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ラボ公演の案内をいただいたとき、<1972年のSF映画『惑星ソラリス』の枠組みの中で『冬物語』を展開させたらどうなるかという実験>とあって、その着想の面白さに興味がひかれた。
映画『惑星ソラリス』については全く知らなかったが、予備知識を入れずに観たので、何にも知らないから、次の展開をわくわくしながら観ることができ、期待通りの面白さを楽しむことができた。
舞台の始まりは、『冬物語』のハーマイオニの彫像が動く場面が演じられ、そこで場面が転換して「ボヘミアの海で熊を見た」という惑星ボヘミア探索隊員アンティゴナスが尋問される場となる。彼の証言は信用されず、かえって彼は狂人扱いされることになる。
心理学者のレオンティーズがボヘミアの探索のためにボヘミアの宇宙ステーションに派遣されることになる。
彼の妻ハーマイオニは、夫に浮気の疑いをもたれ自殺し、浮気の相手の疑いを持たれたポリクシニーズはボヘミアの宇宙ステーションへと去っている。
レオンティーズの娘パーディタとはそれが原因で16年間疎遠となっている。
出発に際してレオンティーズはアンティゴナスの妻ポーライナから、夫の証言が真実であることを証明すべく託され、ミニチュアのハーマイオニの彫像を贈られる。
ボヘミアの宇宙ステーションで出迎えたのは、サイバネティックス学者のカミローで、そこにはほかに天体生物学者のオートリカスがいるが、ポリクスニーズは自殺したという。
レオンティーズはそこで死んだはずの妻ハーマイオニと出会うが、その存在を疑うレオンティーズは彼女をロケットにのせて一人送り出してしまう。
しかし、その彼女が再び現れ、レオンティーズを愛しているという。そして、彼女はまたも自殺を図る。
自殺して死んだはずのポリクシニーズが現れ、彼は息子のフロリゼルが交通事故で死んだという。
ボヘミアの海は「独特な頭脳」であり、「思考力を持った実体である」という。アンティゴナスが熊を見たというのも、レオンティーズが今体験していることもすべてボヘミアの海のなせる仕業である(らしい)。
レオンティーズが再び地球に戻った時、出迎えたのはポーライナではなく、16年間音信不通であった娘のパーディタだった。そしてパーディタは、フロリゼルを夫として紹介する。
レオンティーズは、フロリゼルは「死んだはずだが・・・」と訝ると、パーディタは、さらに母親のハーマイオニも出迎えに来ているといった時、レオンティーズの頭は一瞬白くなり(舞台が急に明るむ感じ)、場面は暗黒に転じる。この終わりの場面が衝撃的な印象であった。
観劇後、改めて映画『惑星ソラリス』のことを調べて見ると、1972年のソ連の映画で、ロシアの映画監督アンドレイ・タルコフスキーが、ポーランドの作家スタニスワフ・レムの代表作、SF『ソラリスの陽のもとに』を映画化したもので、未知の生命体と接触した極限状況に置かれた人間の心理を独特な映像表現で、1972年のカンヌ映画祭で審査特別賞を受賞している。
科学者たちは、ソラリスの海は知性を持った巨大な存在で複雑な知的活動を行っていると考えて接触を図るが失敗に終わる。
原作者のレムはタルコフスキーが作った映画に不満を持ち喧嘩となり、レムはタルコフスキーが作ったのは「ソラリス」ではなく「罪と罰」であったと語っている。
レムの、この映画は「罪と罰」であるという言葉は、この劇にも示唆的に感じられる。
この劇で新しく感じたのは、レオンティーズがボヘミアの宇宙ステーションに向かうロケットの中で、話し相手がAIであることだった。50年前の映画では考えつかないことだったろう。
この舞台の印象として非常にクールなものを感じたが、学生たちの演技も、いい意味でクールであった。そして、何よりもこの劇を、映画『惑星ソラリス』とシェイクスピアの『冬物語』を結びつけた着眼点がすごいと思った。
それぞれの登場人物を演じる出演者は、
レオンティーズに菅原丈(政経2)
ハーマイオニに萩原美結(文1)
ポーライナとカミローに松永実里(文1)
ポリクシニーズに宮脇胡桃(文1)
オートリカスとパーディタに小寺杏珠(商1)
アンティゴナス、フロリゼルに山本梨世(文1)
の6名。()内は学部と学年。
『冬物語』のラボ公演としてふさわしい実験作で、緊迫したミステリアスな展開を楽しむことが出来た。
サブタイトルの<「空」の世界で、アナタを信じる>は、チラシの言葉をそのまま採用。
上演時間は70分。
作/井上混、プロデューサー/佐藤穂佳(文2)、演出/大町友美(文卒)
9月6日(土)13時開演、明治大学猿楽町第2校舎1階アートスタジオ
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