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コーディネーターの文学部井上優教授の「思い出話」で初めて気づいたのだが、今回の『冬物語』は、2011年、第8回の公演以来二度目となる。
この第8回公演は、明治大学シェイクスピアプロジェクト(MSP)の歴史にとって重要な契機でもあった。
前年まで、「文化プロジェクト」と称していたのを、「シェイクスピアプロジェクト」と改称した第1回目の公演であった。そして、第6回の『ハムレット』公演から学生翻訳チーム「コラプターズ」による翻訳台本を使用し始め、3作目となる作品であった。第6回以後、すべて「コラプターズ」が翻訳を手掛けている。
その『ハムレット』の翻訳の評判を聞いて関心をもってこのMSPの上演を見始めたのが、『冬物語』公演の前年、2010年の第7回、「文プロ」としては最後となる『夏の夜の夢』からで、以後毎年欠かさず観続けてきている。
その第8回公演についてはすっかり忘れていたので、改めて自分の観劇日記を読み返してみた。
座席は2階席の3列12番という舞台からはかなり離れた席だった。今回は、招待席であるDブロック、15列17番で、舞台の真正面という好位置であった。
その時の観劇日記によると、演技面ではリオンティーズを演じた薄平広樹君を絶賛している。彼は、第5回でマルヴォーリオ、第6回でクローディアス、第7回でボトムを演じて4年連続の出演であった。
演出面の工夫としては、「マミリアスが遊んでいた大きなボールが嫉妬を表彰する緑色で、このボールを嫉妬の妄想に狂うリオンティーズがマミリアスから受け取って手にするところなどは、はっとさせられるうまさがある」と記し、そのマミリアスを演じた三森伸子さんが「時」をも演じていた、と記録している。
翻訳面では、ハーマイオニーの立像が動き出す場面でリオンティーズが口にする、「立像が動くならたとえ悪魔の仕業であろうとも許す」という台詞に、僕は「悪魔学」などの著書もある国王ジェイムズ一世のことを思い出している。
今回の翻訳チーム「コラプターズ」は28名からなるチームであるが、前回の翻訳を参考にされたのかどうか触れられていないが、参考に両翻訳を比較してみてみたいものだ。14年の歳月が翻訳にどう作用しているかも大いに気になるところである。
今回の上演に当たって翻訳チームは、「時」の経過という要素が加わることで「奇跡」が単なる不可思議な現象ではなく、観客に希望を与える要素として昇華されている魅力を強調している。
開演前のマエセツのコントでは、毛刈り祭りに登場するモプサとドーカス役の二人と、羊飼いの息子道化役が加わって、開演前の観客の気分をほぐしてくれた。
開演とともに、舞台上には毛刈り祭りに登場する人物たちが集まっての賑やかな舞踊風景の場から始まり、彼らがはけた後、カミローとアーキディマスが登場し、シチリア王レオンティーズとボヘミア王ポリクシニーズの熱い友情ぶりを語り、続いてレオンティーズとハーマイオニー、ポリクシニーズらが登場してくる。この場では、最初の見せ場となるレオンティーズの突然の嫉妬の狂気がどのように演じられるかが興味あるところである。
レオンティーズを演じたのは政経学部4年生の黒崎海秀君で、彼の発声は非常によく通る声でこの舞台の中心となる役割を見事になしていたと思う。そのレオンティーズの妃であるハーマイオニーは、文学部2年生の森井つむぎさんが演じた。
登場人物で注目する役の一つにポーライナがあり、この役の演技次第で、立像が動き出す感動の奇跡の場面が左右される重要な人物であるが、それを演じたのは文悪部4年生の小松崎梨華さん。メリハリのある台詞と演技で好演。
自分が楽しみにしている登場人物のもう一人に、毛刈り祭りに登場するオートリカスがいる。情報コミュニケーション学部4年生の安藤岳君が、この舞台は自分のものだというぐらいに縦横無尽に楽しんで演じていたのが印象的であった。
前半部と後半部を結ぶ「時」の役は、一番高い位置にあるボックスに、純白で、羊の毛のようにふわふわの、お人形のような衣装で登場し、擬古文調の言葉による台詞に耳がそそられた。その「時」を演じたのは、文学部1年生のタイラー沙南さんで、彼女は劇中で他に侍従や紳士も演じている(が、自分は気づかなかった)。
この劇の最後の見せ場は、ハーマイオニーの立像の姿と、その立像が動き出す瞬間の感動の場面。
レオンティーズとポーライナの演技に加えて、ハーマイオニーの演技が最も大事な場面で、観客も最も期待する場面でもある。その場の緊張感を楽しませてくれる三者の演技が心に届く好演であった。
ハーマイオニーの立像は、「時」が登場したボックスの中で、カーテンが引かれてその神々しいまでの姿が印象的であった。
MSPの公演は、キャストだけでなく、楽器隊をはじめ、制作部全体、特に衣装部や舞台美術部など、総勢206名のプロジェクトメンバーによる成果で、その総合力と結集力にいつも感嘆させられている。
出演者は、昨年のプログラムと参照すると、昨年出演した学生が一人もいなかったのに、単なる偶然か意図的なものかと、ちょっと気になった。
上演時間は、休憩なしで、2時間15分。ちなみに第8回の上演時間は、2時間30分だったと記録している。
毎年のことながら、もうすでに来年の公演の準備も決まっており、来年は第2回公演以来となる『マクベス』が決まっている。
翻訳/コラプターズ(学生翻訳チーム)、プロデューサー/佐藤穂佳(文芸2年)
演出/村上水彩(文学部4年)、監修/西沢栄治
11月7日(金)17時開演、明治大学駿河台キャンパスアカデミーコモン3F,アカデミーホール
座席:Dブロック、15列17番
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