新国立劇場演劇研修所第18期生公演 『ロミオとジュリエット』
        ~ 絶叫ロミオ、走るジュリエット ~         
No. 2024-050

 客席を取り払って中央を舞台にし、それを囲んで四方にすり鉢状の観客席。
 開場してしばらくして、薄汚れた感じの肌色の麻布で拵えたような衣装で一人の俳優が、「花の都のヴェローナに、肩を並べる名門二つ、・・・死相の浮かんだ恋の道行き、そしてまた、子供らの死をもってようやく収まる両家の怨み」の台詞を繰り返しながら観客席の周りを歩き回り、その数が一人二人と次第に増えていき、最後には出演者全員がその台詞を唱えながら歩いてまわる。その衣装は全員が肌色の麻布のような粗末なもので、顔もそれぞれが薄汚れた感じにしている。
 開演と同時に、舞台上と舞台の下の周りで乱闘と喧騒が続き、ヴェローナの大公の登場でやっと収まる。
 そこから先はテンポよく進展していき、キャピュレット家の舞踏会でロミオとジュリエットはたちまち恋に陥る。
 結婚を持ち出すのはジュリエット。ジュリエットはこの舞踏会が始まる前にキャピュレット夫人からパリスとの結婚話を告げられる。
 結婚を申し込むのがロミオではなくジュリエットであるのは、彼女がもうすでに結婚という言葉と事実に直面していたのに対してロミオは結婚ということに対して現実感を持っていなかったので、ジュリエットが一方的である。
 この劇のテンポの速さに、そのことに初めて気付かされた。
 ロミオとの結婚式に教会に駆けつけるジュリエットは舞台の周囲を何周も何周も駆け回ったあと、舞台の上にいるロミオに跳び上がって抱きつく―走るジュリエット。
 マキューシオを殺され、追放の知らせを聞き、ジュリエットの死を聞かされたロミオはその都度絶叫する。
 最後は、ロミオとジュリエットの二人の死に気付いた連中が声となって、その声に呼び出された両家の者たちが舞台上で乱闘騒ぎとなる。やがてその騒ぎも収まり、キャピュレットとモンタギューがそれぞれ我が子を抱えて歎き、ロミオとジュリエットは舞台上に置かれた状態でそこだけにスポットライトが当たって暗黒の世界となって終る。
 両家の和解の場はないままである。この終わり方は示唆的ではあったが、それならむしろ開演時の時の乱闘騒ぎと同じようにして終わる方がより鮮烈的だと思った。
 演出の岡本健一がモンタギューとキャピュレット両家の争いとロミオとジュリエットの死を、現在のロシアのウクライナ侵攻とガザ地区におけるイスラエルとパレスチナとの争いが重なって感じられたということを述べているが、その気持ちが反映されているような鮮烈な舞台であった。
 ロミオを演じた中村音心とジュリエットを演じた石川愛友をはじめとする18期生10名と、卒業生でキャピュレットを演じた10期生の中西良介、モンタギューとジョンを演じた14期生の大西遵の両名合わせて12名による若々しくエネルギッシュな舞台であった。
 上演時間は、休憩なしで1時間45分。

 


翻訳/河合祥一郎、上演台本・音楽・演出/岡本健一、美術/石原敬
12月11日(水)14時開演、新国立劇場・小劇場、
チケット:(A席)3850円、座席:C列12番


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