2025年髙木登観劇日記
 
   劇団うつり座 第3回公演 岸田理生の 『リア』        No. 2025-025

岸田理生アバンギャルドフェスティバル、リオフェス2025参加作品

 岸田理生の『リア』は、1997年9月に国際交流基金アジアセンターとBunkamuraとの共同制作で、シンガポールのオン・ケンセン演出による、五か国語(日本語、英語、中国語、インドネシア語、タイ語)で6か国の出演者が演じる上演を観劇したのが初めてで最後だった。
 今回、実に28年ぶりに岸田理生アバンギャルドフェスティバルの参加作品の一つとして観劇する機会を得た。観劇当日の折り込みチラシで、同フェスティバルに「劇団風蝕異人街」の『リア』の東京公演を知ったが、これは日程上観ることが出来ないのが残念(6月13~15日)。
 劇団うつり座は、2023年に岸田理生の『糸地獄』で旗揚げしたシニア劇団だという。昨年の清水邦夫作『鴉よ、おれたちは弾丸を込める』の上演に続き、今回が3作目となるが、その上演作品名からこの劇団の性格が伺える。
 薩摩琵琶鶴田流の琵琶演奏家、岩佐鶴丈の琵琶演奏に、「春は花の、夏は雨の、秋は枯野の、冬は風の~」という栄枯盛衰が語られるところから舞台は開ける。
 この劇の登場者には固有名詞がない。父である老人、その長女と次女、長女の3人の影法師たち、長女の家来とその影法師たち3人、老人に付き従う忠義者、若い道化と老婆の道化、それに道化とともに登場する音の精霊、そして地の母たちとして示される人物群が登場するだけである。
 長女は、自らを清純、純情、無垢であると語り、それをそれぞれ影法師が表象するが、その影法師は実は「不測」「虚栄」「野望」がその正体であり、長女の内心である。彼女の家来にも長女の数だけの3人の影法師が付いている。
 老人の問いに答えない次女は親子の縁を切られて追放される。
 老人は問う―「私は誰だ?」、長女が答える、「お父様…王であったお父様」、老人は再度尋ねる、「王とはなんだ?」。長女が「王とは力です」と答える。
長女は旅に出る老人を、「お帰りになるまで、王座は開けています」と言って送り出す。 
 登場人物には名前がないが、劇の展開の中で、老人はリアであり、長女はゴネリル、次女はコーデリア、長女の家来はエドマンド、忠義者はケント伯とグロースター伯を兼ねた人物であることが自ずと知られる。
 長女は母の愛を知らないが、次女は母(父である老人)の愛の中で育っている。
 長女の言葉の二面性は、老人である父が、片方の手で優しい言葉を示し、もう一方の手では苛酷な死を与えているのを目の当たりにして育っているからであった。
長女は、忠実な家来に次女を殺させ、その家来をも殺す。そして王座を確固たるものにするために、父である老人をも殺す。
 父を殺して野望を遂げた後、彼女の影法師はすべて消えて行き、彼女一人だけが残る。
 影を失くした長女は、後ろにおびえる―「後ろの正面、だあれ?」。
長女は、鳥となって飛んで行きたいと願う。長女は叫ぶ、「お母さん、助けて!」と。
父であり母である老人が、長女に近寄って行き、「許すという言葉を教えよう」と言って彼女を抱擁する。
 そして、地の母たちを先頭にして、すべての登場人物たちが二人を囲むようにして円を描きながら、琵琶の演奏に和して般若心経の「ギャーテー ギャーテー ハーラー ギャーテー ハラソー ギャーテー ボージソウカ」を声高く唱え、暗転して終わる。
 出演者は、老人に演出を兼ねる篠本賢一、長女に友竹まり、次女に元宝塚歌劇団月組の片桐美穂、サックスを演奏する長女の家来に徳田雄一郎、忠義者に嶺翔、老婆の道化に青木恵、若い道化に三浦今日子、音の精霊に宇沙木はこ、他、総勢18名。
 老人を演じる篠本賢一の演技に能の所作を感じたが、経歴に故観世榮夫に師事したとあったので納得。また、次女役の片桐美穂の踊りにも天女の舞の美しさを感じたが、彼女が宝塚出身だと分かってこれも納得。主要な役を演じている俳優たちもそれぞれの経歴の持ち主で、単純なシニア劇団ではないことが知れた。
 上演時間は、休憩なしで1時間50分。
 緊張感に満ちた舞台であった。


作/岸田理生、構成・演出・美術/篠本賢一、演出助手/渡会りえ、衣装/青木恵
琵琶演奏/岩佐鶴丈
6月1日(日)14時開演、上野ストアハウス、チケット:5500円、全席自由

 

【参考】 1997年9月(Bunkamuraのシアターコクーンで公演)のオン・ケンセン演出の『リア』の出演者と国名
 老人・母:梅若猶彦(能)
 長女:江其虎(中国/京劇)
 次女:ピーラモン・チョムダワット(タイ/伝統舞踊)
 道化:ナシブ・アリ(シンガポール)
 女:片桐はいり
 忠義者:ザヒム・アルバクリ(マレーシア)
 家来:アブドゥル・ガニ(シンガポール)
 長女の影法師(3人):シンガポールの俳優
 家来の影法師:2人がシンガポール、1名がインドネシア
 地の母:シンガポール、マレーシアの俳優、ダンサー6名
 琵琶演奏:半田淳子


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