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― 舞台は、平将門の鎮魂の「祈り」の場 ―
『マクベス』の時代劇翻案と言えばまず思い出すのが、黒澤明監督、三船敏郎主演の『蜘蛛の巣城』だろう。
舞台では、蜷川幸雄の『NINAGAWAマクベス』の舞台美術が安土桃山時代の様式で、舞台装置が仏壇となっているのが有名で、他には栗田芳宏演出による「りゅーとぴあ能楽堂シェイクスピア・シリーズにおける能楽堂の能舞台を用いた市川右近のマクベス(2006年に初演、7年に再演)などがある。蜷川と栗田の『マクベス』は、舞台装置や衣装が時代劇風であるが、登場人物の名前は原作通りとなっているのが共通している。
『蜘蛛の巣城』と同じく時代劇翻案劇としての『マクベス』は、下館和巳脚色・演出、シェイクスピア・カンパニーによる『恐山の播部蘇』(2000年)などがあるが、今回のBOW公演に最も近い翻案劇としては、脇太平作・演出によるWAKI組公演の、松永弾正久秀をマクベスにした「戦国シェイクスピア『BASARA~謀略の城』」(2009年初演、13年に再演)がある。
そこで今回の「平将門の乱」を下敷きにした『マクベス』は、原作とどのような関連性を見出せるだろうか。
平将門の乱は、はじめは父の遺領をめぐる一族による平安時代中期の東国の争いであった。
将門は、鎮守府将軍良将の子で、上京して藤原忠平に仕えたが、官途を得ず下総に戻り、前常陸大掾源護と争い、これに味方した叔父の国香を殺して国香の子貞盛に攻められたが、これを打ち破った。のち常陸国府を焼き打ちし、下野、上野の国府を攻略しして「新皇」と号した。朝廷では、藤原忠文を征夷大将軍に任じて将門を討とうとしたが、忠文の到着以前に、下総の押領使藤原秀郷の助けを得た貞盛によって殺された。死後、将門の霊は神田明神の将門社に祀られた、というのが「平将門の乱」のあらましである。
四方を観客席に囲まれた舞台の四隅に、それぞれ太い柱が立てられ、舞台は「祈りの場」となっている(演出家の弁)。その舞台の様子は、橋掛かりのない能舞台を髣髴させる。
開演とともに最初に登場するのは神田明神の「賀茂明神」、舞台の浄めをするかのように祓いの所作を行う。
この賀茂明神は、後に3人の陰陽師(魔女)たちの所に登場してくるので、魔女のヘカテでもあると知れる。
雷鳴とともに烏帽子姿の3人の陰陽師が登場し『マクベス』の幕開けの台詞を語り、「善は悪となり、悪は善となるは、神秘の仕業」と唱える。
そこへ平将門(マクベス)と藤原忠文(バンクォー)が登場してくる。それ以後の展開は、登場人物の名前こそ異なっているが、ストーリーそのものは原作通りの筋書きで進んでいくので、登場する人物名になじみがなくて覚えられなくとも、原作のどの人物かはすぐに分かり、『マクベス』そのものだと容易に感じられた。
四方が観客席で舞台の登場口というものがなく、登場人物はこの四方の観客席を通って縦横無尽に登場するので舞台の展開にスピードがあり、ぐいぐいと引き込まれていく。
原作の魔女に相当する陰陽師たちが場面の要所要所に登場していたのも特徴であった。
見どころはいろいろあったが、特に二つをあげれば、一つは門番の登場の場。この役は平貞盛役(ダンカン王)を演じる栗原茂がこの門番と侍医役を、観客サービス旺盛に演じて、それまでの緊張感をほぐしてくれ、気分を和らげてくれた。
今一つの見どころ(聴き所)は、平将門を演じる庄田侑右の「明日、また明日」のいわゆるTomorrow speechの台詞。この台詞は演出によっていろいろな声音、声調で発せられ、興味深い場面であるが、庄田のこの台詞は苦渋の、涙に詰まりながらの台詞回しで胸に迫るものがあり、最も感動的な場を醸し出して好演。
庄田侑右はマクベスを、2012年のタイプス・プロデュース公演第50回記念と、17年の再演で演じているほか、16年には、同じくタイプス・プロデュース公演の『マクベス』でマクダフを演じたのを観ている。
将門は平良文(マクダフ)に殺され、平貞高(マルカム)の坂東国府覇者宣言の後、エンディングは、周囲を数多の登場人物たちに囲まれた賀茂明神が将門の首を高々と掲げ、そこにスポットライトが集約され、静かに溶暗し幕となる。
テンポよく進んでいくので、固唾をのむように気力を集中して見(魅)入らされ、観劇後、その息詰まるような緊張感にどっと疲れを感じるほどで、今年一番に感動した舞台だと言える劇であった。
登場人物が一部ダブルキャストとなっており、A、B二組による公演で、自分が観たのはB組であった。
B組の将門の妻役(マクベス夫人)を演じたのは、湊ひな。彼女が将門からの手紙を読む場面にも陰陽師が登場していた。平良文役は南武杏輔、平貞高は田中順也が演じている。
主演の庄田侑右とダンカン王を演じる栗原茂はA、B組両方に出演。
座席は、前方・中間・後方の3ブロック制で全席自由となっており、自分は、通常であれば出演者の後姿を見る席である舞台背面の、前方ブロック1列目の中央席であった。
上演時間は、休憩なしで1時間50分。原作『マクベス』を、「平将門の乱」と陰陽師や賀茂明神と融合させた見事な舞台であった。
【参考資料】
「平将門の乱」については『ブリタニカ国際大百科事典』小項目電子辞書版による。
時代劇版『マクベス』上演については、「あーでんの森散歩道」シェイクスピア観劇日記による。
異訳/BOW、演出/桒原秀一、演出補佐・殺陣/南武杏輔、振付/入倉慶志郎
美術/小月沙月、音楽/印南俊太郎、衣装/Yomu
11月8日(土)14時開演、両国・シアターX(かい)、
チケット:6500円、パンフレット:2000円
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