舞台を観る前にキャスティングに目を通すと、若い俳優さんの多いのにまず注目した。そしてパック役が5人もいるのに驚かされた。舞台の上では名前がいちいち名乗らないが、パンフレットには一人一人のパックに名前がついていて、パック・パック、エルフ・パック、コブリン・パック、フェアリー・パック、そしてピクシー・パックとある。
劇中、妖精たちに混じってダンスを踊る4人のダンサーにはパンダの名前から取って、リンリン、ランラン、フェイフェイ、チュチュと名付けられている。
これらの名前はパンフレットに示されているだけで劇中では一切名乗られることはないが、このカンパニーの主宰者である石山雄大は自分の年齢を考えて、『夏の夜の夢』を上演するのは今回が最後となるだろうということでキャスティングしたと述べており、そこに遊び心を楽しんでいるのが伺える。
今回の舞台は、いろいろな意味で対立軸を際立たせる工夫がなされていると感じた。
『夏の夜の夢』は、人間の世界と妖精の世界、貴族と庶民、昼と夜の世界、宮廷と森、などなどの二つの対立世界がある。今回は、そこに若者の世界と老年の世界が加えられているように思えた。
その対照的世界の特徴を引き出すのに舞台装置が大きく寄与していて、宮廷の場面は背景に大きな石柱で表象され、職人たちが住む村には木造の家屋を舞台下手に据え、妖精たちの棲む森は、鬱蒼とした木立を背景にしている。それらの舞台装置は、場所に応じて適宜変化される。
キャスティングでは、年齢差の違いが目を引く。アテネの貴族たちをはじめ妖精たちは一様に若い俳優が演じているのに対し、アテネの職人たちを演じるのは、クインス役の千葉誠樹が56歳、ボトム役の鈴木吉行とフルート役の大槻ヒロユキが60代、スナッグ役のドンキーGが72歳、そしてスナウト役の側見民雄とスターヴリング役の石山雄大が80代と、熟年と老年組が務める。
自分の年齢も老年組に属するからというわけでもないが、劇中の演技の中でも、このアテネの職人たちの演技が一番自分に近しく感じられ、楽しんで観た。
アテネの職人たちが演じる劇中劇の『ピラマスとシスビーの悲劇』では、主人公たちが死ぬ場面で流される音楽が、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲とピアノ協奏曲で、バックミュージックというより音楽そのものが主人公の如く大音量でその場の効果を盛り上げていたのも大きな特徴のひとつであった。
アテネの職人たちの中では、ボトムを演じる鈴木吉行の溌溂とした演技が光っていたのに対して、いかにも老人という感じで動きも鈍いスターヴリングを演じた石山雄大が対照的で印象深かった。
妖精たちの世界では、妖精たちとダンサーたちによるダンスと音楽をふんだんに用い、舞台全体が華やかであった。若者たちの中では、ハーミアを演じる森田萌依がライサンダーから、彼女にその身体的特徴からありとあらゆる悪口を浴びせられる場面などが、原作にはないところで、ここまで言うかと、ドキッとさせる面白さがあった。
シーシュース公とヒポリタの役、オーベロンとタイテーニアの役は別々に分けられていたのも特徴の一つで、オーベロンを演じた南翔太とタイテーニアを演じたなつ季澪がこの舞台としての主演として、総勢、30人の出演。
上演時間は、休憩なしで2時間10分、華やかな舞台の雰囲気と、一味異なった『夏の夜の夢』を楽しませてもらった。
訳/小田島雄志、構成・演出/石山雄大、美術/寺岡 崇
10月2日(水)14時開演、池袋、シアターグリーン・BIG TREE THEATER、
チケット:6000円、座席:D列9番
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