10月に沖縄に移住した久野壱弘が抜けて初めての沙翁劇場。心配した参加者の予約は13名あり、当日参加もあって小さな空間はほぼ席に埋まる状態で一安心であった。
シェイクスピアの初期の残酷悲劇である『タイタス・アンドロニカス』を、西村正嗣、菊地真之、高橋正彦、倉橋秀美の4人で演じた。
出演者の人数の関係で主な登場人物は、サターナイナス(西村)、アーロン/リューシャス(菊地)、タイタス・アンドロニカス/マーカス(高橋)、タモーラ(倉橋)に絞り、その他の登場人物を場面に応じて「声」として登場させ、それぞれの場で出演者のうち3人がそれぞれの「声」の人物を演じた。
台本構成の上で考えていることは、原則1時間以内に収めることを前提にし、なおかつ全体のストーリーの流れを網羅し、出演者の数を5名以内で演じられるようにするということであるが、今回はその自ら課している条件でこの作品の魅力、見せ場を入れてこの物語の全容をいかに理解できるように構成するかということに、いつも以上に苦心した。
自分でも不消化な気持を抱いていたアーロンの見せ場を十分に出し切れなかったことに、参加者の一人が観劇後の感想にそのことを惜しむ声があったのも我が意を汲んでいた。
今回は自分としても生煮えの感じでの台本構成であったので心配もしていたのだが、出演者の魅力あふれる台詞力でそれを補ってくれた、というより見事な朗読劇として仕上げてくれた。
意表をついたのは、サターナイナスを演じた西村正嗣の声調であった。これまで聞いてきた彼の声色とは異なる発声で、サターナイナスのナーバスな性格を見事に表出していたのが驚きであった。彼については、終演後の懇親会で参加者の一部から、彼の成長の著しさを讃える声を聞いて、同じように思っていた自分もうれしく思った。
悪役のアーロンを演じた菊地真之とタモーラを演じた倉橋秀美が、サターナイナスとは対照的に悪事を描き上げる声調で迫ってきたのが強烈であった。そのタモーラを演じた倉橋秀美の真っ赤な衣装も、強烈な台詞と相まって迫ってくる迫力を増幅させる効果大であった。
抑えのきいた声の高橋正彦のタイタス・アンドロニカス役を加えての4人のアンサンブルによって、血の残酷悲劇の世界を構築した朗読劇となって、自分の台本構成の心配も吹っ飛んで聴き入らせてもらった。
翻訳/坪内逍遥、監修/荒井良雄、台本構成/高木 登、演出/高橋正彦
11月27日(水)18時30分開演、阿佐ヶ谷・名曲喫茶ヴィオロン
|