2025年髙木登観劇日記
 
   新地球座公演 荒井良雄沙翁劇場 第49回
                 『ルークリース』           
No. 2025-039

 原文は、まず、長い。一人で朗読しても2時間前後かかる。それを朗読ではなく、朗読劇としてドラマ化するにあたっての台本構成は、地の文を「コーラス」の語りとしての手法を用い、登場人物の台詞をそれぞれ「登場人物」として台詞を語らせることで、この詩を立体化することにした。
 長いこの詩を1時間以内に収めるために本編の主題からは外れたルークリースの、「夜」「時間」への長い呪いや、トロイ落城の絵を見ての述懐などの脱線部分は思い切って省略した。
 台詞のある登場人物は、ヒロインのルークリース、ルークリースを犯すタークィン(ローマ王の子)、ルークリースの夫でタークィンとは従弟同士となるコラタイン、ルークリースの父親ルークリシャス、コラタインの友人ブルータス(彼は後に執政官となる)の5人である。
台本では最低3人で演じられるようにコーラスを3人にしているので、登場人物を兼任する必要がある。今回のキャスティングでは5人の出演者となっているので、コーラスと登場人物のキャスティングをどのようにしているかも見どころとなる。そして、この詩が演出によってどのようにドラマ化されに立体化されるか、興味ある所であった。
この詩の全編の内容は、<ローマ軍がアルデアを攻撃中のある夜、ローマ国王の子タークィンの天幕に集まった貴族たちが、自分の妻の美徳をほめあったが、試しに我が家へ不意に帰ってみると、留守宅を貞淑に守っていたのはコラタインの妻ルークリースだけであった。彼女の美しさの噂を聞いて彼女に魅せられたタークィンは、ひとり軍営を抜け出して彼女を訪れ、ルークリースの寝所に忍び込み、力づくで彼女を犯して去る。悲しみと怒りに悶えて一夜を明かしたルークリースは、翌朝、早馬で夫に至急の帰宅を求める手紙を出す。急を聞いて駆けつけた夫とその友人たちに、ルークリースは我が身の不幸を語り、復讐を誓わせたのち犯人の名を明かし、その場で自害する。彼女の遺体はローマ市民たちに公開され、タークィンの横暴を憤った市民たちは王一族を追放し、ローマ王政から執政官政治へと移る。>
 台本との相違として、朗読劇の冒頭部で本編にはない坪内逍遥の「梗概」を西村正嗣が語るところから始めたことにより、『ルークリース』の背景がよく分かるように工夫されていたのが非常に良かった。彼が最初にコーラスとして概況をかたったことで、結びの台詞をコーラス全員が語るようにしていたのを彼一人が語ることに変更され、円環的に閉じられる効果があったと思う。
 5人の出演者ということで、そのうちの4人までがコーラスを務め、台詞量が多いだけでなく長いルークリース役を森秋子が務めた。彼女は出演者のなかでは最も年長で〇〇歳となるのに、その声と声量は一番若く感じさせるものであった。彼女を引き立てるのは4人のコーラスで、それぞれが味わいのある声でドラマに引き込んでくれ、それぞれに聴くべきものがあった。
 逍遥訳は劇の翻訳と異なって詩的表現を重んじるあまり、文字で見ても現代の者には難しく、それを耳で聴いて理解するのは一層難しい、というか困難でさえある。その困難を超越しているのは、それぞれの台詞力、朗読力で、内容の理解を超えた詩的な響きの美しさを味合わせてくれるものであった。まさに、聴く詩であった。
 出演者が一様にこの長編詩を難しいと言っていたにもかかわらず、その台詞力と演出の妙によって、この長編詩が見事に立体化され、ドラマ化されていたことに感動した。感謝!!
 出演者は、序詞役1とタークィンに高橋正彦、序詞役2とルークリシャスに倉橋秀美、序詞役3とコラタインに西村正嗣、序詞役4とブルータスに薹史子、そしてルークリースに森秋子。

 

翻訳/坪内逍遥、監修/荒井良雄、台本構成/高木 登、演出/高橋正彦
9月24日(水)18時30分開演、阿佐ヶ谷・名曲喫茶ヴィオロン


>> 目次へ