舞台上には、上手側には階段のついた台座、舞台の中央奥から下手に向ってはいろんな形をした白い木々が数本並び、下手奥は楽器隊の席となっている。
末原一乃が演じるデニス(原作ではオリヴァーの従者)と宮廷人マダム・ル・ボウを演じる麻生日南子が開演を前に登場し、観客の笑いの練習などさせて気分をリラックスさせる。
開演とともに台座の上に、真っ白な衣装で妖精のような姿をしたハイメンが登場し、舞台上では緑色の衣裳を着た数名の者たちが現れ、そこでダンスが繰り広げられ、やがて登場者全員(?)が現れての饗宴の踊りの場となって観客の注目をひきつけ、始まりの3分間が勝負という蜷川幸雄が口にしていたことを思い出させる。
彼らが退場した後、オーランドーが従僕のアダムに兄オリヴァーの仕打ちに対する不満を語るところから、本来のこの舞台が展開していく。
チラシにある「あの森で、わたしに出会う」というキャッチコピーがこの劇のエッセンスを表象しているのを感じる。
シェイクスピアの「森」についてはいろいろなことが語られており、その意味合いについてはここで論じるまでもないことだが、「わたしに出会う」というアイデンティティの再発見ということに、新鮮な感覚を感じた。
今回(といよりいつものことであるが)、演技や内容もさることながら特に注目したのは、舞台美術と衣装。
宮廷の場面では、木々の色は真っ白であるが、森の場面に転じると木々は反対向きにされ、緑の葉をつけた木々へと変容され、細かな舞台道具も運び込まれる。
宮廷ではその他大勢の宮廷人の衣裳は白い服、森では緑色の衣裳で、主要な登場人物にはそれぞれ特徴のある衣装が身につけられている。たとえば、メランコリックなジェイクイズだけは、仲間から外れた人物として一人だけ真っ黒な衣装である。これらの衣裳を30名近くの衣裳部が作っているのが素晴らしい。
いまさら改めて書く事でもないが、翻訳に始まって政策におけるすべてを学生たちだけでここまで創り上げている熱気とパワーに毎回のことながら感心させられる。
シェイクスピアの劇の中でもこの『お気に召すまま』は、中心となる登場人物やテーマが学生たちにとっては等身大の人物と恋という話題で身近に感じて演じることが出来る作品の一つではないかと思う。
この劇を観終わって感じたことは、「この劇で、私に出会う」であった。それは、観劇している自分のことだけではなく、演じている出演者である学生たちの思いでもあるではないかと思う。
おもな出演者と所属の学部学年は、オーランドーが磯邉賢臣(文4)、オリヴァーが井野宏毅(法1)、ロザリンドが伊藤未祐(情コミ3)、シーリアが赤崎陽香(文4)、タッチストーンが高山悠良輝(文2)、ジェイクイズが醍醐慶喜(文4)など。
上演時間は、休憩なしで2時間。
翻訳/コラプターズ(学生翻訳チーム)、プロデューサー/阿倍ひなた(文学部2年)
演出/大友彩優子(文学部4年)、監修/西沢栄治
11月8日(金)17時開演、明治大学駿河台キャンパス・アカデミーコモン3F、アカデミーホール
座席:(招待席)15列8番
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