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日英語朗読劇 南部弁『マクベス』 + 『マクベス裁判』
楽師を務める奥泉光がこの日川端康成賞受賞の授賞式があるということで、開演が19時半。19時の開場時間から天気予報通り雨が降ってきたが、その雨も終演時には降りやんでちょうど良いタイミングであった。
開場前に入り口で一緒になった女性は、新潟から新幹線を利用して来られたということで、開演時間が遅いため帰りの新幹線の時間に間に合わないので知人宅に泊めていただくということであった。1時間の上演を聴くためにそれだけの時間をかけてやって来られたことに驚きとともに深い感銘を受けた。
奥泉が鳴らす太鼓の音で始まり、いきなりの音でびっくりしたが、さらに開演の最初の一声が『マクベス』上演にあたっての災難除けの呪い文句を江戸馨が英語で叫ぶように発声し、二度びっくり。マクベスの呪いには伝説的な話がついてまわっているが、この上演の1週間前に江戸は転倒して足腰を打ち、上演も危ぶまれたというから、呪いの文句も真に迫ったものだった。
そこからいつものように江戸馨の解説が始まる。『マクベス』の舞台がイギリスの北部、スコットランドで非常に寒いところで、雑草も生えない荒涼たる荒れ地であることや、劇ではマクベスは悪人として描かれるが、史実としての.マクベスは17年間善政の統治で、ダンカンの方がむしろ悪人であったということや、1995年のエディンバラ・フェスティバルに東京シェイクスピア・カンパニーが参加したことなどが語られた。
この辺のスコットランド史については、フランク・レンウィック著の『とびきり哀しいスコットランド史』で、当時の王位継承は世襲制でなく、親族間の殺し合いによって次の王が決められていたことや、王位継承権はダンカンにではなくマクベスにあると異議を唱える者がいたことなどを読んでいたので、納得しながら聞くことが出来た。
今回の楽しみは『マクベス』を南部弁で聞けるということと、22年ぶりに『マクベス裁判』を聴けることであった。
前半部の『マクベス』では、マクベス夫人とマクベスの二人からなる台詞で構成されていて、青森県出身の紺野相龍が自ら作成した南部弁台本で、紺野が南部弁でマクベスを演じ、江戸馨が英語を主にして日英語でマクベス夫人を演じた。
『マクベス』の1場では、「魔女のお告げ」と題してマクベス夫人がマクベスからの手紙を読む場面(1幕5場)で、2場はダンカンを城に迎えた「宴の裏で」(1幕7場)、3場はダンカンを殺した後の「殺しの後で」(2幕2場)、4場はマクベス夫人夢遊の場で「マクベス夫人」(5幕1場)、最後の5場は有名な'Tomorrow' スピーチの「明日、また明日」(5幕5場)からなり、全部で5場の構成となっている。
紺野の南部弁によるマクベスに、標準語による翻訳では得られない、血の通った生身の人間を感じ、深い感銘を受けた。マクベスという人間を間近に、そして身近に、肌身に感じてぞくぞくして聴き入った。
江戸馨の美しい英語の発声もいつも楽しみにしているが、今回は日英語ではなく、紺野南部弁に対して英語のみで通して聴きたかった。英語から途中で日本語に切り替わることで自分の中で頭のスイッチの切り替えがうまくいかず、残念な気がした。言葉の意味を追うより、南部弁と英語の音を楽しみたかった。しかし、大いに満足はできた。
江戸馨主宰の東京シェイクスピア・カンパニー(TSC)による『マクベス裁判』の初演は1996年であるが、その初演は残念だが観ていない。その時のマクベスを演じたのは吉田鋼太郎であったという。自分が観たのは『マクベス裁判2003』で、その表題の通り、2003年の上演で、この時のマクベスは井出泉で、紺野相龍は魔王のベルゼベルを演じていた。そのこともあって今回紺野のマクベスを聴く期待もあった。
今回の朗読劇では、奥泉光作の『マクベス裁判』の第3章「マクベスの業罰」の場を取り上げ、マクベスを紺野が演じ、悪魔のメフィストフェレスを江戸馨が演じた。
全体の話としては、地獄に堕ちたマクベスが地獄の責め苦をむしろ楽しんでいて、このままでは地獄が危うくなるということで彼を天国に送り込むための裁判を開く話で、ずっこけた喜劇的な話の面白さと、二人の絶妙な台詞の語り口に引き込まれていった。望むらくはもう一度この劇そのものを観てみたい。是非再演してほしいものだ。
解説のマエセツを含めて1時間の上演であるが、濃密な時を過ごすことが出来、満足して会場を後にした。
今回の公演は予約段階から満席だったということで、そのため早くから下北沢のステージカフェ下北沢亭で、7月10日(木)15時に、つかさまりの出演を加えて、『南部弁マクベス再臨!』として再演が決まっている。
早くに案内をいただいたのだが、毎月第2木曜日は定期的な行事予定が詰っていて伺えないのがかえすがえすも残念である。
『マクベス』訳・構成・解説・演出/江戸 馨、南部弁台本/紺野相龍
『マクベス裁判』作/奥泉 光、笛・太鼓の演奏/奥泉 光
6月27日(金)19時30分時開演、神保町ブック・カフェ月花舎、
料金:3000円(1ドリンク付き)
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