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『コリオレーナス』は、2020年9月の第29回で一度上演しており、今回は主演のコリオレーナスが前回の久野壱弘から菊池真之に変わり、高橋正彦のメニニーアスとオーフィディアスの二役、倉橋秀美のコリオレーナスの母親ヴォーラムニアは前回と同じである。
尾崎廣子の「先生(荒井良雄)とシェイクスピア『コリオレイナス』」の解説と、SPレコードによるベートーベン作曲の『コリオラン』演奏に続いて『コリオレーナス』の朗読劇。
冒頭の場面は、食料を求めて暴動を起こした民衆をメニニーアスが国家を身体に比喩してなだめるところから始まり、そこへマーシャス(後のコリオレーナス)が現れ、居丈高に民衆に対して立ち向かう。沈着ではあるがどこか道化的感じがあるメニニーアスを演じる高橋正彦と、激高するコリオレーナスを演じる菊池真之の二人の演技のコントラストにまず引きつけられる。
息子が執政官となって出世することを願う母親のヴォーラムニア、そしてローマを救うために嘆願するヴォーラムニアの倉橋秀美と菊池真之のコリオレーナスの対応の場面が、それぞれ見せ場で聞かせどころでもあって、その二人の台詞力を存分に堪能させてもらえた。
ヴォルサイ族の市、コライオーライにおけるローマ軍の陣営で、マーシャスがその活躍によってコミニアス将軍からコリオレーナスの称号を受ける1幕9場の場面は、この朗読劇から前回同様、高木の上演台本からカットされている。
菊池真之の迫力ある台詞力に圧倒され、それを存分に楽しませてもらった。
今回は補助席を設ける程の満席で、盛況であったばかりでなく、終演後の打ち上げ・懇親会の参加者も大勢いて、その感想を聴くのも大変参考になっただけでなく、勇気づけられた。また、当日配布の「逍遥訳『コリオレーナス』ことば辞典」は作品理解の上大変参考になるという意見も聞くことが出来た。
観客としての参加者は出演者に関係した人が大半であるが、それとは全く関係のない人で、第40回(2024年3月)の『ヘンリー八世』以来毎回来られているT氏は、いろいろな翻訳でシェイクスピア劇全作品を読み比べていて、『ヘンリー八世』はこれまでまったく面白くない作品であると思っていたのが、この沙翁劇場での『ヘンリー八世』朗読劇を聴いて初めて面白いと思ったと言われ、それ以後、それぞれの作品の台本構成の面白さを話してくれ、台本構成の面白さに関心と興味を抱いてくれたことに、台本構成者としては我が意を得た嬉しさと喜びを感じることが出来たが、それはひとえに演出とそれを演じる俳優によって具現化されたものである。
翻訳/坪内逍遥、監修/荒井良雄、台本構成/高木 登、演出/高橋正彦
5月28日(水)18時30分開演、阿佐ヶ谷・名曲喫茶ヴィオロン
【参考】 ベートーベンの『コリオラン』について(演奏時間、8分)
1807年の作曲で、初演は同年3月、ロプコヴィッツ侯爵の私邸で開かれた予約演奏会で、ベートーベン自身の指揮によって演奏され、12月の愛好家演奏会で公開演奏された。この曲は、ウィーンの宮廷秘書官で法律家であり、詩人でもあったハインリッヒ・ヨーゼフ・コリンに献呈された。コリンは1804年に劇曲『コリオラン』をウィーンで発表し、ベートーベンはそれから直接的な感興を得てこの序曲を作曲したことはほとんど疑う余地がないという。
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