1992年に旗揚げして以来、ゲイであることにこだわって芝居を作り続けている劇団フライングステージが、年末のイベントGaku-GAY-kaiでシェイクスピアの作品を始めたのは2017年の『贋作・夏の夜の夢』からで、昨年までに7作品を上演している。
僕が観始めたのは2019年の『贋作・から騒ぎ』からで、以後21年の『終わりよければすべてよし』、22年の『テンペスト』、23年の『お気に召すまま』。今回は、年末ではなく、しかも過去に上演した2作品を一挙上演。
『贋作・十二夜』は2020年初演(この時は情報不足で見逃している)、『贋作・冬物語』は2018年が初演で、まだ僕がこのシリーズを知らなかったときであった。両作品とも今回初めて、しかも一挙に観ることが出来、ラッキーでもあった。両作品を観劇して感じたことは、両方とも刺激的な舞台であったという感想で、とにかく、面白く、楽しんで観ることが出来た。
両作品を一挙に観た感想を一言で言えば、『贋作・十二夜』は直球、『贋作・冬物語』は変化球の印象であった。
両作品の共通したテーマとして「同性婚」があるが、つい1日前の10月30日に東京高裁で、「同性婚」を認めない民法や戸籍法の規定を「違憲」とした判決が出たのも偶然なタイミングであった。
●『贋作・十二夜』 No. 2024-039
場所は、オーシーノ公爵が治めているイリリアは新宿2丁目、ヴァイオラとセバスチャンは武蔵小杉の出身という設定で、開演の場面は原作通りで、オーシーノの館で彼が音楽を聴いているところから始まる。ただその音楽は、二人のアイドルと二人の部下であるキューリオとヴァレンタインの4人が歌っている(実際には音楽が流されているだけ)ことで表現される。
その場面が転じると、2場の嵐の場面でヴァイオラとセバスチャンの二人が別れ別れに流される様子が舞台上で可視化され、その後一転し、ヴァイオラと船長が登場し、ヴァイオラが男装してオーシーノに仕えることを決心する。このように全体の流れは原作にほぼ忠実に従って展開していくので、原作を知っていると分かりやすい。
原作の設定と大きく異なるのはオリヴィアが女装であるということと、オリヴィアの叔父トービーが女装していることや、フェービアンが男性ではなくオリヴィアの侍女となっている点で、内容的な面で「贋作」としての改作は、セバスチャンはオリヴィアが女装であることを知っても結婚する「同性婚」や、アントーニオがセバスチャンに恋をしていることなど、ゲイの芝居ならではの設定がなされていることであった。
オリヴィアの執事マルヴォーリオは、マライアの贋手紙で黄色いウィッグをかぶり、赤いハイヒールを履いて女装した姿でオリヴィアの前に現れる。ただこの劇で救われるのは、彼が騙されたことを知って復讐を誓いながらもオリヴィアの結婚には祝福の言葉を述べて立ち去って行ったことで、後味の悪さが薄められていたことであった。
『十二夜』として初めて目にしたのは、シザーリオとして男装していたヴァイオラが純白のウェディングドレスに着替え、二組のカップルがめでたく結ばれ、最後は彼らの後ろ姿が静止した状態で暗転して終わったのも珍しい演出として鮮やかな印象を残した。
出演は、オリヴィアにエスムラルダ、マライアにオバマ、トービーに岸本啓孝、アンドルーに水島和伊、フェステに木内コギト、ヴァイオラにモイラ、オーシーノにさいとうまこと、セバスチャンに野口聡人、セバスチャンを導く謎の女装の女神に関根信一など、総勢15人。
上演時間は、休憩なしで1時間40分。
●『冬物語』 No. 2024-040
変化球たる所以はかなりある。場所設定は、レオンティーズが治めるシチリアは歌舞伎町に、そしてポリクシニーズの治めるボヘミアは新宿2丁目に変えられている。
開演と共に、二人の登場人物が華やかに歌い、それに合わせて同じく登場人物を演じる4名がダンサーとして登場して躍る。これは、ポリクシニーズを歓迎しての余興として、そこから舞台は展開していく。
レオンティーズとポリクシニーズは幼なじみとして、お互いをレオ、ポリと呼び合う仲である。
ハーマイオニが獄中で産んだ子は原作とは異なり、男の子。しかし、その子はパーディタと女の子の名前が名付けられる。パーディタはアンティゴナスによって新宿2丁目の海辺に捨てられ、酒屋の親子によって拾われた後、「時」によって一挙に16年の歳月が過ぎ、新宿2丁目のレインボー祭りの場となる。
オートリカスは女装のオートリランとして登場し、物売りではなく、若い男子を騙してゲイバーに売り飛ばすのを商売にしていて、酒屋の息子も彼にひっかかる。
最も原作と異なってくるのは、ポリクシニーズが同性婚者で、フロリゼルはポリクシニーズの2番目の相手との子であったが、その相手も今は亡くなっている。従ってフロリゼルはポリクシニーズの実子ではない。
ポリクシニーズは、自分をレオンティーズの嫉妬の怒りから救ってくれたカミロにプロポーズするが、カミロは、今は悔いているレオンティーズのもとに戻りたいと考えているので返事を保留する。
石像のハーマイオニが動き出す場面で、最後に彼女が実は女装であったことが明らかにされる。そうなるとマミリアスやパーディタは彼女(彼)の産んだ子ではないことになる・・・。
フロリゼルは女装と承知してパーディタと同性婚することによって初めて父親の気持を理解し、父と和解する。
無事世継ぎとしてのパーディタを得、ハーマイオニとの再会を果たしたレオンティーズは、ポーリーナの再婚相手にカミロを指名するが、カミロはその場に及んでポリクシニーズのプロポーズを受ける。まさに変化球の連続である。マミリアスやパーディタ、それにフロリゼルの本当の親は誰なのかなどは謎のまま。
この劇は、冒頭の歌と踊りの場面に始まって、ハーマイオニを演じるエスムラルダの独唱、レインボー祭りでの歌と踊りなど、歌と踊りで耳と目を楽しませてくれたのも特徴の一つであった。
出演は、『十二夜』の出演者と同じであるが、レオンティーズに中嶌聡、ハーマイオニにエスムラルダ、ポーリーナに関根信一、カミロにとつかおさむ、ポリクシニーズに木内コギト、その部下の女装のアーキデーマスにオバマ。フロリゼルに野口聡人、パーディタにモイラ、女装のオートリランに岸本啓孝、パーディタの父と言われる酒屋にさいとうまことなど、同じく15名。
上演時間は、休憩なしで1時間50分。
今年は一足早くフライングステージのGaku-GAY-kaiのシェイクスピア劇を楽しむことができた。気になるGaku-GAY-kaiの年末の出し物は、チェーホフの『贋作・桜の園』だという(12月29日~30日、Theater新宿スターフィールドにて)。これもまた楽しみ。
作・演出/関根信一
11月31日(木)14時開演、『贋作・十二夜』;19時開演、
『贋作・冬物語』、座・高円寺1
チケット:(2作通し券)6500円、全席自由(両演目とも、最前列中央で同じ席を確保)
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