時開演、SPACE早稲田、チケット:2700円、全席自由


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