オペラシアターこんにゃく座公演、新作初演 オペラ 『リア王』   No. 2024-032

 会場に入ってまず目に入ったのが、舞台中央に置かれた直径1mほどの球体と舞台上手の、2m四方ほどの錆びて曇ったようなマジックミラー。天井には金属質の光沢をした矩形の枠が舞台上空に斜めに張られている。
 オペラシアターこんにゃく座はこれまでにもシェイクスピア劇をオペラにした劇を6作ほど公演してきており、この『リア王』は7作目となる。自分が観たことがあるのは、2007年の『オペラ クラブ マクベス』(2016年の再演も観ている)と2008年のあちゃらかオペラ『夏の夜の夢~嗚呼!大正浪漫編~』。
 オペラ『リア王』の舞台は登場者全員による「ばかのパレード」(パンフレットによる)で始まる。道化二人はくるくる巻いた羊の角のような帽子をかぶり、他の者たちも道化の三角などを被っている。
 'fool'は「道化」と訳されるのが普通であるが、ここでは文字通りの「ばか」として表現され、終わって見れば舞台上の人物も観客も「道化」として交錯していたことを感じさせる。が、それは観終わったその時の感想ではなく、この劇を観て一晩過ぎた後、振り返って見たときに感じたことであった。
 劇が始まると、中央の球体は天上まで引き上げられ、その球体は劇の進行中、場面によって異なった色彩を発光して雷鳴を表象したり、上下させられことなどで内面的心理の揺れを感じさせる。
 「ばかのパレード」の後、舞台中央の大きな「盆」の上一面に、ブリテンの地図を描いた布が広げられ、リアの国譲りの場面へとすぐに移る。
 登場人物の台詞は当然のことではあるがオペラ風の謡う口調であるので、リアのコーディリアに対する怒りなどの表現も普通の劇のような緊迫感を感じず、しばらくそのテンポになれるまで緊張感に欠けて退屈ささえ感じたのだが、次第に引き込まれていった。
 印象に残ったこの舞台の特徴をいくつか挙げると、道化が一人ではなく二人で演じられたこと、そしてケントの変装や、エドガーの変装が劇の途中でその正体が見破られる、あるいは故意に表すシーンを入れていたこと、グロースター伯も最後の最後まで舞台上に生き残っていて、エドガーとエドマンドの決闘はエドガーがいきなりエドマンドを刺し殺し、ゴネリルは自殺でなくエドガーに殺される。
 何よりも印象深かったのはエンディング。オールバニー公爵の最後の台詞で終るのではなく、リアが少し後ろに反り返るような姿勢で「裂けろ!」という絶命の声で暗転し、あとは深い闇の中となる。
 そして、しばらくした後、明かりがついてカーテンコールとなる。このように休憩後の後半部の舞台はオリジナルを少し変化させていたのが特徴であった。
 この劇を知らない人にはオールバニー公の最後の台詞(版本によってはエドガーの台詞となる)がないことに気付くことはないであろうが、自分にとってはこの最後の台詞がない事がかえって非常に強いインパクトを与えた。
 この公演では、リアの三人の娘、ゴネリル、リーガン、コーディリアの役のみがダブルキャストで、自分が観た初日の舞台はAチームで、その3人を、鈴木あかね、豊島理恵、小林ゆす子が演じた。
 その他の主な出演者は、リア王に大石哲史、ケント伯爵に佐藤敏之、オールバニー公爵に富山直人、コーンウォール公爵に北野雄一郎、グロースター伯爵に高野うるお、エドガーに泉篤史、エドマンドに島田大翼、オズワルドに彦坂仁美、そして道化1に金村慎太郎、道化2に沖まどか、など。
 上演時間は、途中15分間の休憩を入れて、2時間35分。

 

小田島雄志訳による、作曲・音楽監督/萩京子、台本/萩京子・上村聡史、演出/上村聡史、
美術/乗峯雅寛、衣装/宮本宣子、9月13日(金)17時30分開演、吉祥寺シアター
チケット:(夜トク)5000円、パンフレット:500円、座席:G列7番


>> 目次へ