2025年髙木登観劇日記
 
   オールアクトカンパニー第29回公演 『ヴェニスの商人』       No. 2025-026

 『ヴェニスの商人』は5年前に公演が予定されていてその時自分も観劇予定にいれていたが、コロナ禍が原因で公演中止となった。その中止の理由が別にもあったことがパンフレットの「石山雄大×千葉誠樹スペシャルトーク」で明らかにされていて興味深かった。
 それによると、キャスティングの問題でシャイロックとポーシャの役がはまらなかったことと、演出上の意見の相違として、石山は裁判のシーンでポーシャに老人の振りをさせたかったが、その時のポーシャ役は原作通りにやりたいという要望で意見がぶつかり、結局公演をやめてしまったという。
 ポーシャを老人の裁判官にするのは、そのほうが面白いと思ったという理由だけで、それ以上のことは語っていないが、この劇全体の演出が楽しく面白いものとなっている背景に、この「面白く楽しむ」という石山の遊び心が伺える気がする。
 今回一番印象的に感じた場面は、その石山雄大が演じるゴボーが登場してきたときだった。演技を越えた自然体の「軽み」で芸の重みを感じさせるもので、その場の雰囲気をいっぺんに変える明るさがあった。
 遊び心はそのほかにも随所に現れていて、原作とは異なった台詞に変えている部分もその一つであったが、モロッコの大公とアラゴンの大公の箱選びの場面などはその遊び心を存分に楽しませてくれた。
 二人ともそれぞれ侍女を従えて登場し、モロッコ大公の侍女は大公の台詞に「アッラー」と呼応し、アラゴン大公には二人の侍女と、助言役の侍女がいて、彼女はダンサーとして歌と踊りを披露し、大公に箱選びの助言をする。
 箱選びの場面以外の場面でも、4人のダンサーが場面の合間に色彩豊かにダンスを踊り、目を楽しませてくれた。
 石山雄大の演出の最大の眼目として、エンディングに「一人佇むシャイロックの顔を見せる構成が、今回の私の一番の目論見です」と語っているが、その場面は指輪騒動も収まったところで、ダンサーも加わって一同の歓喜の祝宴の踊りが一通り終わり、そこでストップモーションで一同そのままの姿勢で静止しているところに、舞台奥の下手側からシャイロックが静かに舞台奥の中央へと静かに歩いてくる。
 見ればシャイロックの頭は無帽である。ユダヤ人には必須のキッパ(ユダヤ教徒の男性が常にかぶる帽子)をかぶっていないのは、彼がユダヤ教徒からキリスト教徒へと改宗したことを暗示するかのようである。
 そのシャイロックを演じた千葉誠樹は5年前にはサリーリオを演じ、アントーニオの代役もやることも多かったもののシャイロックは演じたことがなく、シャイロック抜擢は予想外であったというが、石山雄大の期待に見事応えるものがあった。
 石山はサリーリオとサレーニオの二人をかなり重要な役と考えていて、その役を埋めるのに苦労したという。そのサリーリオには大槻ヒロユキ、サレーニオには飛野悟志の二人が好演。
 キュートなポーシャを演じた森田萌依は、僕の娘と同年同月日の生まれとあり、びっくり。腰の曲がった老人の裁判官役も愛敬を感じさせた。
 バッサーニオには川上海人、アントーニオに栗田一輝、その他老若男女の俳優とダンサー4人を含めて総勢31人の出演。
 上演時間は、休憩なしで2時間5分。色彩豊かな演技を楽しませてもらった。
 パンフレットの「あとがき」を読んで驚いたのは、パンフレットを作成している制作部の堀江まどかさんが、この劇の台本をも作成していることだった。彼女は4月のBow17回公演、『煙が目にしみる』の僕の観劇日記を読まれていて、この『ヴェニスの商人』をメールで予約した際、その観劇日記のお蔭で、今回見ず知らずの彼女から招待扱いにしていただいた。調べて見ると、『煙が目にしみる』でも制作を担当されていたのに改めて気付かされた。出演者や主催者からの招待はたまにあるが、制作部の方からの招待は初めてだった。感謝!!


訳/小田島雄志、構成・演出/石山雄大、美術/寺岡崇、振り付け/岡本明日香
6月4日(水)14時開演、シアターグリーン・BIG TREEシアター、
チケット:(S席)6500円、座席:D列10番


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