2025年髙木登観劇日記
 
   SAYNK 第20回日英語朗読劇公演 『シンベリン』        No. 2025-027

~ 「赦しの言葉をすべての人に」、愛と赦し ~

● 朋友、清水英之さんを悼んで
 朝、9時過ぎ、倉橋秀美さんから突然の電話。清水(英之)さんが亡くなられたとのこと。
 あまりの突然のことで信じることが出来なかった。今日は、「シェイクスピアを愛するゆかいな仲間たち」公演の『シンベリン』に清水さんも出演されることになっているので、公演はどうなるのだろうかという思いとともに、何よりも困惑されているのは主宰者の瀬沼さんではないかと案じられた。
 開演に先立っての主宰者挨拶の言葉で、瀬沼さんは公演を中止しようかと迷われたことを語られた。
 舞台中央前面に黒い布で覆われた30cm角ほどの箱の上に、この日タイトルロールのシンベリンを演じることになっていた清水さんを敬意して、王冠と清水さんの最後の著書となった『英語発音とシェイクスピア』の本を飾って清水さんへの哀悼の気持を表していた。
 開演から途中までの舞台の雰囲気は、出演者の表情や朗読演技が心なしか沈んで感じられたのは、自分の気持でそう感じるのか、出演者の気持もあってのことか、二つの気持が相半ばして感じられた。
 2幕3場で楽師たちが歌う場面があるが、その場面では当初から予定されていた、清水さんの作曲でご自身が歌われているCDの曲が流された時は、涙があふれてきてどうしようもなかった。
 出演者の方々にとっても、今回の公演は清水さんへの追悼公演となって非常につらいものであったであろうと察せられる。
 いまはただ、清水さんのご冥福を祈るばかりである。
●上演の記録に代えて
 瀬沼さんは開演に先立って挨拶の言葉で、『シンベリン』はシェイクスピアのロマンス劇最後の作品で、そのテーマは「愛と赦し」であり、平和が求められる今の時代にこそふさわしいテーマだと語られた。
 タイトルロールのブリテン王シンベリンは清水さんが演じることになっていたが、急遽、瀬沼さんと横浜シェイクスピアグループ(YSG)代表の飯田綾乃さんの二人で演じることになった。
 瀬沼さんは、シンベリンによって追放されたベラリアス、イタリア人のヤーキモ、ローマ軍の将軍カイアス・ルーシアスなどを演じるため、最終の5幕5場ではその全員が一同に会するため、対話者によってシンベリンを二人で分担して演じるほかないための措置であった。
 この場面は、瀬沼さんが一人で3役を演じなければならないので、観客にとってはただでさえ役の変化についていくのが難しいところにもう一つの役、シンベリンが加わるだけでなく、そのシンベリンを場に応じて二人で分けて演じるのだから余計に混乱する。
 この劇を知らない人には恐らく人物関係が分からなくなったことかと思う。というより、シンベリン役そのものが一部混乱して演じられた部分があった。
 台詞の構成上シンベリンの台詞は欠かせないので、急遽の措置での役分担で上演時間も伸びることになると、はじめに断わりがあったが、その通りとなって最後の場面は押し詰めたものとなったことも台詞の混乱に影響していたと思う。
 清水さんが欠けた影響が余りにも大きかったのでそのことが先になってしまったが、劇そのものはいつものように出演者の台詞力を楽しませてもらった。
 今回はほとんど知られていない作品ということもあって、この日英語朗読劇では英語30%、日本語70%の比率での構成であったが、僕は出演者の英語の台詞を聴くのをいつも楽しみにしている。
 前回の『じゃじゃ馬馴らし』でビアンカやビオンデロを演じた泉谷果穂については失念していたのだが、今回、ポステュマスの召使いピザーニオを演じて、英語の台詞になった時の、のびのびとした発声が記憶をよみがえらせてくれた。
 ナレータ-とヒロインのイノジェンを演じた劇団AUNの佐々木絵里奈については、3幕4場で、ポステュマスが不義を責める手紙をイノジェンが読む時の彼女の台詞回しが、『オセロー』のデズデモーナーの姿と重なって聞こえたのは彼女の演技力のなせる業だろう。
 その他の出演者と主だった役は、ポステュマスやギデリアスを関谷啓子、王妃、アーヴィレガスを東春子、王妃の息子クロートン、医師のコーネリアス、占い師のフィラモナスを能見学、飯田綾乃はいつものように音響と照明を担当しながら、貴族や使者、それにシンベリンの代役などを演じた。総勢7名。
 上演時間は、途中10分間の休憩を挟んで、少し延長して2時間40分。
 なお、今回の台本は、清水さんの学習院大学後輩でもある学習院女子大学教授の古庄信先生の同大学公開講座受講生のために作成された日英語台本のご提供を受けられたと「挨拶文」に記されていた。
 清水さんと瀬沼さんとの関係は、大学時代にシェイクスピア英語劇で競演したことがあり、お互いにその技量を認め合って、将来一緒にやりたいねと語った仲だと伺っており、その共演が実現し、これから先も続けられることを観客者の一人として楽しみにし、期待もしていたのに残念でならない。
 今回は、ただただ、清水さんのご冥福を祈ると共に、主宰者の瀬沼さんのご心労と出演者の皆さんのご奮闘に「お疲れさま」と申し上げたい。
 今回だけは、観劇後の足取りは重く、悲しいものだった。
 清水さんの、にこやかな表情と包容力のある台詞の発声を、もう見ることも聞くことも出来ないのかと思うと、ただただ辛く悲しく、いくら書いても書き尽くせない。

《蛇足》  'Pardon's the word to all' (「赦しの言葉をすべての人に」瀬沼訳)について―テキストの相違―
 5幕5場の大円団の場でシンベリンによって発せられる言葉であるが、この個所の台詞を原文で探していて気づいたことがある。この個所は、翻訳でも、小田島雄志訳も松岡和子訳も5幕5場となっているが、これはアーデン版に基づいていて、ニューケンブリッジ版やオックスフォード版、RSC版では場割が異なっていて、5幕4場(最終場面)となっている。自分は最初に読んだのがニューケンブリッジ版だったので、気になって調べて見た。


台本構成・演出/瀬沼達也、音響・照明/飯田綾乃
シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会(SAYNK)主催/横浜山手読書会共催
6月14日(土)13時30分開演、横浜人形の家「あかいくつ劇場」、入場料無料


>> 目次へ