カズ・プロダクション公演 『リア王』             No. 2024-048

渾身(魂身)のリア王を演じる松桂太郎

 リアを演じる主演松桂太郎の集大成としての渾身(魂身)を籠めた『リア王』であることが伺える舞台であった。
 この演出者の『リア王』をこれまで随分たくさん観てきたような記憶があるので、久しぶりに観劇日記でその記録を遡って見ると意外と少なかったのにむしろ驚いた。もっとたくさん観ている気がしたのは、それだけこの演出者による上演の印象が強く残っていることの証かも知れない。
 最初の記録は、2009年、当時の彼の劇団10周年記念のひとつとして公演されたもので、その時のリア王は大谷朗が演じており、次が15周年記念の2014年で、この時は演出者自らリア王を演じている。そして最後が2018年の旺なつき主演の女優だけによる『リア王』。
 2014年の時に彼が自ら主役を演じた時には、まだリア王を演じるには若々しさが溢れていたように思われたが、それから10年の歳月の苦労なども加わって、この度のリア王は荘重さと重みを感じさせ、その台詞力には力強いものがあった。
 演出者=主演は、いろいろな事情があって変名となっているのでここでそれを明らかにすることを憚るので、チラシにある名前をそのまま用いている。
 今回の舞台では注目すべき点がいくつかあったが、主演のリアの印象を除いて強い印象、インパクトがあったのは、グロースター伯爵の二人の息子、異母兄弟のエドガーとエドマンドを女優が演じたことがまずあげられる。
 特にエドマンドを演じた君島久子が最初に登場してきた場面では、白いシャツに黒色のベスト、同じく黒色のタイツ姿で、一瞬、貴公子然としたハムレットが登場してきたように感じて大いに驚かされた。対する兄エドガーには鹿目真紀が演じた。
 道化にはこれもまた女優で、小柄な珠理日菜が面白おかしな台詞回しで好演した。
 女優たちの印象深い演技に加えて、開演とともにダンサーの踊りから始まるそのダンサー3人(根岸花、静花、吉田明莉)がこの舞台の要所要所を引き締めたのも大きな特徴の一つであった。
 最後に注目されたのは、その結末である。
 コーディリアの亡骸を抱いて慟哭するリアは、その台詞を最後に彼女に覆いかぶさって絶命する。そしてそのまま舞台は暗転し幕となる。オールバニ公爵の最後の台詞、「この悲しい時代の重荷に耐えていくほかあるまい」以下の台詞のないまま終わり、一瞬、消化不良に陥った気になる。が、見終わって時間が経つと却ってそれが強い印象として残った。
 全体的な印象としては、大きな起伏もなく直線線的な舞台展開であった。それだけに、途中に演じられるダンサーの踊りがメリハリをつけていた。
 出演は、他にオールバニ公爵に深沢誠、コーンウォール公爵にサンタ朗、ケント伯爵に井村友紀、グロースター伯爵に三角秀、オズワルドに金純樹、ゴネリルに楠真里、リーガンに伊藤藍、コーディリアに美波南海子、盲目となったグロースターの手を引く老人と医師に芳尾孝子など、総勢24名とダンサー3名。女優の出演が多く、紳士やリア王の騎士などを演じた。
 上演時間は、途中休憩10分間を入れて、2時間45分。

 

訳/小田島雄志、脚本構成・演出/カズ
12月7日(土)14時開演、座・高円寺2、チケット:5000円、全席自由


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